第3話 天狗を名乗る美少女



 紅葉がウチに来てから早数日。

 

 一人だった時と根本的な生活はそれほど変わっていない。強いて言うなら、しっかりとしたご飯が出ることくらいだ。


 紅葉はリビングのカーペットの上で寝転がりながらうつ伏せで漫画を読んでいる。


 俺はそれをテーブルの椅子に座りながらコーヒーを飲んで眺めていた。


 カーテンが僅かに開かれた状態で外の様子が見える。外では現在、大量の大雨がすごい勢いで降りしきっていた。


 勢いのある雨が窓に打ち付けられる度、音が部屋にひびく。


「昨日はあんなに快晴だったのになぁ」


 俺は目を細めながら呟いた。

 紅葉は漫画に目を落としながら「う〜ん」っと適当に返事を返す。


 ピンポーン〜


 その時、突然家のインターホンが家内に響いた。

 こんな大雨に一体誰がきたのだろうか……。


「紅葉、ちょっと俺出てくるから」


 俺は紅葉にそれだけを言って玄関に向かう。

 玄関に向かう度、雨の激しい音が強くなる。


 そうして俺は玄関の扉を開ける。


 「こんにちは!」


 そんな元気な声が俺の耳に入ってきた。

 俺の目の前には今、一人の制服姿の女の子が立っていた。


 黒くてサラサラとした髪に紅葉と比べてすこし身長が高い女の子。そして、その雰囲気が清楚な雰囲気を感じさせた。


 ハッキリ言おう。間違いなく、美少女だ。

 紅葉とはまた違う魅了がある。


「あ、あの……そんなに見られると、恥ずかしいです……」


 俺が目の前の美少女を見ていろいろ考えていると、少女が恥ずかしそうにしながら言った。


「え? あ、ごめん……えっと、君は?」


 俺は当然の質問を繰り出す。

 俺のその質問似少女は何か喋っているが、雨の激しい音の影響でうまく聞き取れなかった。


 このまま玄関で話していてもあれなので、俺はひとまずその少女を家に上げる。


 「お邪魔します!」


 少女は脱いだ靴を綺麗に並べて家に上がった。

 俺も靴を脱ぎ、釣られるように靴をちゃんと並べた。


 「ん? なんだこれ」


 ふと廊下を見ると、そこには1つの黒い羽根が落ちていた。俺はそれを拾いあげる。


 なんか黒い羽根からいい匂いがした。すこし不気味に思ったがとりあえずポケットに入れてこの少女と共に紅葉がいるリビングへと向かうのだった。



 リビングに入ると紅葉がコップにお茶を入れていた。気配を察した紅葉がこちらの方に向く。


 そこで少女と紅葉の視線が交わる。


 しばらくお互いを見つめ合っていた後、紅葉は俺に問いてきた。


「信君、この子は?」


 紅葉が少女を警戒しながら聞いてきた。

 隣にいる少女は表情を変えず、目を伏せている。


 ……かと言って、俺もこの少女の事はまだ何も知らない。


 俺がどうしようか考えていると、少女が目を開けて口を開く。


 「私は、天狗だよ」

 

 突然そんなカミングアウトをする少女。

 俺は「は…?」と困惑することしかできなかったが紅葉はなにやら納得した様子を見せる。


 「やっぱりそうか。君も僕と同じ、"妖怪"なんだね」



「そうだよ」


 紅葉の言葉に少女は頷いた。

 訳がわからない俺は一人で納得してる紅葉に問う。


「やっぱりそうかって、お前この子が妖怪だって知っていたのか?」



「いや、知らなかったよ? ただそんな気がしただけさ」


 紅葉は淡々と答える。

 

 どういうことだろう。妖怪同士だと不思議な感覚でも働いたりして何となく察せるものなのだろうか。


 俺が顎に手を当てて考えていると隣の天狗を名乗る少女が口を開いた。


 「それで、あなたはなんなの? あなたも私と同じ妖怪なんでしょう?」


 天狗少女が紅葉をまっすぐに見ながら言う。

 紅葉はきょとんとした様子で言った。


「え? 僕のこと?」


 天狗少女は頷く。

 紅葉は「フッフッフッ…」と不敵な笑みを見せたのち、得意気に自分の正体を言った。


「聞いて驚け! 僕は鬼だぞ! 名前は紅葉!」



「そう……」



「ふふふ、驚いたかい?」



「いや、別に……。ていうか正直な話、あなたの見た目的に鬼には見えないんだけど……」



「んな……?!」


 ガーンっという効果音が聞こえてきそうな勢いで紅葉が落ち込む。真っ白になって動かなくなってしまった。

 

 だが実際少女の言うことは間違っていないが、俺からしたら少女の方も天狗には到底見えない。


 俺が内心で呟いていると、突然天狗少女がこちらを見て口を開く。


「それなら、私が天狗だと証明してあげますよ♪」



「え?」


 少女が俺の心を読んだかのような反応をみせる。

 気づけば、彼女の背中から、立派な黒い翼が生えていた!


 俺はそれを見て目を見開く。


「これでどうですか?」


 彼女は淡々と言った。

 俺は文字通り、言葉が出なかった。


 その姿は天狗のそれに近しかったからだ。

 あえて服装が制服なのには突っ込まないが……。


「お、おう。確かにその翼は天狗っぽいな。だけど、天狗特有のうちわとかはないのか?」


 俺が訊ねると少女は「ありますよ?」っと言って懐からうちわを取り出した。


「これで私は天候などを操れるんですよ♪」


 うちわを両手で持ちながらウインクする少女。

 まだ、にわかに信じがたかったが、彼女が天狗だと証明する材料は十分に揃ってしまっている。

 

 ひとまず、認めるほかないだろう。


「それでは今日から私もここで住ませてもらいます! よろしくお願いしますね♪」



「…………はっ?」


 彼女はそんなカミングアウトをして背中に発現している翼とうちわを器用にしまうのだった。




 




 

 


 









 

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