10.「決戦」
「レピアたちに何したっすか!?」
異様な光景にサユが叫ぶと、巨躯にレピアたちを取り込んだまま魔王が説明する。
「クックック。貴様らが必死にテイムした我の幹部モンスターたちの身体に魔法陣を埋め込んでおいたのだ」
「!」
「万が一負けた場合に、一度幹部モンスターに触れた、または近付いた敵を空間転移させて、そこに呪術魔法を掛け合わせることで、我の体内に取り込んで、魔力と生命力を搾り取るためにな」
なるほど。
サユは、聖鎧を着ていたために、空間転移魔法と呪術魔法が弾かれてしまった、というところかな。
僕に関しては、きっと、同じ悪役だから、体内に取り込むんじゃなくて、こうやって対峙した上で倒して、どちらが真の悪役かをはっきりさせたかったんだろうね。
魔王の漆黒の胴体がドクン、と波打ったかと思うと。
「きゃああああ!」
「うわああああ!」
「いやああああ!」
「ああああああ!」
レピア・ファーラ・ナフィ・そしてラルシィが魔力と生命力を吸われて顔を歪め、悲鳴を上げる。
「止めるっす!」
聖剣を手に攻撃態勢になったサユに、魔王が「動くな」と冷酷な双眸で見下ろす。
「勇者とヴィラゴよ。貴様らが我に攻撃した瞬間に、コイツら人質は殺す」
「くっ!」
サユは唇を噛み、動けない。
すごい! 流石魔王、ますます悪役っぽい!
これは、僕も負けていられない!
「このまま我が全員殺してやろうかとも思ったが、それでは少々詰まらぬな」
顎を擦った魔王が、無造作に手を翳すと。
「貴様らは、我が使役出来るのはモンスターだけだと思っているだろうが、その気になればこの世界に存在する全ての生物を
地面に魔法陣が描かれた。
「キャハッ♪ この世界で最も魔法を得意とする美少女ダークエルフのカカスちゃん、参上だし!」
直後、先日のダークエルフ少女カカスが出現。
「カカスよ。我に歯向かう愚かな勇者どもを殺せ」
「了解だし!」
軽く応じたカカスが、僕たちに両手を翳す。
「死ぬし! 『
だが。
「……へ? 何で死なないし? 『
何度魔法をぶつけられようが、僕らはピンピンしていた。
「ぐへへ。俺様は予め『
「なっ!?」
カカスが口をあんぐりと開ける。
「何そのチート!? 意味分かんないし!」
「この一週間、必死に修行したからな。おかげで俺様の『
「キー!」
悔しがり地団太を踏むカカスに、僕は「意味が分からないのはお前の方だ」と、問い掛ける。
「お前は世界一魔法を得意とする部族のダークエルフなんだろ? モンスターでもなく、誇り高い部族であるお前が、何故、魔王ごときの言うことを聞いているんだ?」
「そ、それは……と、特に理由なんてないし!」
言葉を濁し視線を逸らすカカスに、僕は「『鑑定』」と、七つスキルの一つを使うと、彼女の状態が分かった。
「〝呪い〟か。命令に従わなければ死ぬ、とは、中々悪役っぽいな。だが、邪魔だから消すとしよう。『
僕が手を向けると。
「! ど、どうやったし!? まさか、魔王の呪いまで解くなんて!」
驚愕に目を剥くカカス。
「ぐへへ。これでもう魔王の言うことを聞く必要はないだろう?」
「え? で、でも――」
と、そこに、カカスの背後に佇む魔王が口を開く。
「クックック。よくぞ我の呪術魔法を解呪した。だが、それでカカスを自由の身に出来たなどと思うなよ? ぬん」
魔王の手が輝いたかと思うと、虚空に魔法によるスクリーンが出現、映像が流れた。
「父ちゃん! 母ちゃん! みんな!」
どうやら、カカスの家族と仲間たちらしい、二十人くらいのダークエルフたちが牢屋に囚われていた。
「もし我の命令に従わなければ、こうだ」
魔王の声に呼応して、ダークエルフたちが苦しみだす。
「がぁっ!」
「あぐっ!」
「ぐぁっ!」
胸を押さえる彼ら彼女らの口許から血が伝う。
