第三章 会談の地第七師団司令部
第七師団司令部に着いた一行はまず、司令官殿に会いに行った。司令官は、金髪で190cmくらいはあるのではないだろうか。この訪問でやりたいこと、教えてほしいことを殿下が流ちょうな英語で伝えた。――ちなみに筆者は英検準二級を所持しているが、殿下の英語力にはかなわない――。司令官はよく来たな君たちと言わんばかりに、大きな手で全員に握手を求めてきた。まあ、あたりまえだ。殿下から握手をする。次に黒田の番だ、黒田の時だけ心なしか少し強かったようだ。黒田が少し力に負け後ろへとよろめいた。
その後一行は「作戦会議室」に通された。壁一面に貼られた欧州と大西洋の地図、色分けされている、部隊の駒、駒を置き換える士官たち。黒田は、思わず将棋の対局みたいだと、つぶやいてしまった。ホフマンが、それを聞き逃さず、クラウゼに伝える。クラウゼは、将棋とはいかがなものかと、睨んでくるが殿下が将棋の説明を英語でし、事なきを得る。その説明を受けたクラウゼは、将棋とはどんなものなのか見てみたいと言い出した。石山が、「殿下。将棋できますか。」と聞く。殿下は、「ああ、まあできるが。」と答える。そして石山の背嚢から出てきたのは将棋盤と駒、ただし少し小さめだが。石山が「じゃあ今から将棋をここでやります。」と叫んだ。ホフマンが瞬時に訳しドイツ軍士官が一気にこちらを向く。中のお偉いさんが、「いったん演習は中止、将棋を観戦しろ。」という。黒田はホフマンの翻訳を聞き困惑する。そんな中石山が、「殿下、私が負けるので、本気で攻めに来てください。」といった。ホフマンは意図をくみ取り、クラウゼ達には、いま先攻後攻を決めていますといった。さて、先攻後攻を決め、将棋の対局が始まった。将校たちは盤上を戦況図のように見つめ、ホフマンは小声で「これぞ日本の戦術……」と解説していた。黒田は「いや、ただの将棋だから」と心の中でツッコミを入れる。序盤は互角だった。しかし、石山が一手を間違え、そこを突き殿下が一斉に攻撃を仕掛ける。ドイツの中の誰かが「側面攻撃だ。」と叫ぶ。そのまま殿下が押し切り、石山が詰んだ。石山が「参りました。」と言い。対局が終了。作戦指令室からは拍手の嵐が巻き起こり、外にいた士官までもが何があったのか覗き込んだまでだ。そんなときはクラウゼ中尉が「日本御兵術を実演してもらってな」と誇らしげに話すのでホフマンと黒田が同時に「いやこれただのゲームだから。」と心の中でツッコむほどだ。
次に一行は兵舎と食堂の見学を行った。今の時刻は午後3時ちょうど間食の時間だ。田代が重そうな袋を輸送してもらっていたが中身は何だったのだろうか。
ドイツ兵たちは、いつもなら間食が届いているはずなんだが、中尉がわざとらしく言う。そんなところに、補助座席に大きな袋を抱えたサイドカーが兵舎に向かって走ってくる。黒田は、「おい田代お前まさか……。」という。田代は「ええ、そのまさかですよ。みんなでお菓子パーティーをしようと思ってます――筆者は思った、この時代の人って菓子パっていうのか?お茶会のほうがいいのでは?と――。」さて、菓子パを始めたドイツ軍+黒田達一行はどうなったのだろうか。ドイツ兵は、まずどら焼きを手に取り、これは……、神様が与えてくれた完全栄養食品だと叫んだ。いやこれただのお菓子だからと黒田がつっこむ、それをホフマンが翻訳し、完全栄養食だといった兵士が顔を赤らめる。そしてとある兵士が、羊羹を手に取り「これも、日本のお菓子か。」と黒田に尋ねる。黒田は片言の英語でイエスと答え、殿下が補足説明する。すると、一気にほおばり始め、瞬く間に羊羹とどら焼きがなくなった。そして最後に残ったのは、せんべいだ、殿下がせんべいを手に取りパリッと心地のいい音を鳴らすとへしたちは、一斉に食べ始めた。なぜこんなお菓子を持っていたのかは不思議だが……。すると、日本でいう主計課の兵士が、せんべいの作り方を教えてくれと頼むので、殿下は「面倒くさいがいいか?」と聞き、主計課兵士は「ええ、あれで統率がとれるなら……。」とつぶやいた。