18.「火山内部のアジトの捜索(※レピア視点)」

 時は少し遡って。


「マグマって、こんなに熱いのね……」


 汗を拭いつつ、生まれて初めて目にしたそれに対する感想をレピアが呟く。


 レピア・ファーラ・ナフィ・カカスは、レイビット帝国を横断、西隣にあるリンティグーデ皇国に入り、北東部の活火山の山頂に来ていた。


 眼下には、ぐつぐつと煮えたぎるマグマが見える。


「ハッ! まさに灼熱って言葉が似合うね」

「ナフィ、アイスが恋しいの!」


 彼女たちが乗ってきた部下のモンスターたちであるベベア、フェリリ、グフォンもまた、この熱気は耐え難いらしく、不快そうに唸り声を上げる。


 登頂する前に、念のために火山の周囲を調べてみたが、どこにも出入口は無かった。


 山の斜面に強引に穴を掘って内部に侵入、という強硬策も考えたが、情報屋のメイフォルさんから聞いた本来の正規ルートは、火口から入る、というものだった。


「まぁ、普通に考えると……」


 それが一番無茶だと思うんだけど……


 心の中でそう呟くレピアだが、ここまで来たのだ。

 弱音など吐いていられない。


「そうよ! こんな機会は、まず無いわ!」


 せっかくヴィラゴさまが、あたしに期待してくれたんだもの!

 応えなきゃ!


 氷魔法を得意とする自分に、こうやって大役が回って来たのだ。

 きっちり任務を遂行することで、ヴィラゴさまの役に立ちたい。

 そうすれば――


「きっと、あたしのことを、少しは特別に想ってくれるわ……!」


 今回の任務において、レピアが密かに目標としていたことが、それだった。


 無論、大切な仲間であるラルシィは絶対に助ける。

 自分の故郷を壊滅させたマヴァヌには、必ず復讐する。


 でも、その上で、ヴィラゴさまに、今よりもちょっぴり特別な女の子として意識してもらいたいのだ。


 だから、同じく氷魔法を使えるカカスに「お願い、あたしにやらせて!」と、事前にお願いしたのだ。


「やるわよ! みんな、お願い!」

「ハッ! 任せな!」

「ナフィの魔力、あげるの!」

「キャハッ♪ あーしの力、貸したげるし!」


 眼下のマグマに向かってレピアが両手を翳すと、ファーラ・ナフィ・カカスがその背中に手を当てて魔力を流し込み、レピアの身体が眩く光り輝く。


「『アイシクルレイン』!」


 無数の氷柱が空中に生み出され、マグマの海に飛んでいく。

 一瞬で蒸発させられてしまうが、レピアは構わず発動し続ける。


「『アイシクルレイン』! 『アイシクルレイン』! 『アイシクルレイン』! 『アイシクルレイン』! 『アイシクルレイン』!」


 少しずつマグマの勢いが弱まり、黒く変色していく。


 今だわ!


「『アイス・ペネトレーション』!」


 腰のレイピアを抜くと同時に、眼下に向かって虚空を貫くと、マグマの底まで斬撃が貫くと同時に絶対零度の冷気を放出、一気に全体を氷漬けにした。


「はぁ、はぁ、はぁ……やったわ……!」

「っと!」


 ふらつくレピアを、背の高いファーラが支える。


「ハッ! あとはあたいに任せておきな! おらああああ!」


 跳躍したファーラが、戦斧の一撃で、凍った溶岩を破壊、大きな穴を開ける。


「どんどん行くよ! おらああああああああああああ!」


 凄まじいスピードで掘り進めていくファーラに、「ナフィも掘るの!」と、逆手に持ったナイフに風を纏わせた幼女が、眼下に向かって跳ぶ。


「キャハッ♪ 二人ともすごい積極的に飛び込むし!」

「!」


 積極的に飛び込む……

 あたしは、ヴィラゴさまの懐に積極的に飛び込んだことが今までに一度でもあった?

 

 もしかしたら、ただ任務を真面目にこなしているだけじゃ、不十分なのかもしれないわ……

 何とかして、恋愛対象として考えてもらわないと……


「で、この子たちはどうするし?」

「え? あ、ああ、そうだったわね」


 カカスが顎をしゃくった先、部下のモンスターにレピアは目をやる。


「フェリリ、ベベア、グフォン。あたしたちはこれから敵のアジトに侵入するわ。多分中は狭いと思うから、貴方たちはここで待機してて。もしマヴァヌらしき人物が逃げてきたら、力を合わせて仕留めて欲しい。でも、もし敵わないと思ったら、無理せずに退却してね」

「グルッ!」

「ゴアッ!」

「ピイッ!」


 フェンリルたちが頷く。


「ゴクッ。ふぅ。じゃあ、あたしたちも行きましょう!」

「とうとうアジト潜入だし!」


 魔力回復薬を飲んだレピアは、カカスと共に火口に飛び込んだ。


※―※―※


「みんな、見て!」


 満月の月明かりを頼りに暫く掘り進めた後、突如壁に魔法陣が出現した。

 半透明なそれの背後には、大きな穴が見える。


 火山の壁に横穴があるのだ。

 マグマは全く流れ込んでおらず、通路として使われているのが明らかだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……あたいに任せな!」


 一番掘削作業を行ってかなり体力が削られているはずの汗だくのファーラが、肩で息をしながらも気丈に振る舞うが。


「ナフィが壊してあげるの!」


 手にしたナイフに風を纏わせつつ、ナフィが跳躍。


 ナフィったら、また積極的に動いて!

 やっぱり、何事も積極性が大事なのかしら……


 キン


「あれ?」


 だが、必殺の一撃は、魔法陣に弾かれてしまう。


 どうやら、マグマだけでなく、あらゆるものを拒絶するタイプの魔法陣で、物理・魔法ともに、生半可な攻撃では破壊出来ないらしい。


「キャハッ♪ 最強カカスちゃんに任せるし! 『解呪ブレイクカース』!」


 パリン


 カカスが手を翳すと、ガラスが砕けるような音と共に魔法陣は砕け散った。


「すごいわ! だけど、呪いだったの、今の魔法陣?」

「多分、使い手によって魔法陣の属性も変わってくるし。大体は防御魔法か結界だと思うけど、マヴァヌは呪術魔法が得意だから、今のは一種の呪いだったし!」

「へぇ~、そうだったのね!」


※―※―※


 干し肉を食べて革袋に入った水を飲み、体力を回復させた後。


 いざ、入ってみると、横穴の中は、ゴツゴツとした岩で出来ており、通常のダンジョンと同じような感じだった。

 ただ、ダンジョンでよく見る松明は全くなく、完全に真っ暗だ。


「「『ファイア』」」


 光魔法は四人とも使えないので、ファーラとカカスが炎を手の平の上に出して、それぞれ前衛と後衛で通路を照らす。


 ちなみに、レピアとナフィは中衛だ。


「なんか、ずっと一本道ね」

「ハッ! 分かりやすくて良いじゃないか」


 真っ直ぐではなく、曲がりくねってはいるものの、分岐はなく、今のところ単純な構造だった。


 ただ、少しずつ下の方へと向かっている感じはある。

 まぁ、山の構造上、下の方がスペースが広いから、そのためだろう。


 しばらくそのまま道なりに進むと、広場に出た。


「ガアアアアア!」

「ファイアドラゴン!」

「『プロテクト』!」


 紅蓮の身体を持つ炎属性のドラゴンが待ち構えており、炎のブレスをカカスが防御魔法で防ぐ。


「ハッ! 今となっちゃ部下もいるし、モンスターは殺したくはないけど、仕方ないね!」


 戦斧を構えるファーラを、カカスが制止する。


「待つし! 多分、マヴァヌにテイムされてるけど……それも一種の呪いだと思うし!」

「え、そうなの?」


 レピアが目を丸くする。


「『解呪ブレイクカース』!」

「ガアッ!?」


 両前足で頭を抱えて天を仰いだファイアドラゴンは、再びこちらを見た時には、その瞳から闘争本能が消えていた。


「どう? あーしの言葉、分かるし?」

「ガアッ!」

「あーしたちは、出来れば戦いたくないし。退いてくれるし?」

「ガアッ!」

「キャハッ♪ 良い子だし!」


 ファイアドラゴンは、踵を返すと、彼の背後にあった大きな穴の中へと消えた。


「カカス、すごいわ!」

「ハッ! やるじゃないか!」

「ナフィ、感動したの!」

「キャハッ♪ 当然だし!」


 すごい……けど、あたしも頑張らないと!

 ヴィラゴさまに喜んでもらうんだから!


 レピアが改めて気合を入れた直後。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


「「「「!?」」」」


 突然四人が立つ地面に四つの穴が開いて、全員が落下。


「『ウィンド』!」

「『アイスムーブ』!」


 咄嗟に風を纏って飛ぼうとするナフィと空中に浮かんだ氷板を足元に出現させるカカスだったが。


「いやああああ!」

「触手!? キモいし!」


 穴の中から触手が伸びてきて二人の足を取り、強引に穴の中へと引きずり込む。


「みんな! 合流することを最優先して! マヴァヌを見付けても、絶対に一人では戦おうとしないで!」

「ハッ! 了解!」

「分かったの!」

「了解だし!」


 レピアが必死に叫ぶと、仲間たちは叫び返した。


※―※―※


 ツルツルと滑る細長い穴の中を滑っていったレピアは。


「っと。……ここは……寝室……?」


 ベッドがあるだけという殺風景な部屋に着地した。


 上を見ると、自分が落ちてきた穴が天井部分に開いている。


「みんなも、同じようにどっかの部屋に行ったのかしら? でも、あたしはたまたま寝室だったってことは……」


 ベッドで男女が行う行為を想像して、レピアの頬が熱くなる。


「……きっとこれは、天啓よ。もし、そういう関係になりたいなら、少なくとも、ちゃんと好意を伝えないといけない、という。決めたわ。あたし、ヴィラゴさまに気持ちを伝える!」