「や、やめろし!」
「やめろ?」
「いえ、その……ど、どうかやめて下さい……」
震えながら、感情を押し殺すようにそう呟くカカスに、魔王が満足気に目を細める。
「クックック。分かれば良い。勇者どもを殺せ」
歯噛みしたカカスが、僕たちを改めて真っ直ぐに見据える。
「……って訳だから。あーしに掛けられてた呪いを解いてくれたことには感謝するけど、あーしはあんたらを殺さないと、家族と仲間が殺されるし! やるしかないし!」
悲壮感を漂わせながら両手を翳す彼女に、僕は、先程の言葉を再度重ねる。
「もう一度言う。お前はもう魔王の言うことを聞く必要はない」
「だから言ってるし! そんなの無理――」
「『
「……え?」
「何だと!?」
流石にこれは想定外だったのか、魔王が目を剥く。
僕が手を向けて発動した先――映像の中では、ダークエルフたちから、歓声が上がっていた。
「信じられない!」
「呪いが解けてるわ!」
「一体、どうして……?」
「……遠隔魔法で解呪って……しかも、魔王の呪いを!? 規格外にも程があるし……!」と、呆然とカカスが見詰める中。
「きっと、あの子だ!」
「そうよ、カカスが魔王を倒してくれたのよ!」
「ああ、あの子は神童だからな!」
「そうに違いないわ! だって、あの子は呪術魔法を得意にしていたもの! 魔王の呪術魔法も攻略したんだわ!」
「!」
ダークエルフたちの言葉に、カカスが目を見開き――伏せた。
「……あーしの力じゃないし……それに、あーしは、神童なんかじゃ……」
僕は、カカスに命じる。
「ぐへへ。カカス。俺様がお前の家族と仲間たちを救ってやったんだ。お前には俺様の言うことを聞く義務がある。俺様のために、魔王が俺様の仲間たちに掛けた呪いを解け。俺様は人質を取られていて魔王に攻撃出来ないからな。お前は呪術魔法が得意なんだろ?」
「得意……だと思ってたし。でも――」と、彼女が項垂れる。
「久しぶりに故郷に戻ったら、ダークエルフの集落は魔王に襲われて、みんな攫われてたし……あーしはみんなを助けるために魔王に戦いを挑んだけど、返り討ちに遭ったし……あーしの力は、魔王には全く通用しなかったし……逆に呪いを掛けられたし……それまであーしが持ってた自信は、粉々に打ち砕かれたし……」
肩を落とすカカスに、僕は叫んだ。
「このあんぽんたん!」
「あ、あんぽんたん!?」
「俺様が命じたんだ。自信があろうがなかろうが関係ない。やれと言ったらやれ」
「ひ、酷いし!」
「良いからやれ」と更に言葉を重ねる僕に、カカスは「ああもう! 分かったし!」と、やけくそ気味に叫んだ。
「どうせ駄目だろうけど、やってやるし! 『
カカスが両手を翳すが。
「クックック。無駄なことを」
嘲笑する魔王に、魔法が弾かれる。
「やっぱり、あーしじゃ、魔王には太刀打ち出来ない――」
「『
「!」
カカスの魔法が巨大化し、再び魔王の身体にぶつかると。
ポンッ
「あっ!」
「ハッ! やっと出られたね!」
「ヴィラゴさま、ありがとうなの!」
「もう、救い出すのが遅いですわ!」
四人に掛けられていた呪いが解けて、魔王の身体から弾かれるように飛び出てきた。
「ぐへへ。受け取れ」
一瞬でレピアたちとの距離を詰めた僕が、魔力と生命力を吸われて衰弱しているであろう彼女たち四人を、一人ずつ持ち上げ、素早く投げる。
「うわっ! 無茶するし!」
慌てて順番に受け止めて地面に下ろすカカス。
「クックック。させるか」
眼前の僕たちに手を翳す魔王。
「それはこっちの台詞っす! 『デキュプル・サンダー』!」
魔力を一気に膨張させたサユが、僕たちを避けて回り込むような軌道で十本の雷撃を魔王に放ちつつ、自身も走り込み大きく跳躍、聖剣で斬りかかる。
「クックック。無駄だと言っているだろうが。防御するまでもない」
仁王立ちしたまま迫り来る雷撃を弾き、防御の姿勢すら取ろうとしない魔王だったが。
「そうっすか? 『サンダー』! 『雷魔法剣』!」
「!」
刃に雷撃を纏わせた魔法剣を、魔王は手で防いだ。
「防御したっすね?」
「………………」
ニヤリと笑いながら、サユは距離を取り、僕と共に、カカスたちのいる場所まで戻る。
「……なんて言ったっすけど、結局魔法剣で引き出せたのは、防御する姿勢だけで、全然傷付けられなかったっす。自分の奥の手だったんすけどね……。あの硬さ、異常っすよ!」
僕は、腰に括り付けてあった革袋からハイポーションと魔力回復薬をレピアたちに飲ませて回復させながら、カカスに語り掛ける。
「ぐへへ。カカス、よくやった。仲間たちを救い出せたのはお前の呪術魔法のおかげだ。褒めてやろう」
「でも、あれは、あんたが増幅したからで、あーしの力じゃ……」
「まだそんなことを言っているのか? このあんぽんたんが。お前の力に決まっているだろうが。正直、十回は増幅しなければならないと思っていたが、一回で済んだんだぞ?」
「!」
「つまり、お前の力は魔王と拮抗していたということだ。誇れ。確かに、お前は――ダークエルフは、この世界で最も魔法を得意とする部族だった」
「!」
カカスが、じっと両手を見詰める。
「あーしが……あーしの力が、魔王の呪いに打ち勝った……! ダークエルフとしての誇りも矜持も、全て踏みにじられたと思ったし……でも……でも! 通用したし……! あーしの……あーしたちダークエルフの力が、魔王に通用したし……!」
両手をギュッと握り締めて肩を震わせる彼女の瞳に、涙がにじむ。
ふっふっふ。
どうやら、僕の悪役そのものという言動に、圧倒されたいみたいだね!
「ぐへへ。言い忘れていたが、お前は、俺様に借りがある。お前の命とお前の仲間たちを救ったという借りがな。よって、今後お前は俺様の部下になってもらう」
「キャハッ♪」と、声を上げた彼女は。
「仕方ないし! なってやるし!」
最初に出会った時のように、自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。
「何か良い感じの雰囲気のところ悪いですけど、な、何でみんな普通にしているんですの!? わ、
ラルシィが両腕で必死に大事なところを隠そうとしながら、顔を赤らめる。
どうやら、魔力と生命力と共に服も魔王の体内に取り込まれたことが、ショックだったらしい。
「え? だって、ヴィラゴさまは主であり上司であり命の恩人だから。あたしのこの身体はヴィラゴさまのものだもの」
「ハッ! そういうこった。この裸体をヴィラゴさまが見ようが触ろうが凌辱しようがそんなのヴィラゴさまの自由ってことさ」
「ナフィは立派なレディだから、ヴィラゴさまが求めるなら、どこまでも大人の階段を上れるの!」
「わ、私は部下でも何でも無いですし、公爵令嬢たる者が、殿方に簡単に裸を見せるわけにはいかないのですわ!」
狼狽するラルシィ。
うん、僕もすごくドキドキしてるけど、今の僕は悪役貴族だからね!
真の悪役貴族は、美少女が裸になったくらいじゃ動揺したりしないから!
それに、今はそれよりも――
「『鑑定』」
もしかして、と思って今の魔王の身体の状態を確認した僕は、そこに一つの可能性を見た。
これなら、魔王を倒せるかもしれない!
「ぐへへ。ラルシィ」
「ひゃいっ!?」
「魔王を倒すために、お前の力を貸せ」
「ひゃんっ! わ、分かったから、直に肩に触りながら、耳元で囁くのを止めてくださいましいいいいいいいい!」
ラルシィの絶叫が荒野に響いた。
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