12.「決着」

 魔王は、すぐにでも再生するつもりだったようだが。


「くっ! 何故再生しない!?」


 体内から生えた触手が蠢くばかりで、再生する兆しが見えない。


「聖樹たる世界樹がその体内から生み出されたのです! 悪の権化たる貴方がただで済むはずがありませんわ!」


 ビシッと指差したラルシィの縦ロールツインテールが揺れて、ついでに裸体に纏ったマントがずり落ちそうになり、「あっ」と小さな悲鳴と共に慌ててしゃがむ。


「小癪な真似を……ぐぁっ!」


 魔王の肉体が更に崩れ落ちて、隠されていた漆黒の水晶が露になる。


「あれが核――コアっすよ! あれを破壊出来れば、再生能力が完全に失われて、倒せるっす!」


 流石原作ゲームに詳しいだけあって、サユの指摘は的確だ。


「ぐへへ。サユ。俺様に雷魔法を撃て」

「何をドMみたいなことを――はっ! 分かったっす!」


 風魔法を纏い空高く舞い上がった僕の意図に気付いたらしく、サユが手を掲げる。


「上司の命令っすからね! 仕方ないから、勇者の役目、譲ってあげるっす! 『サンダー』!」


 襲い来る雷撃を聖剣で受け止めると、刃が雷を帯びる。


「成功して良かったっすけど、よく考えたら、勇者が必死こいて修行してやっと身に着ける『魔法剣』を何でそんな簡単に出来るのか、意味不明っす!」

「ぐへへ。さっきお前が使うのを見たからな」

「何すかそれ!? 数年間必死に努力した自分に謝ってほしいっす!」


 七つスキルの一つ『超成長』は、こんな時にも大活躍だ!


「ぐへへ。魔王。絶対的な防御を誇っていたお前が、先程サユの魔法剣を手で防御したのは、体表と違い体内だと魔法剣のダメージが通るからだ。違うか?」

「クックック。確かに流石の我も体内だとそれだけの威力の攻撃は防げん。だが、コアは別だ。勇者直伝の魔法剣だろうが、これを破壊することは不可能だ」


 大ダメージを受けたボロボロの身体で、しかし魔王は未だに余裕の態度を崩さない。


「『獄殺剣』」

「なっ!? 二本目とか、ズルだし!」


 口を尖らすカカスには目もくれず、地面に落としていた一本目を拾った魔王が、新たに出現させた二本目と合わせて『獄殺剣』二刀流となる。


「クックック。来るがいい。〝悪の最強剣〟二刀流で迎え撃ってやろう」

「ぐへへ。真の最強剣は一振りで十分だということを教えてやろう」


 僕は裸のレピア、ファーラ、ナフィ、そしてラルシィに向かって叫ぶ。


「お前ら。俺様に魔法を撃て」

「分かったわ! 『アイシクルレイン』!」

「ハッ! 任せな! 『ディストラクティブ・ファイア』!」

「ナフィの魔法も使ってなの! 『ワールウィンド』!」

「はぁ。本当、どこまでも人使いが荒いですわね! 『アイビー』!」

「ぐへへ。『雷氷炎風植物魔法剣』」


「馬鹿な!? 魔法剣の重ね掛けだと!?」


 それぞれ無数の氷柱・巨大な炎・幾多の風刃・蔦を放ち、その全てが僕が手にする聖剣の刃を包み、魔法剣の重ね掛けとなり、虹色の光を放った。


「勇者でも一種類なのに、何で複数出来るんすか!? チートっす! っていうか重ね掛けし過ぎて名前が訳分からなくなってるっす!」と、サユが喚く。


「ぐへへ。行くぞ」


 風魔法を操り、僕は高空から眼下の魔王に向けて落下。


「クックック。空中ならば逃げ場はあるまい。『インフィニット・ファイアブレイド』」


 数多の炎剣が全方位から僕に襲い掛かった。


「させないし! 『プロテクト』! 『プロテクト』! 『プロテクト』! 『カース』! 『プロテクト』! 『プロテクト』! 『プロテクト』! 『プロテクト』!」


 間一髪のところで、カカスの連続防御魔法が僕を守る。


「クックック。『十三獄殺剣サーティーン・キリングヘルソード』」

「二本どころか量産しちゃってるじゃないっすか!」


 二本から一気に数を増やした巨大漆黒剣が飛ばされて、僕を迎撃せんとする。


「ぐへへ。『ウォーター』」

「まだ重ねるか! しかも、獄殺剣を破壊しただと!?」


 更に魔法剣を重ね掛けしながら、僕は光り輝く聖剣を振り下ろして一本目の獄殺剣を一刀両断する。


「ぐへへ。『アイアン』」


 魔法剣への重ね掛けを続けつつ、聖剣で薙ぎ払い、二本目の獄殺剣を粉砕。


「ぐへへ。『ロック』『ライト』『ソイル』『サンド』『マッド』『ミスト』」


 その後も同様に繰り返すことで、聖剣は眩い光を放ち、魔王の獄殺剣のほとんどを迎撃した。


「ぐへへ。『雷氷炎風水鉄岩光土砂泥霧植物魔法剣』」

「ぐっ! 十三種の多重魔法剣だと!? 一体何なのだ貴様は!」


 巨躯を誇る魔王の頭上に到達、上段から打ち下ろした聖剣を、魔王が両手に持った最後の獄殺剣二振りをクロスさせながら受け止めるも。


「なっ!?」


 それすらも破壊、魔王体内のコアに聖剣を叩き付ける。


「ぐああああああ!」


 ピシッ


 コアに罅が入り、少しずつ魔王が弱体化していく。


「ぐっ! 『呪いカース』!」

「ぐへへ。『解呪ブレイクカース』」

「!」


 苦し紛れに魔王が発動した呪術魔法を、僕は即座に解いた。


「ならば、一旦退くとしよう。『空間ワー――』」

「『ユグドラシル』! 逃がしませんわ!」

「!」


 空間転移魔法を使おうとする魔王だったが、ラルシィが地中から世界樹の蔦を伸ばして魔王の巨体を束縛、光り輝く聖なる力が逃亡を許さない。


「くっ! 我をここまで追い詰めたこと、褒めてやろう。しかし、我は一人では逝かん! 貴様ら全員道連れだ! 『自爆セルフ・ディストラクション』!」


 覚悟を決めた魔王だったが。


「……何故発動しない!?」

「キャハッ♪ 気付いてないとか間抜けだし! さっきあーしが密かに『呪いカース』をヴィラゴの聖剣に掛けておいたし! 食らった相手が自爆出来ないようにする呪いだし! だから、本当は十三じゃなくて十四の魔法剣だし!」

「何だと!?」


 カカス、すごい!

 僕も負けていられない!


「ぐああああああ! こ、このままでは、〝あの姿〟になってしまう! それだけは避けねば! こうなったら、そうなる前に、自らコアを破壊して死ぬしかない!」


 自死を選ぼうとする魔王に向かって、僕は叫んだ。


「このあんぽんたん!」

「あ、あんぽんたん!?」


 魔王が目を丸くする。


「先程ナフィに、『あのおじさん嫌い』と言われてショックなのは分かる」

「いや、別にそれはショックではない――」

「だが、だからと言って自殺しようとするなど、言語道断だ!」

「いや、正に今我を殺そうとしているのは貴様なのだが――」

「問答無用! 〝あの姿〟とやらになれば、死は免れるのではないのか!?」

「!」


 ピクリと魔王の肩が反応する。


「……いや、だが、それだけは――」

「だがもヘチマもない! 魔王よ、生きろ。そして、俺様の部下になれ。せいぜいこき使ってやる」

「なっ!?」

「今後は、今までしてきた罪を償うために生きていけ。それがお前に出来る唯一の贖罪の道だ。俺様の傍で嫌と言うほど働かせてやる」


 おお! 今の、すごく悪役っぽかったんじゃない?

 良いね! 我ながらグッジョブだよ!


