第4話 赤面する美少女



 鬼に続いて、今度は天狗がウチにやってきた。

 

 天狗を名乗る少女は紅葉とは違い、天狗のような立派な翼に天候を操るうちわが備わっており、天狗だと言う証拠は十分だった。


 ただ、絶望的に服が見合っていない事だけはあえて触れないでおいた。


 天狗といえば、もっとこう……、着物といった和風の服を着ているイメージがあった。

 だけど、この天狗少女は和風な服とは正反対のブレザーの制服を着ていた。


 妙に違和感がすごくて、俺は落ち着かなかった。


 「君、その服はなんだ?」


 紅葉があえて俺が触れなかった部分に触れやがった。

 

 「見て分からないの? 人間達が着る制服ってやつですよ。そうですよね?」



 そう言って俺の方に視線を向ける。 

 俺は軽く頷いておいた。

 

 紅葉は横で不思議そうに首を傾げていた。   


「なんだい? そのせいふくって」



「人間が学校似通うために着る服だよ。その学校の生徒の証みたいにもなるのかな」


 

「ふ〜ん」


 紅葉はそれだけ返事をして興味がなさそうにしている。

 せっかく説明してやったのにそんな反応されるとちょっとだけムッとなる。


「信さん、あまり頭に血をのぼらせては疲れるだけですよ? 深呼吸して一旦落ち着きましょう」


「え? あ、あぁ……」   


 天狗少女が俺をなだめるように優しい声音で言った。

 俺は一瞬戸惑いながらも言われたとおり、深く深呼吸を繰り返した。


 大人が少女になだめられるなんていい笑い話だな。


「ありがとう。落ち着いたよ。えぇっと……」


 お礼を言おうと彼女の名前を呼ぼうとしたが、そう言えばまだ彼女の名前をうかがっていないことに今更ながら気づく。


「私の名前は天音です」


 俺の考えを見透かしたように、彼女は俺のほうを見て笑顔で名乗った。

 

「え? あぁ天音ね。天音……」


 俺はすこし驚きながらもその名前を口にする。

 

 天音はリビングの中をぐるっと見渡す。

 テレビや本棚といったモノを物珍しそうにまじまじと見る。


(テレビとか見たことないのか? 妖怪だからか?)


 俺は後ろからそれを眺めながら内心で呟く。

 

 天音は本棚から1つ本を取り出して中を開く。


「なんですかこれ? 文字がびっしりと並んでますけど」


「あぁ、それは小説って言うんだ」


「しょう……せつ?」


「なんだ? 知らないのか?」


「そりゃぁ私の住んでたところなんて人っ子一人いませんからね。本なんてなおさらです」


 まぁ確かに人一人いない所に本なんてある方が不自然だからなっ……


 ん? まてよ? 俺こいつがどこから来たかとか全く知らなくね?


「確かにそうですね」


 俺の心の中の呟きに反応するように天音が言葉を発する。

 先程から薄々分かってはいたがやはりそうか…。


「まただ。お前、もしかして人の考えてる事が分かるのか?」


「はい、そのとおりです♪」


 天音がピースサインを指で作りながら笑って答える。

 そしてその言葉に大きな声で反応する声があった。


「それは本当かい?! 隠し事とかすべて丸裸にされちゃうじゃないか!」



「そうですね。だから私はあなたの隠してることも既に把握していますよ?」


 天音がニコニコしながら紅葉の顔を見て言う。

 紅葉はそれを聞いて顔を青ざめる。


 そして縋るように天音の制服の胸元を掴む。

 紅葉と天音とでは体格に差があるので天音がそれを見下ろす形になっている。

 

「頼む……。頼むからそれだけは……内緒にしてくれないか……」


 紅葉が震える声で今にも泣きそうな表情で呟く。

 俺はそんな紅葉の様子に驚愕する。


 いつもは妙に男気があって明るいテンションの紅葉だから、こんなに女々しい紅葉を見るのは新鮮だった。


 それに、その紅葉の秘密も当然気になる。


「頼むから、お願いだ……」


「ふふ♪ どうしよっかなぁ〜♪」


 天音はからかうように言う。完全に面白がっている様子だ。


 それがきっかけか、制服を掴む紅葉の手にだんだんと力が入る。


「あ……」


 俺はそこて思い出す。紅葉の鬼だというたった一つのアイデンティティを……。


「紅葉、一体落ち着けっ……」


 俺は最悪の展開を防ぐために紅葉を一旦なだめようと声をかける。


 だが、その瞬間―――。


 ビリっ


 一つの小さな音が俺達の耳をつんざく。

 そして、それを合図に天音が着る制服が一瞬のウチに崩壊を初め、視界には真っ白な肌が映る。


 天音の上の服はバラバラに崩壊し、多少成長している胸を支える下着のみの状態となっていた。


「ひゃあぁぁぁ??!!!」


 天音はその瞬間両手で胸元を隠すようにしてそのまま後ろを向く。


 だが、時すでに遅しである。

 俺は天音の下着をこの目でしっかり見てしまったから。


「む? なんで頬を赤らめているんだい? 肌が表に出てしまっただけだろう?」


 紅葉が本当に分からないといった様子で首を傾げながら呟く。


 この鬼の常識知らずも健在ようだった。

 

 すると、天音が顔だけをこちらに向く。顔をトマトのように赤らめて目尻に涙をためながら俺に聞いてきた。


「……見ました?」


「見てない……」


 俺は天音のために優しい嘘をつくことにした。ほんとの事を言っても良かったが、それだとあのうちわで何されるかわかったんじゃない。


 天音はそれを聞いて「そう……」とか細い声で呟く。


 そして次の瞬間、天音から蹴りが飛んでくるのだった!?


 俺は訳がわからず「なんで?!」と内心で呟きにながらその蹴りを受ける。


 見た目は女の子でも、本質は妖怪。故にとんでもない威力の蹴りを受けた俺は、気絶しそうになる。


 気を失いかける最中、天音が俺を軽蔑する目で見下ろしながら何かを喋っていた。


「あなた、私が心読めるってこと、忘れてましたね。この変態」


 その声を最後に俺の意識は消えるのだった。











 

 

 


 

 

 











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妖怪少女とのハチャメチャ生活?! @hika3

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