そうすると殿下は「黒田、お前確か、実家茶の農家だったよな。」と聞いた。黒田が「ええそうですよ」と少し誇らしげに言うと殿下は「よし、じゃあせんべいの作り方をドイツ兵に教えてやってくれ。」と言った。黒田は、えっ、俺?と思ったが、米粉をだし、水を少しずつ加え耳たぶぐらいの硬さにする。生地を分け、直径6~7センチメートルになるよう薄くのばす。と教えたかったのだが、なんせ粉がない。そんな時はそうだ……。「石山、米粉と刷毛と醤油くれ。」と叫ぶ。すると石山が、「ええ、少しならありますよ、全部――ん……?刷毛少しってどういうことだ?自分で書いているくせに疑問に思った。まあ、いいか――。」そうして、気を取り直し、せんべいを作り始める。一方せんべいをほおばっている組はどうかというと、「おかんの味だ。小さいころ、囲炉裏で焼いてくれた……。」と言っているドイツ兵がいて黒田の代わりに殿下に「いや、囲炉裏なんて、ドイツの家庭にあるわけ……。」とつっこまれていた。その兵士は、これが最初で最後であろう、白川院殿下につっこまれた、外国人兵士になるだろう。さて、もう時刻は16時を回っていた。いったん、ゲスト用の兵舎へと戻ることにした。殿下が石山に対して「俺ら完全にお菓子バラマキ集団になっるぞ」といい、それを聞いた石山は笑って流した。
時刻は19時になった。19時30分から歓迎晩さん会がある。晩さん会会場は第七師団司令部大広間だ。日中は作戦会議室として使っていた場所だ。晩さん会では、どんなものが出されるのかと気になっていたが気づくと、石山がいない。まさかと思い、厨房をのぞかせてもらうと石山が英語で指揮を執り、何やら料理を作らせていた。なんか、日本食のような気がするが気のせいだと思っていよう、いやそう思いたい。そう思い席に戻ると、何やら、兵士たちを動員し畳らしきものを出していた。嫌なんでドイツに畳があるんだよとつっこみたくなったが、そこは押さえておく。そして今気づいた。厨房の中に二種類の日本語が飛び交っていたことを……。畳の上に座布団が引かれ、低い会食用の机が出される。
準備も終わり、出されたのはなんと……。吸い物、頭尾付の鯛、焼き物、煮物。どう見ても、懐石料理だった。ドイツでなぜ?と黒田がつぶやくと司令官が胸を張って答える。「日本人シェフを雇っていてな。それで今回出すのが懐石料理というわけだ。」と、誰なのか気になったが石山に聞けばわかるだろう。懐石料理を食べながら、会話を楽しむ、ドイツ軍の士官はみな箸に慣れているようだ。なぜだろうか、まあ、懐石料理が出されているということは日常的に日本食が出されているのだろう。だから、みな箸の使い方がうまいのだ。
懐石料理を食べ終わった一行は、汗を流すため、浴場に直行する。浴場に行くと、そこには日本の銭湯と変わらない様子だ。服を脱ぎ、浴場に入るとそこには、日本と変わらない景色が広がっていた。富士山のような山の壁画、数個に分かれた浴槽、無造作に並ぶ体を洗うところ。殿下が気付いた、「壁画富士山じゃなくて、アルプス山脈の山々じゃないか。」とそう、なんと、富士山ではなく、アルプス山脈の山々になっていたのだ。黒田は「こんなところまで再現しているのか。こまかいなぁ。」とつぶやく。体を洗い、湯船につかる――なんだろう、筆者もお風呂に入りたくなってきた。――すると今までの疲れが一気に取れる感覚になった。というかとれた。ゆっくりと湯船につかっていると、後続の田代と石山が入ってきた。石山たちも同じく、体を洗い、湯船につかった。その時、師団長が浴場に入ってくる。皆敬礼はしない。お風呂の中では階級など関係ないのだろう。その後に続いてホフマンが入ってきた。師団長は、体を洗った後、黒田達の横に座った。師団長はこう言った。「私はフランスにある、日本料理店Shogunで日本の文化に興味を持ち、かれこれ10回くらいは日本に行っているな。」黒田達は、なぜこんなにも日本風になっているかの理由が分かった。