 ピシッピシピシピシピシッ


「ぐあああああ! コ、コアが……! もう時間がない! しかし、〝あの姿〟だけは……ええい、止むを得ん! 〝アレ〟以外の姿に変化するしかない! うおおおおおお!」


 コアの全体に亀裂が入り、かなり弱体化した魔王が、叫ぶと。


 ポンッ


 白い煙と共に、魔王の巨躯が消滅。


 煙が晴れると、中から現れたのは。


「ま、魔王が犬になっちゃったっす!」


 漆黒の犬だった。


 普通サイズ――中型犬の彼は、パッと見は犬だが、よく見ると相変わらず黒翼があり、やたら目つきが悪く、ごく普通の犬とは言い辛い。


「くっ!」


 犬となった魔王を見るに、その表情から忸怩たる思いを抱いているのは明白だ。


 どうやら、僕の魔法剣から逃れるために、巨躯を捨てて身体を小さくし、尚且つ世界樹の聖なる力の影響を受けないような、人畜無害な存在をイメージして、犬に変身したようだ。


 ただ、兎やハムスターなどではない辺り、どんな姿になろうが牙だけは失わないという決意表明なのかもしれない。


「生きながらえるためとはいえ、このような姿を自ら選んでしまうとは、屈辱だワン!」

「ワンっすか!? 世界を恐怖に陥れた魔王が!? 惨めなもんすね」

「犬畜生になり果てたとは、滑稽ですわね! 人を裸に剥いた罰ですわ! 反省すると良いですわ!」


「グルルルル!」と、唸り声を上げる魔王。


 見た目のみならず、口調にまで影響があるらしい。


「ぐへへ。魔王。今この瞬間から、お前は俺様の部下だ」

「断るワン! 姿形は変われど、我は魔王ワン! 貴様なんかに従ってたまるかワン!」

「『呪いカース』!」

「やっぱり従うワン。今から貴様は我の上司ワン! ……はっ!? 口が勝手に動いたワン!」


 愕然とする魔王に、カカスが笑い声を上げる。


「キャハッ♪ 魔王も形無しだし! ちなみに、今あーしが掛けたのは、〝ヴィラゴの命令を聞いちゃう呪い〟だし!」

「グルルルル!!」


 牙を剥き出しにして怒りを露にする魔王。


 ふっふっふ。

 僕のあまりの悪役っぷりに、流石の魔王も言葉も出ないようだね!


 そんな魔王を、レピア、ファーラ、そしてナフィが揉みくちゃにする。


「モンスターの親玉なんて、家族の仇だから絶対に殺してやろうと思ってたけど、こんな姿を見せられたら、毒気を抜かれちゃうわね」

「ハッ! 毎日いびってやれば良いさ。何度も屈辱を与えて、自分の行いが如何に愚かだったかを思い知らせてやるのさ」

「ナフィ、魔王を飼うって、考えたことも無かったけど、ちょっと快感かもしれないの! ちょっぴり楽しみなの!」


 仰向けに転がしてわしゃわしゃする彼女たちに、魔王はされるがままだ。


「や、止めるワン! 貴様ら、好き放題やりおってワン! こうなったらワン――」


 魔力の高まりを感知した僕は、瞬時に反応した。


「ぐへへ。俺様の仲間・家族・使用人に対する一切の攻撃を禁じる。あと、善良な市民もな」

「うぐっ! グルルルル!!」


 危ない危ない。

 腐っても魔王。注意しないとね!


 ただ、せっかく部下となったのだから、ご飯はあげないとだよね。


「『鑑定』。ふんっ」


 固有スキルで地中を調べた後、聖剣を無造作に地面に叩き付けて大穴を開けて、地中に埋まっていた動物の骨を投げる。


「ぐへへ。お前が部下になった記念だ。これをやる」

「ワオン! 骨だワン! ……はっ!」


 骨に飛びつき、ガシガシと噛んだ後に、我に返る魔王。

 精神は、肉体の影響をもろに受けるんだね! 勉強になるよ!


「ぐへへ。魔王よ、さっき『鑑定』で見えたのだが、今のお前は雌なんだな。種族どころか、性別まで変わってしまうとはな」


 僕の問いに、魔王は小首を傾げた。


「何を言っているワン? 我は元々女だワン。魔王の時の性別の方が、本来と違うワン」

「………………」


 一瞬の沈黙の後。


「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」


 僕たちの絶叫が荒野に響いた。

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