セリフがちょっと悪役じみてる魔法少女
天石蓮
第1話
「命乞いしても無駄よ」
ひらひらのピンク色の衣装を纏った一人の少女がきらきらと輝く宝石をあしらわれたロッドで、ぐりぐりと真っ黒な獣の額を押しつける。
「ガ、グゥウ……!」
獣は苦しそうに呻き、身をよじれば少女はふっと笑った。
「もっと縛り上げられたいようね?」
獣をぐるぐると縛っていたピンク色のリボンがギュッとより強く獣を縛り付けた。
「ギャウンッ!」
少女はロッドを持つ手に力を込めた。
「ここまでよ」
ロッドの宝石がピンク色に輝き、その光は獣を包んだ。
光が消えれば、獣を縛り上げていたリボンすら残さずに全てが消えていた。
少女は、ふぅと息を吐いた。
そして、公園の遊具の陰に隠れているある人の元へ近づいた。
「ガーベラ姫、ご無事ですか?」
ひょこっと顔を出すのは、人形のように小さな少女だ。背中にはガラス細工でできたような綺麗な羽がパタパタと動いている。
「えぇ、大丈夫よ! ありがとうね」
ガーベラ姫と呼ばれた小さな少女は、ふんわりと笑みを浮かべてそう言った。
「礼など不要ですよ。ガーベラ姫がご無事なら良かったです」
「本当に頼りになるわ。そう、頼りになるんだけど……」
「……だけど?」
「戦っているときのあなたの、セリフが悪役っぽいの、なんとかならないかしら」
「……すみません。テンションが上がるといつの間にか」
「あぁ、そんな申し訳なさそうな顔しないで。絵面がちょっと微妙になるだけで、大した問題はないもの」
少女は、右耳のイヤリングの飾りである、水晶で出来た小さな水晶の鍵に触れた。
白い光が少女を包み、光が消えると、そこにはどこにでもいそうな女子中学生がいた。
少女は手の中にある小さな水晶の鍵をガーベラ姫に渡した。
「それじゃあ、帰りましょうか。ユノちゃん」
「そうですね」
ユノこと、守谷柚乃。中学2年生。彼女がガーベラと出会ったのは今から一ヶ月前のことだ。
「家に帰ったら、まず宿題して……それが終わったら何しようかな」
学校からの帰り道。柚乃は軽い足どりで通学路を歩いていた。今日は部活がお休みの日だったので早く帰れるのが嬉しかった。
図書室で借りた本も読みたいし、好きな配信者の動画も見たいし、最近ハマった編みものもやりたい。
やりたいことを色々と頭の中で思い浮かべていたそのときだった。
「助けて!! いやぁ!」
住宅街に突如として響き渡る叫び声。
柚乃はハッとあたりを見回す。どうやら近くの公園からだ。柚乃は防犯ブザーを握り締め、公園へと走った。
「大丈夫ですか!?」
柚乃はついに事件現場に辿り着いたのだが、想像してたのとは少し違う状態で、柚乃は思わず「え」と言って立ち止まる。
公園の砂場でもみ合っている男と少女。だが、そのサイズがおかしい。二人とも人形のような小さなサイズなのだ。
服装もまるでおとぎ話から飛び出してきたような格好をしていた。少女の方はお姫様のような豪華なドレスを着ているし、男の方は兵隊のようなカッチリした服を着ている。
「いや! 離して!」
男に馬乗りされた少女はそう叫び、何かを必死に取られまいとして腕で守っている。
「さっさとそれを寄こせ!」
男はそう言って力ずくで少女から奪い取ろうとし、少女の抵抗が緩まないとわかると、少女の顔を殴ろうと拳を振り上げた。
柚乃は目を見開き、気がつけば叫んでいた。
「だめ!!」
男と少女がこちらを見る。柚乃は意を決して一歩前に出た。
「その女の子、嫌がってるじゃない。早く離れなさい!」
柚乃がさらに近づこうとすると、男はスッと柚乃の方に手を向けた。
「邪魔者は失せろ」
突風が柚乃を襲う。
「きゃっ!」
立っていられなくなった柚乃は尻もちをついた。突風はいつまでたっても収まらず、柚乃は動けずにいる。
「さぁ、秘宝と鍵を渡せ!」
男は再び少女が手にしている物を奪おうと手を伸ばす。
少女はキッと男を睨みつけた。
「アンタには絶対に渡さないわ!」
そして少女は、柚乃の方を見た。
「そこのあなた! これを受け取って!!」
少女が何かを投げた。
柚乃が上手くキャッチし見てみれば、細いチェーンには小指の爪ほどの小さな鍵が付いていた。水晶か何かで作られた物のようで、カッティングが施されていてキラキラと輝いている。
しかし、これを受け取ったはいいものの、どうしたらいいのだろうか。
柚乃が困った表情で少女の方を見れば、少女は叫んだ。
「秘めたる力を解放せよ、と言って!」
柚乃は鍵を握り締め、少女に言われた通りの言葉を唱えた。
「ひ、秘めたる力を解放せよ……!」
真っ白な光が柚乃を包んだ。
ゆるふわの金髪はハーフツイン。胸元には花型の宝石のブローチがキラリと輝く。
パニエでふんわり広がるフリルスカート。腰にはベリーピンクの大きなリボン。
エナメルピンクのヒールに、レースのショートグローブ。
そして、左右でデザインの違うイヤリングを着けていた。左耳には、金メッキの小さな花の飾り。右耳には、あの水晶で出来た小さな鍵がイヤリングの飾りになっていた。
ふわふわ、ひらひら、きらきら。そんな表現がぴったりの衣装に身を包んでいるのは柚乃だ。
「な……何これ!?」
柚乃の動揺を隠しきれない声が公園に響き渡る。
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