すぱい…ゆる、わくわく!

ボクは、たまたまお店の方にに顔を出していた。

そこまで忙しくもなかったから、常連さんとお喋りをしながらホールを回していく。

ピークもすぎて落ち着いてきた頃、1人の訪問者が現れる。


「こんにちはー!!ここって従業員募集してないんすかー!!」

と声を張り上げて言う。

年齢は20代くらいの男性。背丈は170cmないくらいで、肉付きはそこそこいい。


ちょうど○○がキッチンの方に行ってるから今ホールにいるのはボク1人。

…めんどくさいなぁ。でも通さないと不味そうだし、いっちょやりますか〜!


「募集はしてないけど〜…やる気があるなら面接はしてあげるよ?」

「裏おいで」

机を拭く手を止め、訪問者を裏へと案内する。


「あ、○○ー!なんかバイト?希望の人来たから面接してくるー!ホールよろしく〜」

一応、一声かけてからのがいいよね♪



「適当に座っていーよ」


「あざすー、失礼します!」


「さて、うちで働きたいんだっけー?」

「でもほんとに人手は足りてるんだよねー。ま、とりあえず履歴書見せて?」


「お願いします!」


差し出された履歴書をななめ読みする。

名前神谷悠斗 、年齢25歳。

…ふーん?


「…なるほどねー、神谷くんね。 まー、いっか!」


「キッチンかホール、どっち希望?あと週にどのくらい出れるの?」

勘違いの可能性もあるから、念の為普通に面接を続ける。

すると――


「あ、甘味処の方じゃなくて殺し屋の方っす」


………やっぱり。最近うちのこと嗅ぎ回ってるハエいると思ったんだよね〜

何よりもボクはこいつを知っている。大方敵情視察、ってところかな〜?

でもわざわざ偽名まで使うんだ。本当は篠宮陽介なのにね?


…でもちょっと泳がせたら、害虫駆除も一気にできるかも?

利用しない手はないよね♪


「あ〜、やっぱり?でも今くるの危険だと思うよ〜?」

「最近うちの周りハエがいるからさ〜。あっそうだ!駆除したら連絡してあげるよ それでどう?」

ちょっとだけ煽ってみる。ここでブチ切れとかしてきたら楽なんだけど。


「……それでも!どうしても今入りたいんす!!実力が不安なら試してもらっても構いません!!」


ちぇっ、スルーかー。つまんないの。

「あぁ、そう。じゃあいいよ 採用。ハエに情報抜かれないようにだけ気をつけてね♪」

「あと、実力は一目見れば大体わかるからそこは疑ってないから♪ 安心して?」


「本当っすか!あざっす!!!これからよろしくお願いします!先輩!」


「あんま大きい声出すのやめてくれる?お店の方に聞こえるじゃん。」

「とりあえず案内するから着いてきて。」


その日は新人の(名前どうしよう…🤔)に施設内を案内して終わった。

他のみんなには害虫駆除するから1人雇ったよ♪とだけ伝えておいた。



翌日、新人の神谷悠斗改め、風切はあび施設内を嗅ぎ回っているようだった。


びとの温室、あやの研究室、たぎの(キャラシできてから書く)

一人一人に接触して仲を深めようとしているようだった。


そんなに露骨じゃ自分はスパイです、って言ってるようなもんだよ?"ジャッカル"さん♪

…今は風切なんだっけ?どっちでもいいけど。



「風切。今いい?」


「あ!ウツタヒメ先輩!探しましたよー!!どうしたんすか?」


「依頼が入ったから行ってもらおうと思って。」


「え!マシっすか!!行きます!行かせてください!!」


「じゃ、よろしくね♪細かい内容はここに書いてあるからー」


「了解っす!」


「で、ボクになんか用事あるんじゃなかったの?」


「あ、そうでした!今日道とか覚えるために色々見て回って、他の先輩方に挨拶したんすけど…ウツタヒメ先輩専用の部屋みたいなのだけなかったのでどこにいるか分かんなくって!」


「だってボクは白香で斬るから。ウカノミタマとかツツヒメみたいに栽培とか研究しなくていいし、カモノオオミカミみたいに彫刻刀研ぐ必要もあんま無いしね〜」


「なるほどっす!あざす!!」


「ま、とりあえず依頼行ってきて?ボクも他の依頼行かなきゃだから。」

そうそうに会話を切り上げ、視界の端に見えたツツヒメに話しかけに行く。


「ツツヒメー!!煙玉1個くれないっ?」




「ふぅ…こんなとこっすかね。」


「任務のため、とは言っても…ちょっと厄介すぎじゃ…」


もっと身構えていたのに驚くほど簡単に潜入ができてしまった。

――俺ってスパイの天才か?


