第二章 いざミュンヘンへ

 ロンドンに着いた一行は、まず街の名物を体験しようと案内人に連れられて食堂へ向かった。

 机に置かれたのは、半透明のゼリーの中に閉じ込められたウナギ。

「これがロンドン名物、ウナギのゼリー寄せです」

 その言葉と同時に、黒田の胃がきしむ音が聞こえた気がした。

「……あかん……」

 次の瞬間、黒田は通りの桶へ突撃し、キラキラを盛大に披露した。

「大丈夫か黒田!」殿下が背中をさすりながら心配する。

 だが、まだ試練は終わっていなかった。

 店員が続いて運んできたのは、魚の頭が突き出したパイ。

「スターゲイジー・パイでございます」

 魚の目がこちらをじっと見つめている。

 黒田は目が合った瞬間、再び胃が決壊した。

「ダブルノックアウト……!」と石山が思わず呟いたほどだ。

 殿下は苦笑しながら、「兵隊は銃弾には耐えても、未知の食文化には勝てんらしい」とぼやいた。

 一方田代はと言えば、ゼリー寄せを前に「これ、羊羹みたいに固めたらワンチャン……」と真剣に研究していた。

 黒田は、パンと、白魚を揚げたものを頼むといい、噴水に直行した。——ちなみに、これは、フィッシュアンドチップスといい、イギリスでは下処理をしないのですごく生臭いのさ。——さて、噴水に行った黒田はどうしたか……。お察しの通りである。その後店に戻ってきた黒田は、フィッシュアンドチップスを食べ嗚咽したが、なんせ出すものがもう何もないので、出てこない。殿下は少しホッとし早く食べるよう促した。宿はいいとこを取ってあるから安心しろと……。グレートブr、ゲフンゲフン、イギリスの誇りアールグレイが置いてあるはずだ。黒田はその一言で、また出そうになった……。まあ、なんやかんやでご飯も食べ終わり、宿に行った一行。もちろん殿下もいるのに加えて今回は大日、ゲフンゲフン、日本の代表としてきているので、ホテルで一番いい部屋に泊まらせてもらった。一番いい部屋では何だろうか、今あのうざったるい海軍が血眼で建造している戦艦並みの絢爛豪華な内装がしてあった。ちなみにその戦艦についてだが、世界一大きくなる予定だと殿下が話していた——なんかその戦艦鹿児島沖で沈んでそう……そして、〇ⅯMのゲームで美少女にリメイクされてそう――。石山は、俺北海道いって屯田兵にこのこと話して自慢したいぜーと突拍子のないことを言っていた——ちなみに札幌市の南区には実際に石山という、地名がある。——。黒田は内装を全く見ていなかった。なぜなら、具合が悪くずっとベットにうずくまっていたからだ。ふと、お茶のいいにおいがするなと思った黒田はキッチンのほうを見る。すると、殿下が紅茶をどこぞの杉下〇京さんみたいに注いでいた——黒田、紅茶の匂いは行けるのか!――。殿下は黒田に「具合は大丈夫か。」ときき、紅茶を差し出したちなみに石山と田代は隣の部屋で寝間着に着替えて寝ている。おっと、内装の話をしていなかった。内装は大砲の代わりにシャンデリアが飾られ、測距儀の代わりに大きなバスタブが置かれている。

 さて、朝、港に向かって出発しようとしたところ、一人の記者に出会った、彼の名は...。  四月一日一郎である。四月一日氏はぜひこれから日本に帰るまで同行させてくれないかと頼み込んできた。殿下は、領事館に行くぞと言いそのまま消えてしまった。黒田は急ぎ殿下の後を追い、領事館についたころには殿下が、皇族特有の絶対的地位で、電信機を使わせてもらっていた。-・・・・--・-・-・-・-・--・-・・・・・-・・-・--・-・・--・-・・・-・・・・・・-----・・--・-・・・-・・-・・-・・・-・・-と送っていた。殿下曰く「ダイサン シラカワ キシャドウコウキョカモトム」と送ったらしい。10分程度して陸軍第三師団本部から超高速で返ってきたのは、-・・・・--・-・-・-・-・--・-・---・--・-・・・-・・。殿下も高速すぎてよくわからなったようで「――サン シレ― キョカ」しか読み取れなかったそうだ。第三師団司令からの返答を聞き終わった殿下たちは、港に急いだ。乗員名簿を見た瞬間、艦長は顔を青ざめさせ、慌てて甲板に駆け上がった。風に煽られた帽子を押さえながら、港のざわめきに負けない大声で叫ぶ。