 レピアは、拳をぎゅっと握り締めた。


※―※―※


「良かった! 無事だったのね!」

「ハッ! あたいが行ったのは書斎だったけど、マヴァヌはいなかったよ」

「ずるいの! ナフィも倉庫じゃなくてそっちの方が良かったの!」

「キャハッ♪ あーしは執務室っぽいところだったし! マヴァヌさまには会わなかったし!」


 部屋の外に出たレピアは、敵に知られてしまう危険性から、声を出さずに真っ暗な通路を手探りで歩き続けて、何とか仲間たちと合流することが出来た。


「それにしても、誰もマヴァヌに会わなかったのね。しかも、なんか、部屋に生活感が無い感じしなかった?」

「ハッ! 確かにな」


 仲間たちが頷く。


「でも、探し続けるしかないの!」

「ええ、そうね。続けましょう。でも、その前に、大事な話があるの」


 レピアは、仲間たちの顔を見ると、深呼吸をして話し始めた。


「あのね、あたし……ヴィラゴさまに、自分の気持ちを伝えようと思うの」


 みんながどういう反応をするのかが怖くて、思わず目をぎゅっとつぶってしまうレピア。


 恐る恐る、目を開けると。


「ハッ! 良いじゃないか!」

「ナフィも止めたりしないの!」

「キャハッ♪ 恋バナだし! せいぜいあの男と仲良くするし! あーしは応援するし!」

「え? ……良いの?」


 元々カカスはヴィラゴさまに対して特別な想いを持っていないと思っていたけど、ファーラとナフィは違う。

 自分と同じように、ヴィラゴさまのことが好きなはずなのに。


「ハッ! 勘違いするんじゃないよ! 正々堂々戦おうってことさ! 知っての通り、あたいもヴィラゴさまのことが好きだ。でも、だからと言ってあんたが告白するのを止めたりなんかしないってことさ。あたいはあたいで頑張るだけだからさ」

「ナフィもなの! ナフィは自分が一番可愛いのを知ってるの! だから、誰がヴィラゴさまに告白しようが、知ったこっちゃないの! どうせ最後はナフィが勝つの!」

「二人とも……ありがとう!」


 胸が熱くなる。

 ライバル関係には違いないが、決して互いの邪魔はしない、爽やかな関係を構築してくれた彼女たちに感謝の気持ちが込み上げてくる。


 元奴隷の後輩たちは、何人も出てきてるけど、二人は特別だ。


「本当、二人が同期でよかったわ!」

「っと! ハッ! 改まって何言ってるんだい?」

「そうなの! ナフィたちが最強同期なのは、みんな知ってることなの!」


 順番に抱き着くと、どこか照れ臭そうに二人ははにかんだ。


 こんなに温かい仲間がいて、あたしは幸せだ。


 でも……あたしは、ヴィラゴさまにとっての特別にもなりたい。


「ハッ! じゃあ、行くよ!」

「ええ、そうね!」


 四人の中で〝唯一〟炎で通路を照らすファーラが先頭に立ち、歩き始める。


「……?」


 あれ?

 なんか……違和感があるような……?


 さっきのやり取り、どこかが変だったような……?

 それに、誰かの指に、一瞬〝指輪〟が見えた気がする……

 それと、今のこの状況も、どこか最初と違うような……


 と、その時。


「! ぐへへ」

「ヴィラゴさま!?」


 突如、眼前に、ヴィラゴさまとサユと魔王ターサ、それに、初めて見るハイエルフの綺麗な少女が現れた。

 きっと、ダークエルフ探しのプロが彼女なのだろう。


 そうだ、伝えなきゃ! この気持ちを!

 せっかく仲間たちが背中を教えてくれたんだから!


「ヴィラゴさま、あの……あたし、ヴィラゴさまのことが――」


 見ると、ヴィラゴさまも口を開いて、何かを伝えようとしている。


 え!?

 もしかして、ヴィラゴさまも、あたしのことを……!?


 甘酸っぱい想いが溢れる、あたしの胸が――


「がはっ!?」

「!?」


 ――背後から何かで貫かれて吐血、あたしは倒れた。

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