風呂から上がった一行は、銭湯の上にある、師団図書館で兵術所を読み漁っていた。師団長は、日本料理のレシピ本をとてつもない速さで速読していた。殿下は、いいなぁ、こんなそ速度でよめたらなぁと羨ましがっていた。――筆者は、商業化できる小説を一瞬で書ける能力が欲しいです。――
時刻は10時を回り就寝の時間がやってきた。黒田達は、布団のを引いた部屋で寝た。
翌日起きると、ちゃぶ台に今日の予定表がおかれていた。
着替えを済ませ、食堂に行くとそこには人数分の家庭的な日本の朝食がおかれていた。黒田は、静かながらに涙を流した。献立が、黒田の母と全く同じだったのだ。献立は、白ご飯、納豆、みそ汁、青菜のお浸し、酒の塩焼きだ。なんだろう、ドイツに来た実感がない。
朝ご飯を食べ終わり、歯を磨き、顔をゆすぐ。今日は待ちに待った、ドイツの青年将校と会談する日だ。昨日、晩さん会で使った。大広間で会談をする。大広間へと入る前に、身だしなみを整える。身だしなみを殿下に確認してもらい、大広間へと足を踏み入れる。するとそこには穏やかな顔をした青年将校が4人いた。そのうちの一人、アマティス・クロイツ少尉が特に黒田達には印象に残っていた。この時誰も知る由がなかった。クロイツ少尉に再び会うことになることを。
会談の内容を一部要約する。
日本側が、どうやったら兵士の士気を保ちやすくなるのか質問したところ、ドイツ側からはこう返答が帰ってきた。それは、田代少尉が一番知っているはずですよと。まあ、食ということか。黒田は聞いた、戦争になると現場に出るはずの兵士、下士官より士官のほうがご飯の量が多くなることをドイツ側から逆に質問が来た。「ドラヤキ」というものはどうやって作ればいいのか。」とのことだった。それを誰に教えればいいのか聞くと、主計課の兵士だった。よし、明日、ミュンヘンを旅立つ前に教えようと黒田。
そうだ忘れないうちにと、shogunでもらった。明治四十五年式正式制服を、手渡す。クロイツ少尉からはこれは何だと、聞かれるが、ホフマンが即答していた。ホフマンはもしかしたら日本軍に詳しいのかもしれない。それと忘れそうになっていたが、ちゃんと家族用の純銀メダルも渡す。クロイツ少尉たちは、ダンケと言っていた。ホフマン曰く、ダンケとはドイツ語で「ありがとう」という意味だそうだ。喜ばれてよかった。
会談も終わり、自分たちの止まっている部屋に戻ってきたその時、兵士が部屋の前で待っていた。兵士が言った内容とは……。軍服をくれたお礼に、一日連隊長をやってほしいとのことだ。連隊長に任命される連隊は、殿下が第一装甲連隊、黒田が、第二装甲連隊だ。石山が、第一狙撃兵連隊、田代が第百十三歩兵連隊だ。黒田達は、将来こんなふうに、連隊長や旅団長として働きたいと思っていた。しかし、「大日本帝国陸軍」が存在している間にそれがかなうことはなかった。
一日連隊長になった黒田は、人生で初めて「連隊長」としての号令をかける。「総員、敬礼」。この号令を再びかけるのは、25年ほど後の話となる。
そんな感じで、一日連隊長の経験も終わりが近づいてきた。最後に、連隊長として師団長に最後の挨拶をしに行く。「今までありがとうございました。これからもわが軍と我が国をよろしくお願いします」と。
そして、連隊長の制服を脱ぎ少尉の制服に着替える。連隊長の制服は、名前が入っているので持って帰ってよいといわれた。なんか、こっちの方が多くお礼をもらってしまっているのは気のせいだろうか。
明日はついに、ベルリンへと旅立つ日だ。明日のために荷物をまとめ、出発の準備をしておく。出発する時刻は午前10時、あいさつや、朝の支度の時間を考えると結構ぎりぎりだ。明日も早いのでここらへんで寝ておくこととしよう。
翌日の六時三十分、もう黒田達は起床していた。殿下は本を読み、黒田は、母に向けて手紙を書いている。なんて手紙を書いたのかだって。
お母さんへ、私は今ドイツにいます。ドイツで一日連隊長という貴重な体験をさせてもらいました。……
みたいな感じだ。
灯のともる家、灯のともらない家 櫻澤宙大 @SCBN
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