っと、依頼が終わったら通信を入れるんだった。

「あーあー!こちら風切。依頼完了っす!」


いつもこなしている依頼よりもかなりハードで、疲れた。


帰ったら組織に報告をするつもりだったっすけど…明日まとめて報告でも怒られないっすよね!



ここが、会議室って感じか?


っと!これであび施設内の地図ができたっす!


ウツタヒメは相変わらず今日一日見かけないし、他3人は昨日と同じ場所か甘味処にいた。


ウツタヒメは自分が普段いる場所を教えてはくれなかった。

…一応、少しは疑われていると見ておくっす!



踵を返し、会議室を後にしようとした時いきなり肩を叩かれる。


「うわっ!?誰っすか!?!?俺は何もしてないっす!!」


「ボクだよ、ボク。」


振り返るとそこにはウツタヒメがいた。


「な、なんだウツタヒメ先輩っすか…!驚かせないでくださいよー!!」


「背後に人がいることくらいわかると思ったんだけど…まいいや。」


それが分かるのはあんただけだよ。


「…それで何か御用っすか?また依頼とか?」


「今日は依頼じゃないよ。」

「暇だから手合わせにでも付き合ってもらおっかなって♪」


「俺でいいんすか!?」


「ほら、他の3人って剣とか刀じゃないから。手合わせするにしてもボクが有利すぎるでしょ?」

「でもキミなら剣だから公平にできる、ってわけ!」


「なるほどっす!」

これはチャンスだ。戦う上での癖を記録したら大きなアドバンテージとなるっす!



「ボクがこの木刀そこら辺に投げるから、それが落ちたら開始の合図。いいね?」


「はいっす!」


「じゃ、行くよー」


投げられた木刀がカランと音を立てて床に落ちる。

その音を聞き動こうとした時、首筋に固い木の感触を感じる。



……え?


「はいっ!ボクの勝ち〜♪キミ、やっぱ弱いね。」


まだ木刀が落ちてから1秒も経っていない。

そんな、そんな芸当が人間に…?

しかも小柄で筋力なんて無さそうな細くて白い腕の女に。

……ありえない!!

きっと何かズルを…


「ぜ、全然見えなかったっす…!!」

「もう1回!もう1回お願いするっす!!!」


「もう1回?ま、いいけど。今度はキミが投げてよ。」


「それじゃあ、投げるっすよ!」

思いっきり木刀を投げた。


また、木刀が床に落ちた音がした。

動こうとした時にはもう遅く、目の前には笑うウツタヒメがいた。



化け物。そうとしか思えない。

それでも、こいつに一矢報いたい。


「うわー!!はやすぎっすよ!!!」

「ちょっともう1回お願いします!!これが最後なんで!!!」


「え〜…。キミ弱いじゃん…。」


「そこをなんとか!!!!」


「そこまで言うならまぁ…。けどこれが最後ね。」


何とか説得することができた。


開始位置に立とうと背を向けたウツタヒメに、俺は躊躇いもせず木剣を振り上げながら距離を詰める。


いける!!当たる!!!


そう確信していた。



カンッと木がぶつかる音がした。


「不意打ちなんてダメじゃん♪でも、しちゃダメなんて言ってないもんね?」


「このくらいなら〜、捌ききれるよね?」


そう言って目の前の少女は猛攻を始める。


っ…!!これは、かなり手加減されている。それでも俺には捌ききるので精一杯だった。


こなくそっ!!!


力いっぱいに迫る木刀を弾いた。

ウツタヒメは驚いた表情をし、よろける。


今ならいける!!


攻撃に転じようとした時、少女はにやりと笑った。



罠!?

もう止められない!!どうしたら…!!



バキリと音がし、俺の持つ木剣が折れる。

直後に、首筋に木刀を当てられる。


嘘だろ!?木だぞ!?!?

木を折る程の速さだったのに首筋で寸止めをする。


あぁ、こいつは正真正銘の化け物だ。



「はいっ!また死んだ!」

「じゃ、片付けよろしくね〜♪」

と言い残しウツタヒメは稽古場から立ち去る。



これは、絶対に組織に報告しなければならないっす…。

危険すぎる。





よし、ここなら電波もいい。

報告は……こんなとこだろう。



ウカノミタマは毒性のある花を多く育てている。

ツツヒメは研究室に篭もり、様々な研究をしているようだった。

カモノオオミカミは彫刻刀をよく研いでいる。恐らくあれが武器なのだろう。

ウツタヒメは化け物じみた身体能力をしている。かなり危険だ。



これと施設内の地図を添付してっと

よしっ、送信!!


これはかなり有能スパイっすよ〜!!




風切、神谷悠斗がどこかに通信を送ったのを捉えた。

通信の内容はあびの内情を書いたものだった。


「あ〜!やっぱりハエだったー。」


「書き換えちゃお〜っと♪」



ウカノミタマは〜…料理が上手、かなっ!

ツツヒメはクールだ。っと♪

カモノオオミカミはー、芸術に精通している!

ウツタヒメは…は〜!?化け物?失礼しちゃう!ボクは普通の人間なのにー。

ま、ここはかわいい、かな〜!


添付画像は消しちゃお♪

よし、OK♪送信っ!


だめだめなスパイだよね〜。ご愁傷さまっ♪

通信はバレないようにしなきゃだよ、ジャッカルの陽介お兄さん?

今は風切の悠斗お兄さんだっけ?どうでもいいけど。



あびに潜入してもうすぐ1ヶ月が経つ。


……おかしい、あれからも何度か有用な情報を送っているのに一度も返事が来ない。

そろそろ撤退命令が出てもいいはずなのに。


頭を悩ませていると、声をかけられる。


「何か悩み事?お兄さん?」


振り返るとウツタヒメが俺の顔を覗き込むように立っていた。


「うわっ先輩!驚かせないでくださいよ!!」


この1ヶ月間、俺はこいつを見つけられたことがない。

いつも後ろから話しかけられて初めて気づく。

他の人にそれとなく聞いても教えてくれない。

どこかに隠し部屋があるのか…?


「――おーい、聞いてる?」


いけない、考えすぎて何も聞いてなかったっす…。

「あっすいません!ちょっと考え事してて…なんでしたっけ?」


「しっかりしてよね〜。端的に話すけど、任務のついでに害虫駆除するからよろしくね?」


害虫…?


「虫っすか?そんなことまでするんすね!了解っす!」


「ハエだよハエ。ま、2時間後には出るから準備済ませといて」


ハエ…いや、そんなまさかね。

準備するっすよ!



殺しの依頼はすぐに終わった。

俺の出る幕はなく、ほとんどウツタヒメが終わらせてしまった。


彼女は今、滴る血を満足そうに眺めている。


理解できないっすね…。


「ウツタヒメ先輩!そろそろかえ…」

帰ろう、と声をかけようとした時銃声が響いた。


どこから…?


考える間もなく、左胸に痛みが走る。


「がっ!?」

撃たれた!?


当たりを見回そうとした時声がかかる。

「よう、ジャッカル久しぶりだな。あー今は風切だっけか?」


「!?」

この声は…!!


振り返ると、そこには同僚が立っていた。

煙を吹いている拳銃を持って。

同僚だけじゃなく、背後には4、5人の先輩、後輩方もいる。


どうしてここに……そうか!!俺を救いに来たってわけっすね!

1発くらいじゃ死なないから撃って、ウツタヒメに死んだと思わせる…そうに決まってるっす!!


「…なっ、お前らは誰だ!?」


「おいおい、この1ヶ月間で同僚様の顔を忘れたってか?」

「こりゃ傑作だ!すっかり懐柔されやがって」

「役に立たねぇ豆知識送ってきやがってよぉ。お前、どう落とし前つける気だ?」


は…?どういう…?

助けに来たんじゃ…?

どうして俺たちの繋がりをバラして……?


「な、何言ってるっすか!?」

「それに、情報はきちんと役に立つ物を送ったじゃないっすか!!」


「はぁ?お前それ本気で言ってんのか?」

「誰が四季送りの好きな食いもん調べてこいっつった?」

「お見合いじゃねぇーんだぞ。」


「……え?」


「えっ?じゃねぇよ。 お前本気であのクソくだらない情報が有用だと思ってんのか?」


「お、俺はっ!!」


「ま、じゃーな役立たず。」


同僚が銃口を向け、引き金を引く。

俺はそれを見てがむしゃらに剣を振るった。

それでも勢い少し弱める程度にしかならず、俺の右腿に着弾する。


っ!!こうなったら!!


「たっ、たすけ!!ウツタヒメせんぱい!!!助けてほしいっす!!」


助けを呼びかけても、少女は動かない。

それどころか、姿が見えない。


「…先輩!?どうしてっ!!」


「え?…なんだ、キミまだ生きてたんだ。」

声のした方を見ると、鉄骨の上に立っている姿が見えた。


「ひ、酷いなぁ先輩ってば…。とにかく、助けてほしいっす!」


「?なんで?」


「……え?」


「なんでボクがキミを助けなきゃいけないの?」

「仲間でもないのに。」


「た、確かに俺は元はスパイとしてきたっすけど…!!」

「心を入れ替えるっす!!あびに!誠心誠意尽くすっす!!」

「それにっ、俺を雇ったのは先輩じゃないっすか!!」


「 確かにキミを雇ったのは事実だよ。でもさ〜…」


「キミは害虫駆除の道具でしょ?なんで仲間になれると思ったの?」


「なっ…!でも俺だって役に立てます!!あの…ほら!ツツヒメ先輩なんかよりも俺のが強いっす!!」


「…は? それ本気で言ってる?」

少女は嗤ってそう言った。

表情は笑っているのに、目は笑っていない。


「あんたなんかツツヒメのが強いに決まってるじゃん。相手の実力も見抜けないの?これは確かに役立ずだね〜。灰燼会もこんなゴミ抱えちゃって、たいへ〜ん!!」


「……は?」

嘘だ。絶対に嘘だ。信じられない。

あんなガキみたいな体型の女に、俺が負けるはずがない。

…そうだこれはハッタリだ。


「それに〜お前は教養もなければ、頭も悪い。端的に言って馬鹿だよね。」

「そんな道具必要かな?」


「っな!!でも!カモノオオミカミ先輩も俺とおんなじくらいの頭脳だと思うっす!!」


「カモノオオミカミは教養はあるよ?お前はそれすらもないじゃん。」


「お前は四季送りの足元にも及ばないってわけ。こう言えばお前みたいな馬鹿でもわかる?」

「ボク頭良いから馬鹿の考えることは分かんないんだよね〜。」



「……あ、あぁ…」


「話は終わったか?」


「終わったよ?それ、処分するならさっさとしてくれる?」


「おっと、四季送り様のご要望とあらばすぐにでも。」


「あっあ、」


「ま〜でも、そこから帰ってこれたらまた雇ってあげてもいいよ? それじゃ、ばいばーい!」

手を振り、少女はその場から姿を消した。


直後、待っていましたとばかりに銃弾の雨が俺に降り注ぐ。


叫ぶ間も無く血で視界が赤く染まった。




肉が裂ける音が耳に届く。恐らく、ハチノスにされているのだろう。


そろそろ終わったかな?


それじゃっ害虫駆除しちゃいますか〜♪


鉄骨から陽介だったものの近くに降りる。

先程の者たちは踵を返し、この場から立ち去ろうとしていた。


「ねぇ、ボクとは遊んでくれないの?」

進行方向に立ち塞がり、ついでに1人の首を斬り落とし話しかける。


ボトリ、と音がした後信じられないものを見るかのような目が自身に向く。


「なっ、なんのことでしょう?」

「いきなりうちのを殺すだなんて…覚悟は出来ているので?」


「なんで?反応できないくらい弱いそれが悪いんじゃん。」

「なんだかキミたちも弱そうだね。」


「遊ぶ価値もないかな。」

「じゃあね♪」


立ち去りながら、白香を鞘にしまう。


「は、はぁ…?何言って…」


カチンッとしっかりと収納した後、背後でドサドサと物が倒れる音がした。


はいっ、害虫駆除完了♪

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