少女と箱庭 後編
ヒバナの操作に合わせてソルジャーは勢いよく飛び出し、そして前のめりに転んだ。
「あ……あれ?動けない。 まさか攻撃されてる!?」
「ヒバナ、あなたまさか受付でもらった
「えっ、サブ武器の枠に装備してるけど」
「であれば……重量オーバーですわ。 エクスマギアは頭、胴、右腕、左腕、脚、メイン武器、サブ武器の合計重量の上限値が決められています。この数値は機体を動かす為の探求者の魔力、つまりはレベルによって増加するので、今のあなたでは……」
「受付さんの長く楽しんでってそういうこと!?」
「その武器はその辺に置いておきなさい。わたくし、作戦を考えましたわ」
「奴らが見えたな。お前はまずソルジャーの方を速攻で片付けろ。その後あの防御型を挟み込んで落とす」
「あいよ!」
森を抜け、開けた場所に出たところでソルジャーとウォリアー、シュヴァリエとオーガがそれぞれ交戦を始めた。ヒバナは、山賊のような見た目をしたウォリアーの斧による攻撃をギリギリで避けながら、隙を見て反撃に転じていた。
「当たってるのに、全然ダメージが出てないっ!?」
「当たり前だ!俺は機体各部位の強化をしている、防御力が違うんだよぉ!」
「だとしてもッ!」
ヒバナが苦戦している中、ソフィアはオーガの猛攻を左手に構えた盾と右手の槍で的確に防いでいた。
「重厚な見た目通り流石の防御性能か、だがこいつは防げるか!」
オーガは素早く空中へ飛び退きながら手にした金棒を上空に構えた。すると金棒に付いた無数の棘が飛び出し、追尾ミサイルのようにシュヴァリエを取り囲み迫ってきた。直後、大きな爆発音とともに爆炎がシュヴァリエ包んだ。
「これで……ぐぅっ?!」
突如、煙の中から高速で飛んできた細く鋭いエネルギー弾がオーガの左肩に直撃した。煙が晴れると、後ろに盾を構え、前方は槍を傘のように展開して攻撃を防いだシュヴァリエが立っていた。
「なるほど、それが魔物のドロップ品鑑定でごく稀に出るとされているユニークレアの武器……」
「≪セレスティア・ガンブレラ≫、わたくしの壁はそう薄くはなくてよ」
「ちっ、ソルジャーの方にも何かしてやがるな」
「わたくしのハコニワは徹底的な防御構成。一時的ですが、防御アップのサポートアイテムをヒバナに使いましたわ」
「
一方で、少しずつウォーリアにダメージを与えていたヒバナは、目の端で必殺技を使う為のゲージが溜まったのを捉えた。
「来た! ソフィア!!」
「あなたたちの視線を釘付けにしますわ!≪
「なんだっ!? ターゲットが勝手にシュヴァリエの方に!?」
「落ち着けっ!! 一旦ターゲットを切ればいい!」
「今っ!! ≪
「うわぁぁぁ!?」
炎を纏ったソルジャーの必殺の一撃は、的確にウォーリアの胸部のハコニワを貫いた。
―― ウォーリア
「一瞬の隙で、やってくれる……」
「
「しかし、予定外だが想定内。これで発動するな、俺がハコニワに置いてる≪孤軍の鬼の面≫が」
「それはっ!? チームが自分1人になった時に能力が上がるハコニワパーツ。そのために敢えて2vs2の勝負を!」
「エクスマギアの性能は勝敗を分かつ決定的な要素だ! これでユニーク武器だろうと……まずは奴から!」
「……ッヒバナ逃げてっ!!」
全身に赤いオーラを纏ったオーガが凄まじいスピードでヒバナに迫ってきた。そしてそのまま剣を構えたソルジャーの右腕を吹き飛ばした。
「くっ、なんてパワーとスピード!?」
「このまま落とす!!」
続け様にソルジャーの頭を潰し、とどめを刺しにかかったところで突如ソルジャーが目の前から消えた。
「何っ!? これは、大ダメージを受けた時に一定時間透明になるハコニワパーツか。初心者が何故そんなものを……いや、奴はどの道もう何も出来まい」
オーガはシュヴァリエの方へ向き直り、再び猛攻を開始した。
(まずいっ……頭と武器と右腕をやられた。このままじゃソフィアも。何か、何かひっくり返せるだけのものは……)
近くの森に隠れたヒバナは必死に周囲を見渡していた。そしてふと、ボロボロの機体状況を告げるステータス表示の中に1つの光明を見つけた。
「これは……これなら、これしかないっ! ソフィア!!」
「なるほど、それはもしかするかもしれませんわ」
一方で、探究者ギルドの一角で起こった対戦を少し離れた位置から見届ける男女2人組がいた。
「あのオーガの人、最近良くない噂聞くプレイヤーだよね。あっちの子がトラウマになる前にこの勝負中断させた方がいいんじゃない?」
「そうですね。しかし、
「ま、しゃちょーがそう言うなら」
