拝啓、鏡写しの私へ

海海刻鈴音

第1話

 ある日のこと。

 昔のゲームのソフトを探しに、リサイクルショップに赴いた。

 少し足を伸ばせば、より品揃えが充実した専門店もあったが、近場で見つかってほしいという怠惰な思いで、入店し、早速カセットを探しに棚を隅々まで探し始めた。

 が、そこまで知名度がないゲームだったからか、当然見つからず、肩を落とすと同時に、まあだろうなという思いが込み上げてきた。

 しかし、入店してわずか数分で帰るのも、なんとももったいない。

 せっかく外に出たのだ。理由は無いが、店内をぐるりと回って、何かいいものは無いかと探してみることにした。

 楽器コーナー、工具コーナー、おもちゃコーナーを見たあとに、家具コーナーにも足を運んでみる。

 そういえば、新しく椅子を買おうか迷っていた。

 まだ壊れてはいないが、近頃椅子に座るとぎしぎし嫌な音がするようになってきた。

 もし状態が良く、座り心地の良さそうな椅子があれば、それを買って帰ろう。

 そう思いながら、ふらついていると、ふと目線が、1つの鏡に吸い込まれた。

 高さは2mほどの、姿見。一見、なんの変哲も無い鏡に、いつもの自分が映る。

 じっと鏡を見つめ、自分のだらしない姿に呆れながら、瞬きをした、次の瞬間。

 鏡には、何も、映らない。

 いや、私だけが、映らない。後ろに広がる、中古品たちは、間違いなく映っている。

 目を擦り、また開く。そして、辺りを見渡す。

 ほおを強くつねっても、痛いだけ。夢じゃ、ない。

 ありえないこの事象に驚き、近づいて鏡を見ようとした、そのとき。

 ぐるりと世界が反転し、薄い影のようなものが、自分の目の前に立ち塞がる。そして。

 びしり、ぱりん。

 鏡面全てにヒビが走り、そして砕け散る。

 ざらざらと砂のように枠だけを残すその鏡の中から、1人、女性が自分を見つめながら、立ち尽くしていた。 

 一目惚れ、と言うのだろう。

 重なる視線に、ぽっと赤くなる彼女のほお。

 手を伸ばそうとして、全身が震えていることに、遅れて気づく。

 それほどまでに、彼女は魅力的だった。そして、私の真逆であることに、気づいた。

 けれど、悲しいかな。この出会いの場所に、ロマンは無かった。

 なぜならここは、やけに耳に残る音楽が流れる、リサイクルショップの片隅なのだから。


 

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