最期の一筆

天使猫茶/もぐてぃあす

祖父の万年筆

 敬愛していた祖父が亡くなった。

 あまり有名ではないが物書きで、何冊か本も出したような人だった。

 連れ合いであった祖母を早くに亡くし、僕の父親である一人息子ももう喪っていたので僕が喪主を務めることになった。


「おじいちゃん。安らかに眠ってください」


 僕は棺桶の中に、生前祖父が愛用していた万年筆を入れながらそう言った。

 静かに眠る祖父は満足してるように見えた。




 葬儀からしばらくが経った頃、祖父の部屋を片付けていた僕は文机の中から祖父が愛用していた万年筆を見つけた。

 たしかに棺桶に入れたはずなのにどうして? そう思いながら万年筆を手に取ると、その下になにか紙が置いてあることに気が付く。

 書きかけの原稿だろうか? 僕はその紙を手にとってみた。

 そこにはこう書かれていた。


『少なくとも、これからは「息が詰まる」という表現をもっと実感を持って書けそうだ。』

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