8.「機密情報を持つ者との出会い」

「ゆ、勇者さん! 俺、メイフォルって言います。以前助けてもらった者です!」


 僕が、レピア、ファーラ、ナフィ、ラルシィ、そしてサユから集めたハイポーション計十本をブラックドラゴンのブラドラに飲ませて、傷を完全回復させていると、見知らぬ男がサユに話しかけてきた。


「あ! あんた、ウェスエッジ村にいた人じゃないっすか!」

「覚えていてくれたんですか!?」

「当然っすよ! 元気そうで何よりっす!」


 「まさか覚えていてくれただなんて!」と喜ぶメイフォルさんに、サユが白い歯を見せる。


 サユ、すごいね!

 国中飛び回って色んな人に会ってるだろうに、たった一回会っただけの人を覚えているだなんて!


「えっと、実は俺、レイビット帝国在住なんですが、あの時はたまたま親戚を訪ねていまして」


 話を聞くと、どうやら、メイフォルさんは普段は西隣の国で暮らしているらしくて、このティームヴィック王国の西端の村を訪れていた際に、偶然モンスターに襲われたらしい。


「あの時は助けていただきまして、本当にありがとうございました!」

「いやいや、勇者として当然のことをしたまでっすよ!」


 頭を下げるメイフォルさんに対して、鎧越しでも分かる豊満な胸を張り「ふんす」とどや顔をするサユは、とても嬉しそうだ。


 勇者という職業が本当に合ってるんだね。

 それもあって、今まで無理しちゃってたのか。


「それでですね、実は……ちょっと、大事なお話があるんですが……」


 声を潜めるメイフォルさんに、サユは、「場所を変えるっすか?」と、気遣う。


「すいません、そうして頂けると助かります」


 僕は横から口を挟んだ。


「ぐへへ。俺様も行こう。部下が逃げ出さないように監視するのも悪役貴族の務めだからな」

「逃げたりなんかしないっすよ! 勝負に負けたんだからちゃんと従うっす!」

「どうだかな」


 「はぁ」と溜め息をついたサユが、メイフォルさんに訊ねる。


「ヴィラゴが一緒についてきても良いっすか? 残念ながら、今は自分の上司なんすよ」

「……別に構いません。ヴィラゴさんにも関わりのある話ですから」


 え? そうなの?


「ただ……その……出来れば〝そちらの方〟は御遠慮頂けるとありがたいのですが……」


 怯えながらメイフォルさんが見上げるのは、今現在僕がその背に乗っているブラドラだ。


「ぐへへ。ブラドラ。ここで少し留守番していろ」

「ガガッ!」

「お前ら、ブラドラと仲良くな。ブラドラ。こいつらはレピア、ファーラ、そしてナフィだ。お前の先輩だ。敬意を持って接しろ」

「分かったわ! さっきは攻撃しちゃってごめんなさいね」

「ハッ! 任せておきな!」

「わーい! ナフィも背中に乗ってみたかったの!」

「ガガッ!」


 早速ナフィがブラドラの背中に乗り、はしゃぐ姿を横目に見ながら、俺たちはコロシアムを出た。


※―※―※


《〝呪いで吐血エンド〟のフラグが立ちました》

「え? 呪い? メイフォルさんが敵ってこと? そんな風には見えないけど……」


 脳内に突如響いたサポさんの声に、僕が口の中だけで小さく呟きつつ、移動した後。


 人気のない路地裏にて。


「早速ですが……実は、俺は情報屋をやっていまして」

「そうだったんすね!」


 情報屋!

 何か格好良い!


「機密情報を持っていまして、それをどうしても勇者さんにお伝えしたかったんです」

「わざわざありがとうっす!」


 メイフォルさんは、「ご覧になられた通り、先程、この王都にあるコロシアムがドラゴンによって襲われました」と言った後、深呼吸をすると、意を決して言葉を継いだ。


「実は――がはっ!?」

「「!?」」


 突然吐血するメイフォルさんに、僕らは目を見開く。


「キャハッ♪ 機密情報を漏らしちゃうなんて、イケないんだ! そんなお漏らししちゃう奴は、あーしが呪い殺してやるし! 〝機密情報を漏らそうとすると吐血して死ぬ呪い〟で!」