「Wait! The most important passenger hasn’t boarded yet!」

 甲板の乗組員たちが慌てて動き回り、岸壁の作業員もこちらを見てざわつく。黒田も殿下も、一瞬何が起きたのか理解できなかったが、艦長の声と周囲の慌ただしさで、事態がただ事ではないことを悟った——この艦長にもう一度、しかも、意外な場所で会うことになるとはだれも思っていなかった——。そんな艦長さんの不自然なくらい大きい権力で何とか間に合った?四人プラス四月一日氏は、フランスに向けて出発した。

 船はそのままドーバー海峡を越えようとしていた時、もちろん黒田はダウンしている。まあ、半日もあればつく航路なのでそんなに設備は充実していない。黒田は、マルセイユの港に着いた瞬間に具合の悪さはどこに行ったのか。おおはしゃぎでタラップを降りて行った。

 四月一日氏はカメラで、船がいい感じに映るよう港の風景を撮っていた——筆者はカメラで航空写真を撮るのが好きでソ〇ーα6000のダブルレンズキットを持っているのだがこれがまた面白いのである——。

 フランスで、まず最初に彼らがやったことは、もちろん腹ごしらえである。殿下は腹が減っては戦はできぬと、田代は、羊羹売ってねぇかなーと。石山はそんなもん売ってるわけねぇだろと突っ込んでいた。ちなみに、食事代は四月一日氏持ちだ。四月一日氏のおすすめで、日本料理店に入店した。四月一日氏のおすすめで、日本料理店に入店した。店内に入った瞬間、数か月前の思い出がフラッシュバックする。配属初日、二人で一緒に怒られた日々、そして勤務先の基地等。なぜなら、この店、第三師団グッズで埋めつくされていたのだ。メニュー表は筆文字で書かれ、注文にはモールス信号を用いる凝りようだ。そして、誇張された連隊長の肖像画もある。その一番新しいところには桜澤連隊長の文字があった。ちなみにメニュー表の裏表紙の所には小さく歴代連隊旗手の名の中に白川院尊光という名前が紛れ込んでいた。黒田は、ある意外なことに気が付いた。テーブルの端に小さく「日本円で支払い可」と書いてあったのだ。殿下はにこやかに、「ドイツの通貨と両替してくれか」と頼み、四月一日氏に日本の紙幣を握らせた。四月一日氏は、10年ぶりに日本の紙幣を触っていた。感無量である。やはり日本の紙幣が一番だ。インクの香り、すべすべとした手触り、そして日本の伝統技術を使った偽造防止策、日本のすべてが詰まっているといっても過言ではない。四月一日氏は、ひとと故郷に思いをはせていた。

 料理が運ばれてくるまで、みんなで「ドイツ側の将校ってどんな人が来るんですかねぇ」と興奮気味に話していた。石山は目を輝かせ、田代は手を叩きながら想像を膨らませる。黒田は少し顔をしかめつつも、殿下は微笑みを浮かべ聞き流していた。料理を食べ終え、勘定をしようとしたとき、話を聞いていた店主がふと口を開いた。「お前らさんたち、ドイツ軍の兵隊さんに会うんだろ?」そう言うと、店主は奥さんお手製の明治45年制式制服のレプリカを3着、軍帽も同数、しかも両方黒田たちの名前入りで差し出した。ついでに、将官を除く士官用階級章も各2セットずつ持たせてくれた。そしてさらに、「これも持ってけ」と言って、ドイツ軍将校の家族向けに純銀のメダルを渡してくれた。手のひらサイズながら品格があり、贈答用にぴったりである。さすがにここまでいただくと申し訳なく、黒田たちはメダル代だけを支払った。軍服代も払おうとしたが、店主はにこやかに「いい、気にするな」と一蹴。店を出るとき、黒田たちは敬礼しながら出て行った。敬礼の時、店主は腕が下がっていたので、どうやら海軍出身らしい。思わず小さく笑みを浮かべつつ、胸の奥で「いや、さすがは第三師団……」と呟いた黒田であった。

 第三師団グッズだらけの日本料理店shogunを後にした一行は、地域で一番大きな駅、まあ、当時の札幌駅程度の大きさの駅にて乗車券と急行券を買い、フランス東部の要衝ストラスブールに向かった。車内では、四月一日氏が記者魂を燃やし、黒田たちを質問攻めにしていた。どのようなルートでここまでたどり着いたのか、道中どうだったか、あと、何をして過ごしていたかだ。黒田と殿下は御察しの通り黒田がダウンしたためどこにも行ってないが殿下が機転を利かせて船内でパーティに参加していたといってくれた。これで黒田が日本に帰れないことはないだろう。検札のとき、殿下は何か嫌な予感がした。その予想はすぐに当たることになる。そう、通訳を連れてきていなかったのだ。欧米の背の高い金髪の車掌に「Vos billets, s’il vous plaît !」といってきた。何を言っているのかわからなかったが切符出し手みたいなことを言われてるんだと思った黒田たちが切符をなかなか出せずに苦労していた時、殿下がとんでもないものを出した。殿下のパスポートが周りのとは違のだ。黒田たちにとっては今更感半端ないが、初めて会う人にとっては怪しさ満点である。車掌が恐る恐るパスポートを開けると車掌はまず最初に顔写真が乗っているページを開いた。そこの背景には薄く「Member of the Imperial Family of Japan」の文字が刻まれていた。それを見た車掌は一応住所のほうも確認した。そこには「Imperial Palace, Chiyoda, Tokyo City, Empire of Japan」と書かれており、車掌がまるで謝罪する時の政治家のように深々と頭を下げパスポートを返した。そして、切符ありますよね片言の日本語で話した。殿下はいつもの笑顔で「Yes,I have.Perform your duties」つまり切符ありますよ。職務を遂行したまえと急に皇族っぽいことを言うもんだから驚いた。ストラスブールに到着する時刻になったが一向につく気配がない。何故かって?欧米では15分遅れるのは当たり前、定時に到着したら天変地異が起きるといわれてるくらいだ。そこから、30分くらいたって、ようやくストラスブールに着いた。途中、殿下が車掌を詰めに行こうとしていたので、みんなで止めたがあの時の殿下が一番怖かったまであるな。ストラスブール駅では、みんな、俺たちを先に行かせようとしていたがあれは何だったんだろうか。まあ、ありがたくお先に行かせてもらった。ストラスブール駅では、ガタイのいい軍服姿の男と、ひょろっとした、金髪の男が出迎えてくれた。ちなみに軍服を着ている男のほうは敬礼していたので条件反射で返してしまった。あの人軍人だよね……。