こうしてヒバナ達の戦いは佳境を迎えるのであった___。
「くぅっ……」
「さぁ、そろそろその自慢の傘と盾で防ぐのも限界だろう!」
強化されたオーガの猛攻はソフィアを次第に追い込んでいった。そして、ついにはシュヴァリエの盾を後ろに弾き飛ばした。
「ここまでだな、まずはガラ空きの左腕でも吹っ飛ばして……」
「ここがどこだか、ご存知ですか?」
「……お前たちの出撃地点の近くか、それがどうした」
「あなたは追い込んだのではなく、誘い込まれたのですわ!」
「何っ……つまらんハッタリだな、しかしまた変な小細工が発動しても面倒だ。一撃で終わらせる、≪
オーガが必殺技を撃とうとした瞬間足元が光り、走った電撃がオーガの各部に流れる魔力を遮断させた。
「マギアバーストに反応して5秒間スタンさせるトラップかっ!しかしその程度!」
「
「はぁ!?」
シュヴァリエがすかさず横に飛び退くと、その影に隠れていた、オーガが弾き飛ばしたシュヴァリエの盾が少し遠くの地面に突き刺さっていた。そして、その盾に巨大な砲塔を乗せたソルジャーの姿が見えた。
「お前はっ……何故そんな武器を持ち込んでいる!? 何故その武器を持ち運べているっ!?」
「新たな冒険の始まりに祝砲を、ヒバナッ!!」
「全部乗っけて! ≪
「バカなぁぁぁ!?」
電光を帯びた光弾は、空間を切り裂くような速度でオーガへと一直線に進み、そのまま着弾したオーガを連れ斜め上空へと昇っていった。
「打ち上がれぇぇ!!」
ヒバナの叫びに呼応するように光弾は炸裂し、大きな爆発音と共にオーガは空中で爆散した。
―― オーガ
―― WINNER ヒバナ & ソフィア ――
「勝っ……たぁぁ!! 私たちって……最高!」
「ですわー!」
「「いぇーい!!」」
激闘の末、見事勝利したヒバナとソフィアは手を合わせ飛び跳ねながら喜んだ。
「ソフィアすごいカッコよかった! フィナーレですわ……ってとこ!」
「あれは上手くいったからテンションが上がって、からかわないでください、もう!」
「……1つだけ聞かせろ、何故お前はあそこで
「えーっと、まず超強い武器!と思って装備してたんだけど、知っての通り重量制限で出撃地点に置いていく事になって。そのあと頭とか腕とかやられた時に気づいたんです、機体の総重量が減ってる事に。それからソフィアに上手く誘い込んでもらって、片腕で不安定だったけど何か地面に盾が刺さってて……」
「基本部位を落として重量を……? それでも偶然が重なり過ぎている。 いや……全て含めて完敗だ。 あんたも悪かったな、無理に引き入れようとして」
「いえ、分かってくだされば結構ですわ」
「それじゃ、邪魔者はとっとと消えるとするか。折角のお祝いムードが台無しだ」
「次も私が勝ちますよ!リードさん!」
「……次は負けん」
そう言い残し、リード達は探求者ギルドから出ていった。問題行動の報告があった彼らを見極めるのが目的だった、熟練の雰囲気がある2人はそれを静かに見送るのであった。
「しゃちょー?あの人たち捕まえなくていいのー?」
「彼らはもう大丈夫でしょう。誰しもが、最初は子供のような純粋な好奇心を持ってこの世界に降り立った。
「そういえばソルジャーの子が使ってた≪インビジブル・ドレス≫、しゃちょーがあげたでしょー?」
「さて、何の事でしょうか」
「最近噂になってるよー、怪しいパーツ配りおじさん」
「おじっ……!? 来たる艦隊戦には人数が必要ですので、一人でも多く楽しく続けていただける方が増えればと……少し控えるとしましょうか……」
「んーじゃあ気を取り直して、どこかに隠されてる伝承のエクスマギア探しに戻ろー!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「疲れたー、楽しかった! でもやっぱり疲れた……」
「あらあらあらあら、それではこの先の目を見張る大冒険に着いて来られませんわよ!」
「随分と嬉しそうだね……」
「ええ、わたくしこの世界で守るべき相手を見つけまして。この気持ち、まさしく」
「ねぇソフィア、腕掴むのやめてくれると結構嬉しいんだけど。歩きづらいし……」
「ソフィでいいですわ。ああ、わたくしたちの伝説はこうして始まるのですね……!」
「あはは……これからもよろしくね、ソフィ」
その世界は、想像力を形にする。
一歩踏み出した少女の未完成だった世界は、今ゆっくりと形を成してゆく。
魔導仕掛けの箱庭 inami。 @inami_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます