第2話 KPIを設定しない内政は、ただの理想論だ

イシュラート領――辺境の小領地。




森と湿地に囲まれたこの土地は、かつては鉱山と商業で栄えていたが、いまや資源枯渇と盗賊の横行、無能な貴族の放置によって、見る影もなく衰退していた。




その最果てにあるラル村の村長宅。


仮の滞在先であるその家で、マコトは村の古びた帳簿に目を通していた。




 




「うーん……やっぱり、数字がないとどうにもならんな」




帳簿というより、ただの“伝聞メモ”だ。


月の収穫量すら毎回ブレていて、記録になっていない。




(前世では企業の再建もやったけど……ここはその何倍も酷いな)




人、金、物、情報。


全てが欠けている。KPI(重要業績評価指標)どころか、P/L(損益計算)すら成立しない。




でも――




「逆に言えば、伸びしろしかないな」




マコトは立ち上がり、村の集会所へ向かった。




 




◆ ◆ ◆




 




集会所に集まったのは、村の代表たち十数名。


みな、疲れ切った表情をしていた。盗賊の襲撃、税の取り立て、病気……問題は山積み。




だが、マコトは平然と切り出す。




「今日から、この村を“事業”として立て直します」




「じ……じぎょう?」




ぽかんとする村人たち。




マコトは、地面に棒で図を描いた。




「まず、“どれだけ何が取れて、どう使われてるのか”を把握する。畑の収穫量、木材の切り出し数、税の額、盗賊の被害――全て数字で出す」




「そんなもん……いちいち数えてる暇なんて……」




「暇がないから数えるんだよ。優先順位をつけられるように」




 




数日後。




マコトは村の子供たちに「記録係」を任命し、小麦畑の区画ごとの収穫量を日々計測させた。




それだけで、わかったことがある。




・水はけの悪い2区画が平均の半分しか収穫できていない


・地主の1人が「貢ぎ用」と称して肥料を独占していた


・実は盗賊の被害は森の北側に偏っていた(つまり拠点が近い)




「……こういうのは、“見える化”が全てだ」




 




数字が揃い始めると、優先順位が明確になった。




① 水路の整備(コストはかかるが、収穫効率が劇的に上がる)


② 森北側の見張り塔を設置し、盗賊の侵入ルートを制限


③ 肥料の配分を管理制にし、不公平を是正




「まずは、KPIを3つ設定する」




月間小麦収穫量(トン)

盗賊による被害件数

1人あたり労働時間の短縮率





「……それって、なんの意味があるんだ?」




村長が首をかしげると、マコトはきっぱり答えた。




「改善できないものは、管理できない。管理できないものは、生き残れない」




 




一同、息を呑んだ。




誰も“戦い方”を知らなかったのだ。


それは剣でも魔法でもない、“経営”という名の武器だった。




 




そして、マコトは呟いた。




「さあ、領地再建プロジェクト――フェーズ1を開始する」




 






 




 

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