 金髪の男が「あなたたちが日本から派遣されてきた、使節の方々ですね。」と流ちょうな日本語を話すので黒田たち一行はさぞ驚いた。そんな彼の名はカール・ホフマン。庶民の家で生まれ育ったそうだ。経済的に余裕がない家だったので、高校までしか行かせてもらえなかった。しかし、数年働きその間にためたお金で大学に進学、大学では日本語を専攻とし、東京に留学に行った実力者だ。その横にいるのがヴィルヘルム・クラウゼ中尉だ。黒田たちより1年早いタイミングで陸軍士官学校を卒業した。今は、黒田と同じ小隊長をしている。ホフマンさんが、「まだ、鉄道ですよ。鉄道でベルリンまで行きます。」と言い、向こう側の小さなホームに停車している3両編成の列車に案内してくれた。中は、帝国ホテルのような豪華な内装が施されており、殿下は慣れた様子だったが、田舎育ちの黒田にとってはこれが、人生で初めての体験だった。首相の執務室のような空間に案内され、今後の旅程を説明された。次の目的地はカールスルーエ、そこから車でシュトゥットガルトまで行き、最後に夜行列車でミュンヘン——ミュンヘンと言えば筆者の住む札幌市と姉妹都市なのである。家の近くにはミュンヘン大橋がある。——まで行く行程だ。そして、申し訳程度のベルリン観光が入っている。前は機関車、真ん中執務室、では後ろの車両は何だろうか。そう、寝台車である。ストラスブール駅周辺には現代でいう民泊とビジネスホテルのようなものしかなく、とても他国の下級といえど将校を迎え入れられる宿がなかったのだ。なので、ドイツ国鉄ストラスブール車両区から引っ張り出した一等寝台車をつないでいるのだ。後こちらのほうが警備がしやすいというのもある。日本側の面子も全員、護身用の拳銃は所持しているので、いざという時、自衛は可能である。こんなくだらない話をしている間に日が暮れてしまった。となれば、することは一つ、夕食である。夕食はクラウゼ中尉おすすめのフランス料理店La Couronne d’Alsaceに入店した。店外には王冠を模した看板があった。入店と同時に給仕が一斉に頭を下げ、その後席に案内される。メニュー表を渡された。食事メニューは一種類。ホフマン曰くシェフの気まぐれコースらしい。ぼったくられないか不安だが、殿下が何とかしてくれるだろう。シェフの気まぐれコースを6人前頼んだクラウゼは、表情が硬かった。何故だろうか。答えは、何者かにつけられている気がするからだ。黒田たちに、銃をいつでも出せるようにしとけと指示し、外を見渡すと何やら怪しい影があった。クラウゼ中尉が外に出ると、一つ空を裂くような発砲音が聞こえた。黒田たちは心配した。クラウゼ中尉が撃たれていないかと。そんな心配も杞憂に終わった。クラウゼ中尉は、堂々とした面持ちで銃の手入れをしながら帰ってきた。殿下が何がいたか尋ねると。中尉はこう答えたカナリアが歌を歌い、牧師に手紙を書く、それだけのことさ。黒田と殿下がきょとんとする中、羊羹を食べている田代だけが重い顔をしていた。重い口を田代は開いた「中尉殿、殿下の前で少し控えられたほうが……」。中尉は「大丈夫だ。今夜の歌は君たちのために歌われる歌だ」その言葉を聞いた田代は再び羊羹を食べ進めた。羊羹を食べ進める手は心なしか少し早かった。黒田が、「あの~、私たちにもわかるように説明してもらっても……。」とつぶやくと中尉は、「ああ、簡潔に言う。我々はOSSに尾行されている。」。殿下が「アメリカのですか?」と聞く。中尉はこう答える「ああ、この中の誰かのリクルートをしたいようだ。考えられる中で最も可能性が高いのはMr.KurodaとMr.Sirakawainの二人だ。しかし、ドイツ国内では、国家秘密警察ゲシュタポが網目のように監視している。二度とこんな真似はさせないから安心してくれ。」。黒田はその一言で安心した。そんなことをしているうちにコース料理の一品目のアミューズが運ばれてきた。パリのキャビア、フォアグラばかりの豪華絢爛なコース料理ではなく、地域の特色を生かしたコース料理だということを殿下は感じ取ったらしい。黒田は全く分からなかった。アミューズはベーコンと玉ねぎが入った卵料理のキッシュ・ロレーヌ。二品目の冷前菜のサーモンのマリネ、レモンとディル風味。要するに、サーモンの刺身になんやかんや色々かけたやつだ。三品目の温前菜、フランス料理の象徴ともいえるエスカルゴ・ド・ブルゴーニュが出てきた。しかしこれが問題だった。黒田は見ただけで桶を準備し、田代はなんか動いた気がするといってダウン。石山は苦戦しながら挑戦し、見事完食。殿下は慣れた手つきで食べ進め、ダウン組を励ましながらおいしそうにエスカルゴ・ド・ブルゴーニュをほうばっていた。ちなみに、黒田たちのは申し訳ないが下げてもらった。中尉は仕方がないよ。隣国ドイツ人でも嫌いな人のほうが多いんだからと話していた。なんやかんやあってコース全てを完食した?一行は元居た寝台車に戻り、明日のカールスルーエ—シュトゥットガルト—ミュンヘンまでの移動に備えるため早めに寝るとしよう。次の日目を覚ますと目の前に中尉がいた。朝ごはんの時間らしい。黒田が久しぶりに日本食食べたいな~というと、殿下がこの近くにキッチンはないかと交渉し得られた回答は……。見事あった。しかもこの列車の中にだ。それを聞いて一番に入ったのは殿下、それに慌てて続いた入ったのが黒田だ。二人はいるのが精一杯の小さなキッチンで炊事を始める。殿下が「黒田、主計課の訓練は受けているか?」。黒田はこう答える「ええ、もともと主計課に入るためにここに来ましたから」と。殿下は苦笑しながら給仕に白米があるかを尋ねる。給仕は、イタリア産のライスならありますと答えた。殿下は「石山、升とか持ってたりしないか。」と聞いた。さすがに升は持ってないだろと思ったが石山が「一合のならあります。」といい黒田は驚いて転びそうになった。トラウトサーモンに塩をまぶしオーブンで焼き上げる。これで一品目、トラウトサーモンの塩焼きの完成だ。ごはんを焚いている間に二品目を作る。またもや石山の出番だ。「石山、昆布なんかは…。」。「昆布、乾燥昆布ならあります。」なんだこれはたまげたなぁ。テレレレテーテーテとか、ド〇えもんが秘密道具出すときの効果音なってそうだ。石山はここで日本食を作るつもりだったのか?まあそれは置いといて、昆布があったのでだしをとる。そこに人参、ジャガイモを入れる。本当はわかめも入れたいのだがさすがの石山も持っていなかったそうだ。味噌はどこに……。「石山、味噌は……。」「Shogunでもらったじゃないですか。忘れないでくださいよ。」黒田は内心こう思った、「えっ、そんなものもらってたの?」。まあともかく味噌がゲットできたので、最後の仕上げにみそを入れていく。味噌がちょうど溶け終わったころ。殿下がお米炊けたぞと言ったので本当にナイスタイミングだったようだ。器に盛りつけ執務室の奥のほうにあるダイニングテーブルに運ぶ。ホフマンは留学時代を懐かしむような顔をし、クラウゼはホフマン経由で、料理の説明をしてほしいと頼んできたので快く了承した。クラウゼ中尉は日本へ視察に来るので、その時じっくりと教える。ちなみにみそ汁に使った味噌は信州みそらしい。お高いやつじゃん...。ホフマンは、東京の留学先の寮の寮母の味を思い出して号泣していた。殿下と黒田は、そんななくことか?と心底困惑していた。

