天使猫茶/もぐてぃあす

ロボット、宇宙開拓、意識のアップロード、ありえたかもしれない未来。 そんな“少し先（もしかしたら少し前）の世界”を、ショートショートの長さで覗き込むSF短編集です。 ハードからラ…

「魂なんてない」 そう言いながらも儀式は続き、祈りは捧げられる。 その意義を解さないままに。

汚れた床の魔法陣から現れた悪魔は、青年に「どんな願いでも一つだけ叶える代わりに、死後は魂をいただきます」と告げる。青年が選んだのは「一生かかっても使い切れない大金」。悪魔から渡さ…

病を抱えた男は、駆け落ち同然で連れ出した妻とともに、四十年ぶりに故郷へ帰省する。 錆びたシャッターが並ぶ商店街、水の抜かれたプール、色あせた小学校。 寂れた町の先には、かつて二人…

死後も人を騙し続けたい――老いた詐欺師は、悪魔を呼び出して「自分を悪魔にしてくれ」と頼み込む。 忠告を無視して願いを叶えられた彼は、念願の“悪魔ライフ”を始めるはずだった。

生まれてすぐも、小学生の時も、中学生のときも、そして大人になってからも。 毎年必ずなにか起こったが、それでも私は必ず一命をとりとめていた。

旧軍の火薬庫解体に同行し、爆発寸前の火薬樽をいち早く察知して街を救った「最優秀爆発物発見員」。 新人職員が先輩からその武勇伝を聞かされるが、その優秀な発見員の正体は……。

自分そっくりに変身するマネキン「真似キン」は、キスをするだけで持ち主の姿に変わるジョークグッズとして発売された。 しかし、夜な夜なすすり泣くという噂と検証動画が拡散し、商品は大量…

記録的な長雨が続き、主要道路が麻痺し始めた都市で、精神科医のもとに「神に選ばれた英雄」を名乗る男が運び込まれる。 ここ数か月、同じ妄想を抱えた患者が次々と現れ、世界人口は二百億を…

公園で一人の男が手品を披露していた。 だがそれは、どうにも上手とは言えなかった。

家の前で死んでいた猫を庭に埋めた「僕」。その夜、半透明の幽霊猫が枕元に現れ、供養への礼として“恩返しの贈り物”を約束する。翌朝、玄関に並んでいたのは噛み傷だらけのネズミの死体。猫…

女神の神託により「かつての勇者が使った最初の武器」を手にする者が新たな勇者になると世界は沸き、自称勇者たちが聖遺物を求め旅立った。だが伝説と無縁の小村で、森へ遊びに入った幼い兄妹…

半地下のカフェに、ボロボロの服を着た鋭い目つきの男が現れる。ぶっきらぼうに「コーヒー」と言い、店長と悪態を交わしながら一杯を飲み干す。金も払わず去ろうとする男に、店長は皮肉と気遣…

早朝の墓地で、語り手は荒れた墓に次々と手を合わせる青年を見かける。不審に思い声をかけると、青年は「幽霊をコレクションしている」と笑って告白した。無縁仏に祈れば死者が憑いてきて、孤…

病弱な若い画家のアトリエを訪れた友人は、部屋の中央に置かれた古びた白紙のキャンバスを見つける。画家は「幼い頃に知り合いと合作の約束をした」と微笑み、再会が近いと言う。 それから一…

知的生命体の住む他星への往復飛行を成し遂げた英雄は、帰還後「前例のない大罪」を犯したとして裁かれていた。 その罪とは、地球と呼ばれる星から持ち帰った、たったひとつの行為だった。

どんな大きな決断の前でも、必ず一枚のコインを弾く男がいた。 告白も、結婚も、独立も、延命治療の是非さえも。 「どんな時もコインはじいた男」と刻まれた祖父の墓の前で、その形見のコイ…

地下へ追い詰められ、工場へ運ばれる“彼ら”は、地上の支配者への復讐を誓う。 箱の中で熱を帯びる演説が終わり、蓋が開いた瞬間、世界は光に包まれる――

家の近くの地下鉄には、「非常時以外使用禁止」と書かれた謎の螺旋階段がある。地上に出口らしき場所は見当たらないのに、どこへ続いているのか誰も知らない。 ある日、飲み会帰りで酔いの回…

毒の雨が降り続ける灰色の街で、配達の仕事をする「僕」は、ガスマスクを付けた少女と出会う。 少女は街灯を指さし「虹が見える」と言い、マスクを外して微笑んだまま毒に倒れた。

寂れた村に、一人の武芸者が流れ着く。 村長の家で歓待を受けた彼は、翌晩に村長のただ一人の娘を「大蜘蛛」に捧げねばならないと聞かされる。 娘を救うべく夜の山へ向かった男は、そこで待…

貴族の少年と庭師の息子は、身分差を越えて友達になった。 庭仕事を教え合い、文字や算術を学び合い、屋敷の庭を駆け回る日々は、二人にとってかけがえのない思い出になるはずだった。 しか…

子どものころに通った博物館を、久しぶりにひとりで訪れた「私」。 恐竜の標本を眺めながら館内を歩いていると、見覚えのない「絶滅動物」の標本が目に留まる。 それはかつて、この星を支配…

役目を終え、誰も住まなくなった植民星に、いまも残っているのは一人の老人と一体の家事用アンドロイドだけだった。 老人は自分の死を悟り、たった一人残される彼女を案じるが、アンドロイド…

夜の街を望遠レンズで眺める時間が、彼にとって唯一の安息だった。 汚い言葉も、暴力も、侮蔑も届かない安全な高み。 だが背後の黒電話が鳴るたびに、その静寂は塗り潰される。 今夜もまた…

休日の公園で、貧乏サラリーマンの「私」は高級スーツの男に“交換日記”を持ちかけられる。 中身は見ることもなく。

岬の灯台に伝わる砂時計は、裏返すたび十五分のあいだだけ潮を“数歩ぶん”巻き戻す。ただし三度を越えてはならない。 「潮は戻っても、誰かの時間が削れる」 嵐の翌朝、浜に取り残され…

痛みを吸い取り、芯に“診断の模様”を残す飴が普及した。 ただ一つの副作用は、痛みに結び付いた記憶も奪うこと。 公園で転んだという子どもに飴を舐めさせた小児科で、芯は打撲を示した。…

森の最後の木が倒れた夜から、教会の鐘が無人で一度だけ鳴る。 打つたびに木こりが消え、伐採地の切り株には年輪が一本ずつ増えていく。

政府認可の美女型アンドロイドを“初期化→再起動”の最も従順な瞬間だけ味わい続ける青年。 だが彼女の中にあるAIはすべてを記録していて……。

幼い日、両腕と頭を欠いた「ニケ」に魅せられた私は、どれほど模しても満たされなかった。 美は欠落に宿る――ならば“元からあるもの”を外せばいい。 粘土でも木でも大理石でもない、最…

夜ごと星に線を引き、独りで物語を語る「私」。星の疎らな一角に登場人物を置けず語りが止まった翌晩に空を眺めてみると。

新型家庭用ロボットのテスターに選ばれた「僕」。 どんな願いも叶えるという彼女との一週間は、たしかに生活を軽くしてくれる。 —ただひとつ、言葉の選び方だけが、少し危うい。

夜な夜な“修行”に出る勇者を、宿屋で見送る賢者・格闘家・騎士。 三人は彼の修行の内容を知りながらも、今日も白々しい会話に興じている。

長年戦争を続けるA国とB国。いま戦場は仮想空間に移り、隣り合う席で敵兵同士が画面に向かう。

終電を逃して人気のないホームに残された主人公の前に、ありえない時刻である0時0分発の電車が滑り込んでくる。 助かったとばかりに乗り込んだ車内には、こちらを見つめるピエロたちだけが…

人のいなかった頃から森に棲み、いつしか神の使いとされ社を与えられた狐。 いまや社は崩れ、人も訪れない。ある日、死に場所を求める男が迷い込む。 追い出すことも、永遠の夢に溺れさせる…

誰もいない家に彼女と一緒に帰ってくる。 荷物を整理しながら、彼女が笑っていたときのこと、禁煙を宣言した日のことを思い出す。 そうしているとふと見つかった一箱の煙草。 僕はそれにゆ…

月で生まれた少年は、量子ロックではなく古い“鍵”でしか開かない「ゼロ号保管庫」を不思議に思い続けてきた。

偉大な錬金術師の葬式を終え、工房を継いだ弟子。 遺言には「すべてを遺す。賢者の石も」とある。机も棚も屋根裏も空振りの末、足に纏わりつく黒猫の首元に違和感を覚えた。

墓標に文字を刻む男は、息子を亡くして仕事を絶っていた。 そんなある日、雨の夜に作業台にカタツムリが姿を現す。

百年に一度の彗星を家族で待つ夜。 なぜか彗星はいつまで経っても現れなかった。

ウサギとカメの再戦が決定し、群衆は「汚名返上！」と沸く。 ウサギは勝利を疑わないが、当日会場へと言ってみると……。

王城の尖塔に幽閉された、王族の証たる金髪と赤い瞳を備えた王女。 掟に縛られ「願い」がなければ動けない悪魔は、彼女の退屈を紛らわすため幾度も外界の話を運んでいた。

真冬の早朝散歩が趣味の自転車屋の女性は、ある日壊れた自転車に困る少年を助ける。以後、少年は陽気に声を掛けてくるが、彼の仕事にはある秘密があった。 やがて日の出とともに、女性は少年…

亡き祖父の葬儀で、棺に愛用の万年筆を納めた青年。 しかし後日、その万年筆が祖父の部屋に戻ってきていた。

雨の中で行われる、不思議な祭。 それは“神の涙を止めるため”に続けられていた。

砂漠をさまよう旅人が辿り着いたのは、笑顔で迎える白い顔の家族が暮らす街だった。

病気の妹のために千羽鶴を折っていた少年 最後の一羽が飛び出してしまい、それを追って彼は不思議な雲梯を登り始める