第2話
「な……何コレ!?」
柚乃は何が起きたのか理解できない。
「お願い! コイツを倒して! 私を助けて!」
混乱していた柚乃の意識を戻したのは、先ほど鍵を投げ渡してくれた少女の助けを求める声だ。
「で、でも、どうしたらっ」
「その手にあるロッドを上手く使って!」
よく見ればいつの間にか、柚乃の手には宝石をあしらわれたロッドを持っていた。
柚乃がグッとロッドの柄を握りしめれば、飾りの宝石がふわりと光って柚乃を勇気づけるのだった。
「くそ。厄介なことをしやがって……!」
男は悪態をつくと、再び手を柚乃の方に向けた。
ビュオオと辺りに風が吹き始める。
「吹っ飛べ!!」
男がそう叫んだ瞬間、柚乃はロッドを構えた。
「シールド!!」
柚乃の前に淡くピンク色に輝くシールドが展開され、突風から柚乃の身を守った。
男は「チッ」と舌打ちすると、腰から下げていたサーベルを構える。
「消え失せ……」
男が言い終わるより先に柚乃が動いた。ロッド全体が淡く光に包まれており、柚乃がロッドで男のサーベルを勢いよく振り払う。
カンッ!
サーベルは男の手を離れ、後方へ飛んでいった。
男は呆気にとられた表情で何も掴んでいない自身の手を見ている。
そして、すぐに柚乃の方を見て、鬼のような形相になった。
「お前っ……! ちょっと痛めつけるだけのつもりだったが、ぶっ殺してやる!!」
男は馬乗りしていた少女から離れ、ダガーを取りだして柚乃に襲い掛かる。
柚乃はロッドを構え、再びシールドを展開した。
男はギリッと歯ぎしりをすると、ダガーを持っていない方の手で拳をつくる。拳が赤い光を帯び、男は力いっぱい柚乃のシールドを殴った。
バリンッ
砕け散るシールド。
柚乃は後方へと下がると、腰飾りのベリーピンクのリボンを紐解いた。
リボンに魔力を通せば、風で揺れる柔らかそうなリボンの質感が一瞬で鞭のような質感へと変化した。
柚乃は鞭のように変化したリボンを男の足元に目掛けて振った。
「うわっ!」
鞭のようなリボンに足を払われた男はバランスを崩して柚乃の前で倒れ込んだ。
「クソッ!」
男は急いで起き上がろうとするが、柚乃がすかさずリボンの鞭を振り、男を立ち上がらせない。
そして、柚乃はもう一度リボンに魔力を加えると、リボンは意志を持った生き物のように動き出した。
獲物を絞め殺す蛇のように、リボンは男の体に巻き付いていく。
先ほどまでの殺意に満ち溢れていた態度から一変、男は青ざめた顔で「ひっ」と声を出した。
柚乃は「ふふ」と笑った。
今の柚乃は、たいへん気分が高揚していた。この姿に変身してから、どんどんと体の奥底から力が湧き上がり、なんでもできそうな気分になっているのだ。
柚乃は地面に転がる男を見下ろしていた。
「消え失せろとかぶっ殺してやるとか言ってたから、どんなものかと思ったら……案外、大したことなかったね? 笑っちゃうわ」
男は「コイツ……!」と、怒りに満ちた目で柚乃のことを見てくるが、ちっとも怖くなかった。
「あなたにぴったりの魔法を贈るわ」
柚乃はロッドを男の方に向けた。
「邪魔者は失せなさい」
突風が男を襲う。
あっという間に男は空へ飛ばされ、姿は見えなくなった。
「まぁ……あなた、とっても強いのね」
柚乃がくるりと後ろを振り向けば、例のお姫様のような格好をした小さな少女が宙に浮いていた。
男に馬乗りされていたときは、少女の背中側が砂場に埋まっていたのでわからなかったが、よく見れば、少女の背中にはガラス細工でできたような綺麗な羽が生えていたのだ。
「え、妖精?」
柚乃が思わずそう言えば、少女はニコッと笑って頷いた。
「そうよ。わたしは妖精。ガーベラという名前なの。あなたの名前は?」
「守谷柚乃です」
「ユノちゃんね。素敵な名前ね!」
「あ、ありがとうございます。それにしても……どうして妖精がこんなところに?」
柚乃がそう尋ねれば、ガーベラは片手を頬に添えて首をわずかに傾ける。そして、ちょっぴり困ったような表情になった。
「それはねぇ……うーん、説明すると長くなっちゃうわ。どこかで落ち着いて話をしたいのだけど……」
「それなら、わたしの家はどうですか? すぐ近くなんですけど」
「そこがいいわ! さっそく案内してくださる?」
「あの、案内する前に一つ……これ、どうやったら姿が戻るんでしょうか?」
柚乃はふりふりのスカートの裾を持ち上げて、ガーベラの方を見た。
「あぁ。耳飾りになっている水晶の鍵に触れてみて。そうすれば、変身が解けるはずよ」
ガーベラに言われた通り、水晶の鍵に触れると柚乃は光りに包まれ、可愛いコスチュームから、見慣れた中学校の制服へ、普段通りの姿に戻った。
「ふぅ……なんだか、すごく疲れたな」
ドッと疲労感が柚乃を襲う。体がずっしりと重い。
「ユノちゃんの秘められた力を急に解放したから、体に負担がかかっちゃったのね」
ガーベラに色々と聞きたいが、それはひとまず柚乃の家に着いてからである。
帰宅した柚乃はガーベラを自室へ連れて行く。
「やっと腰を落ち着けることができたわ〜」
ガーベラはさっそく部屋にあったふかふかクッションにちょこんと座った。
「それで……妖精がどうしてここに? それに、あなたを襲ってたあの男は誰?」
「わたしはね、この人間界に散らばってしまった秘宝を回収に来たの。そして、あの男は……わたしの国を襲った魔王の手下よ」
「秘宝? 国を襲った魔王?」
柚乃は首をかしげる。
ガーベラは「なにがなんだかわからないわよね」と言って苦笑する。
「ちゃんと順番に説明するわ」
ガーベラは背筋をピンと伸ばしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます