9.「襲撃」
《〝魔王の魔法を食らい炎剣で貫かれて大量吐血出血焼却燃焼エンド〟のフラグが立ちました。……いよいよ魔王戦よ……どうか死なないで、ヴィラゴ……》
「サポさん、ありがとう。うん、大丈夫! 絶対に生きて帰るから!」
脳内に響く心配そうなサポさんの声に、僕は力強く断言してみせる。
「おい、見ろよ、アレ!」
「何よアレ!?」
騒がしい声が聞こえたため、帯剣して漆黒のマントを身に纏いつつ家の外に出てみると。
「ぐへへ。分かりやすくて良いな」
僕たちの街の上空に、魔法による巨大なモニターが出現、映像が流れていた。
しかも、別々の場所、計五ヶ所の映像が。
「クックック。我は魔王だ」
「「「「「!」」」」」
どこかから地の底から響くような声が聞こえる。
「ティームヴィック王国の国民たちよ。我が統治する魔王国と、盟友たるレイビット帝国・ベーダイン皇国・ネーミエ共和国は、貴様らの国家を分割統治することにした。だが、安心するが良い。国王並びに王族どもの首は貰うが、貴様ら一般市民の安全は保障しよう。我に歯向かわなければ、だがな」
民たちが驚愕に目を剥く。
「おいおい、マジかよ!?」
「四ヶ国が同時に攻め込んでくるなんて、冗談じゃないわ!」
「い、いや、でも! それぞれの領土には私兵団がいるし、国軍だっているんだから! きっと何とかしてくれるはずだ!」
「そ、そうよね!」
市民たちが湧き上がってくる不安に何とか抗おうとしながら見上げる五ヶ所の映像それぞれに、侵略軍の姿が映し出された。
僕たちの国の東端・西端・南端・北端の荒野、そして中央にある国王直轄の領土にある王都の映像だ。
東端・西端・南端では、それぞれモンスター軍と人間軍が肩を並べながら国境から進軍するという異様な光景が繰り広げられる。
北端と王都はモンスター軍のみだが、魔王国が接する北端の国境は陸軍中心の編制であるのに対して、王城がある王都の上空は、恐ろしい数のワイバーンとハーピーたちで埋め尽くされている。
「な、なんて数だ!」
「あんなにいたら、いくら私兵団や国軍が頑張っても……」
「もう終わりだ……」
人々の心を満たした絶望を。
「おらああああ! 『ディストラクティブ・ファイアアックス』!」
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「「「「「ぎゃあああああ!」」」」」
炎を纏った戦斧が粉砕した。
「あれは!?」
「S級冒険者パーティー〝ビースト〟のファーラだ!」
西端にて、褐色黒髪ショートヘアの熊獣人少女が、炎に包まれた戦斧を地面に力強く叩き付けると、放射状に割れた地面から炎が吹き上がり、迫りくる敵軍に襲い掛かる。
「やあああああ! 『アイス・ペネトレーション』!」
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「「「「「ぎゃあああああ!」」」」」
「あっちは、同じく〝ビースト〟のレピアよ!」
東端にて、茶髪ロングヘアの狼獣人少女が、氷を纏ったレイピアで先頭のオーガの胴体を貫くと、その斜線上にいる者たち全員を軍の最後尾まで斬撃が貫くと同時に絶対零度の冷気を放出、周囲の者たちを巻き込みながら身体を氷漬けにする。
「たあああああ! 『ワールウィンド・スラッシュ』!」
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「「「「「ぎゃあああああ!」」」」」
「こっちは、〝ビースト〟のナフィだ!」
南端にて、サイドテールのチーター獣人幼女が、風を纏ったナイフを逆手に持ちながら疾風の如く疾走、円を描くように斬り付けると、波紋が広がるように無数の風刃が周囲の敵軍に襲い掛かる。
「ぐへへ。事前に配置しておいて正解だったな」
一週間前に四ヶ国連合が攻め込んでくることを予想していた僕は、彼女たちをそれぞれ東・西・南の国境に向かわせた。
「さて。あとは」
僕が配置した人員は、彼女たちだけではない。
「全く。人使いが荒いですわ。『ルート・バインド』。もぐもぐ」
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「ラルシィさまだ!」
王都の王城上空、地面から長く伸びた根っ子の先端に座りケーキを頬張りつつ無造作に手を翳すのはラルシィだ。
幾多の根っ子が触手のように俊敏に伸びると、空を埋め尽くすワイバーンとハーピーたちを次々と捕獲、地面に叩き付けて戦闘不能にしていく。
「今こそ勇者の力を見せる時っす! 『デキュプル・サンダー』!」
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「見て! 勇者さまよ!」
北端では、聖鎧に身を包んだサユが同時に放った十本の雷撃により、一度に十匹のモンスターを無力化する。
「クックック。まさかこの事態を予期していたとはな。褒めてやろう。だが、これは予想出来たか?」
魔王の不敵な声に呼応して、それぞれの戦場に巨大なモンスターが一匹ずつ現れた。
西端のファーラの眼前にはブラックベアが、東端のレピアの目の前には銀色の毛を持つ巨大狼フェンリルが、南端のナフィには上半身が大鷲で下半身が獅子というグリフォンが、王都の王城では、地中から現れたクレイドラゴンが、北端ではゴーレムが、それぞれ立ち塞がる。
「クックック。全て高い戦闘能力を誇る魔王軍幹部たちだ。これで終わりだ」
「そ、そんな!」
「〝ビースト〟のみんな!」
「ラルシィさま!」
「勇者さま!」
勝利を確信する魔王と、祈るように見守る市民たち。
「ゴアアアア!」
「グルルルル!」
「ピイイイイ!」
「ガアアアア!」
「ゴオオオオ!」
一斉に襲い掛かる巨大モンスターたちに対して、ファーラたちは。
「「「「「このあんぽんたん!」」」」」
「ゴアッ!?」
「グルッ!?」
「ピイッ!?」
「ガアッ!?」
「ゴオッ!?」
それぞれの戦場で、カウンター気味に必殺の一撃を与えて吹っ飛ばす。
「ハッ! あたいの部下になりな!」
「あたしの部下になって!」
「あんたはナフィの部下になるの!」
「
「自分の部下になるっす!」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も追撃しながらそう命じると。
「……ゴアッ!」
「……グルッ!」
「……ピイッ!」
「……ガアッ!」
「……ゴオッ!」
ボロボロになった魔王軍幹部たちは皆、首肯し、僕たちの陣営に加わった。
「ゴアアアア!」
「グルルルル!」
「ピイイイイ!」
「ガアアアア!」
「ゴオオオオ!」
魔王軍幹部たちが他のモンスターたちに咆哮すると、彼らは退却した。
「た、退却!」
人間軍は、それでもまだ戦う意思を示していたが、ただでさえ手強いファーラたちが、魔王軍幹部と力を合わせて戦うという、彼らにとっては悪夢のような光景が眼前で繰り広げられるのを見て、間もなく彼らも戦場から退いた。
「ぐへへ。俺様の言いつけ通り、五人とも、敵のモンスターも人間も出来るだけ殺さないように戦ったようだな。死は一瞬だが、真の悪役貴族である俺様に盾突いた罪は、そんな短時間で償えるものではない。決して殺さぬことで、より長く痛みに悶え苦しむのだ」
そんな彼女たちの映像を〝眼下〟に見ながら、僕は言葉を継ぐ。
「ぐへへ。それにしても、よくもまぁここまで目論見通りに行ったものだ。流石は俺様だ。この一週間の間に、あいつ等のテイマーとしての資質を極限まで高めたからな。資質がゼロでなければ、どれだけ少なかろうが、俺様の七つスキルの一つ『
「いや、自分含めて、テイムのスキルのおかげとかじゃなくて、みんな単に相手をボコボコにして恐怖心で屈服させただけだと思うっすよ!?」
ブラックドラゴンのブラドラに乗って南から移動してきた僕が舞い降りてくると、北部国境近くの荒野にて戦っていたサユが耳聡く聞きつけ、僕に語り掛ける。
「ぐへへ。御苦労」
「勇者として当然のことをしたまでっすよ! それに、どうやら真打登場みたいっすよ!」
ブラドラから降りた僕の隣に並び立つサユが、真っ直ぐ見詰める先には。
「クックック。やってくれたな、人間ども」
漆黒を纏う魔王が現れた。
見ると、血のように赤い目、二本の角、牙、黒翼、太く長い尻尾を持っている。
僕は、ブラドラに命じた。
「ブラドラ、お前は戦場から離れろ」
「ガァッ!? ガガガ、ガガガガ!」
「『俺も戦う』だと? このあんぽんたん!」
「ガァッ!?」
「魔王を倒した後、もし俺様たちが重傷を負って動けなかったら、誰が俺様たちを救い出すんだ? その時にお前まで深手を負っていたら、共倒れになるだろうが」
「ガァ……」
「分かったら、邪魔だからとっととここから離脱しろ。俺様が魔王を華麗に倒すところでも想像しながらな」
「ガァッ!」
ブラドラが両翼を羽ばたかせて舞い上がると、「ということで、あんたもここから離れておくっすよ!」「ゴオ!」と、同様にサユが部下になったゴーレムに命じて、戦場から離脱させた。
「クックック。呼び戻した方が良いのではないか? たかが人間二人で我に敵うと本気で思っているのか?」
流石は魔王、嘲笑がすごく絵になるけど、僕も悪役貴族として、負けていられない!
「ぐへへ。当然――」
「――だ」と呟いた瞬間には、僕は距離を詰めて、抜剣して斬り掛かっていた。
キン
「クックック。もう一度問おう。その程度の力量で本気で我を倒そうというのか?」
「!」
「そんな! それ、オリハルコン製っすよね!?」
袈裟切りしたはずが、気付けば僕の長剣が真ん中から折れ、刃が宙を舞っていた。
どうやら、魔王の身体は恐ろしく硬いらしい。
「聖剣ならどうっすか!」
キン
「クックック。折れぬとはな。流石は世界最強と謳われるだけある」
「まさか、これもダメなんすか!?」
僕が攻撃している間に同じく距離を詰めていたサユが魔王の首に斬り掛かるが、聖剣すらも弾かれてしまい、一旦僕たちは距離を取る。
「ぐへへ。剣技が駄目なら、こっちだ。『アイシクル』」
「そうっす! それなら魔法っすよ! 『デキュプル・サンダー』!」
無数の氷柱と十本の雷撃が魔王に降り注ぐが。
「クックック。それで終わりか?」
「「!」」
全くダメージが通らない。
「ならば御返しといこう。「『インフィニット・ファイアブレイド』」
「「!」」
一瞬で荒野が夥しい数の炎剣で埋め尽くされ、一つ一つが最上級魔法の破壊力を持つそれらが僕たちに襲い掛かる。
「ぐへへ。『アイシクル』『アイシクル』『アイシクル』『アイシクル』」
「なんて数っすか!? 『デキュプル・サンダー』! 『デキュプル・サンダー』! 『デキュプル・サンダー』! 『デキュプル・サンダー』!」
何度も魔法を唱えて、何とか迎撃に成功する。
「クックック。たった一度我の攻撃を防いだだけで、もう既に限界に近いのではないか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……全然っすよ! これくらい、勇者はへっちゃらっす!」
魔王が、「そうか。まだ足りぬと言うならば、更に絶望を与えてやろう。ぬん」と、全身に力を溜めると。
「クックック。どうだ?」
その身体が、ドラゴンと同程度に巨大化した。
「ぐへへ。強くなりたいから巨大化とは、何とも安直だな」
「クックック。こうも発想力が貧弱だとはな。それが人間の限界と言うことだ」
「何言ってるんすか、アイツ?」
サユが小首を傾げると。
「『ワープ』並びに『カース』」
どうやら空間転移魔法と呪術魔法を発動したらしい魔王の――
「え!? あたし、一体何が!?」
「ハッ! もしかして、これ、相当ヤバい状況じゃないかい?」
「ナフィ、身体が動かせないの! ヴィラゴさま、助けて欲しいの!」
「何なんですのこれは!?」
――巨大な身体の中に、東端・西端・南端・王都にいたはずのレピア・ファーラ・ナフィ・そしてラルシィの全身が取り込まれており、顔だけが出ていた。
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