 さてそんなことで黒田の我儘から始まった、日本料理朝食も終わりを迎え、一行は、ドイツの都市ミュンヘンに向かおうと出発してから数十分たったころ、黒田が衝撃の発言をした。その言葉とは……「紅茶と煎茶飲み比べしてみましょうよ。」ホフマンは、いいですねと叫び、田代と石山はあきれたような顔をする。クラウゼ中尉は、案外乗り気のようだ。心地よく揺れる車内の中で、紅茶と緑茶の試飲会が始まろうとしていた。ドイツでは、紅茶に氷砂糖、生クリームを入れた紅茶が人気なのだが……。日本人の口には合うのだろうか。そして、日本の静岡の誇り静岡煎茶はドイツ人の口に合うのだろうか。そんな不安を抱えていた黒田たちであったが、どの不安は杞憂であったことを後々知ることになる。クラウゼが紅茶を入れ殿下が、煎茶を入れる、その光景はまるで、両国が対決をしているようだった。ドイツの伝統的な紅茶を飲んだ黒田たちの一言めは「あまっ」である。それもそのはず、前述したとおり、氷砂糖と生クリームが入っているのだから。対する静岡煎茶はどうだろうか。クラウゼたちは、こう思っただろう「にがっ」と。双方感じたことのない味だったが、案外行けるらしい。殿下は、「士官の飲み物にしてもいいんじゃないかこれ」とつぶやき。田代はこれ甘いから洋館によくあうぞとあたりしい発見をしたり。殿下は、昔子供のころの思い出に浸っていたりしていた。一方ホフマンは、留学時代のことを思い出しまたもや号泣していたり、クラウゼは、熱心に煎茶に合うソーセージを探していた。さて紅茶・煎茶パーティも終わったっところで列車は、待ち合わせのために停車した。ここで事件が起こる。停車したときに、ブレーキが急だったのか食器がだいたい割れてしまったのだ。クラウゼは、「ああ、またやりやがったよこいつみたいな顔」をしていた。殿下が、「この運転手、急ブレーキかけがちなのか。」と聞くとクラウゼはこう答えた。「ああ、それもしょっちゅうな。」田代は、「あ~、もう運転手何やってんだよ。羊羹が床に落ちたじゃないか。」と怒りながら羊羹を今までに見たことのない速さでほおばっていた。

 待ち合わせの停車も終わり、ミュンヘンに向けて走り出した列車は、軽快に音を鳴らしながら、銀の道を走っていく。まるで、シューベルトの魔王のように激しく息を切らせながら走っていく。道中黒田達一行は、しばしの休憩タイムに入った。殿下は、お気に入りの小説を読み、黒田は、椅子に座りながら目を閉じた。田代は、立ちながら目を閉じ、石山は、うどんの作り方の本を懸命に読んでいた。

 黒田達が目を覚ますとそこにはのどかな田園風景が風呂がっていた。そこに車掌さんがやってきた。「まもなく、ミュンヘンに到着いたします。」と伝えてくれたので、降りる準備をする。今回の会談はミュンヘンで行う。汽笛が鳴る、そして列車はミュンヘン中央駅に着いた。ミュンヘン中央駅に降り立った瞬間、軍楽隊が軍艦行進曲を演奏した。黒田は、うわ懐かしいこの曲と思った。そしてクラウゼ中尉が護衛任務が完了したことを、一番前にいるお偉いさんらしき人に伝え、敬礼をした。黒田達が列車から降りるとお偉いさんが敬礼をしてきたので、答礼を慌ててする。さてお偉いさんが敬礼を下ろしてくれない、ということはこちらが先に下ろさねばならない。お偉いさんには失礼だが、先に手を下ろさせてもらった。

 お偉いさんが、「よくここまで来ました。では、軍の施設に案内いたします。」といい、オープンカー――ドイツではスタッフカーとよぶらしい――にのって軍の施設に移動した。ついたのは第7師団司令部だ。ここまでくる道中、殿下と黒田には町の女性から花やラブレターがスタッフカーの中に投げ入れられていた。そして、肝心のスタッフカーの座席はというと、ほぼ板である。木の板に、申し訳程度の中綿の上に布がかぶせられているだけだ。さらに、サスペンションが酷い、これ本当に士官用の車輌なのかというくらいひどい。軍の運転手は、サスペンションが軍仕様なんでね。といい笑い飛ばしていた。ホフマンとクラウゼはどうしていたかって。ホフマンは、うとうとしていて、クラウゼは新聞を読んでいた。クラウゼ曰く、慣れれば寝られるとのことだ。ああ、そういや、ホフマンがうとうとしていたな。さて、そうこうしている間に第七師団司令部へと到着した。

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