 突如空から現れたのは、タイトな黒服に身を包んだ銀髪セミロングヘアのダークエルフだ。


 魔法で生み出した丸い氷板の上に乗った彼女は、メイフォルさんにハイポーションを飲ませるサユと僕を見下ろしながら、スーッと舞い降りてきた。


「ぐへへ。誰だお前は?」

「名乗るわけないし。あーしは見ての通り、世界一魔法を得意とする部族のダークエルフであるただの一美少女だし! カカスっていう名前は内緒だし!」

「ぐへへ。カカスか」

「なっ!? なんであーしの名前知ってんのさ!? さてはあんた、天才だな! そうに違いないし!」


 ビシッと僕を指差すカカス。

  

 うん、どうやら天然娘みたいだ。


「そこまでして漏洩を防ごうとするだなんて、余程大切な情報なんだな」

「キャハッ♪ さぁ、どうだろね? どっちにしろ、その男は手遅れだから、もう漏れることも無いし――って、まだ生きてるし! なんで!?」

「ぐへへ。俺様が七つスキルの一つである〝全状態異常無効〟を応用した『解呪ブレイクカース』を用いて呪いを解いたからな」

「くっ! あーしの呪いを解くだなんて!」


 唇を噛むカカスを尻目に、メイフォルさんが再び口を開く。


「今の内に! 実は、い――ぐはっ!」

「『呪いカース』! もう一回掛ければ良いだけだし!」

「『解呪ブレイクカース』」

「キー! また解かれたし! そしたら、もう一回――」


 再びメイフォルさんにハイポーションを飲ませるサユと、呪いを掛けるカカスと、解呪する僕。


 キリがないな。


「ぐへへ。メイフォル。お前は邪魔だ。消えろ」

「そうっす! 今から自分たちはあのダークエルフと戦闘になるっす。巻き込まれないように逃げて欲しいっす!」

「で、でも!」

「ぐへへ。邪魔だと言っただろうが。お前は用済みだ。何故なら、もうお前の伝えたがっていた機密情報の内容は見当がついたからな」

「! 本当ですか!?」

「ああ」


 目を見張るメイフォルさんに、僕は不敵な笑みを浮かべつつ頷く。


「ということで、逃げるっすよ!」

「分かりました! ありがとうございます! 失礼します!」


 頭を下げて走り去っていくメイフォルさんにカカスが手を翳す。


「あーしから逃げられるわけ無いし! 『カー――』」

「『サンダー!』」


 サユの雷撃が直撃――したかと思ったが、カカスの周囲に展開されていた防御魔法が破壊されたのみで、本人までは届かない。


「あーしの防御魔法を一発で破壊するとか、威力おかしいし!」


 「でも、邪魔された借りは返すし!」と、氷板に乗ったままカカスはスーッと浮き上がった。


「『ファイアブレード』! 『ウィンドスピア』!」

「『アイシクルレイン』」


 カカスの右手から幾多の炎剣が、左手からは風槍が降り注ぐが、僕は無数の氷柱で全て迎撃する。


「『サンダー!』」

「くっ! 『プロテクト』!」


 攻撃終わりをサユの雷撃が襲うが、防御魔法にギリギリ阻まれる。


「剣魔闘大会の優勝者・準優勝者ペアと二対一は流石にキツいし! ここは戦略的撤退するしかないし!」

「逃がさないっすよ!」


 追撃しようとするサユだったが。


「キャハッ♪ バイバイだし!」


 カカスが地面に何かを投げつけると、大量の煙幕が発生、辺りは煙に包まれた。


「待つっす!」

「そう言われて待つ奴はいないし! 〝残りの時間〟をせいぜい楽しむと良いし! ゴホッ! ゲホゴホゲホゴホッ! この煙嫌いだし! ゲホゴホゲホゴホッ!」


 煙にむせながらカカスは逃走した。


「くそっ! 逃がしたっす!」


 歯噛みするサユだったが、息を一つすると、僕を見た。


「さっきの本当っすか? メイフォルさんが自分たちに伝えたがっていた機密情報の内容の見当がついたっていうのは?」

「ああ」


 僕は首肯する。


「メイフォルは、王国の中心部である王都が魔王軍の襲撃を受けたことに言及した。そこから考えられる最悪のシナリオを予想すれば、自ずと見えてくる。悪役は他の悪役の思考を読み取れるからな」


 僕が、最悪のシナリオについて、サユに耳打ちすると。


「ほ、本当にそんなことが起きるっすか!? 原作ゲームではそんなルートは無かったっすけど!?」


 彼女は、驚愕に目を剥いた。


※―※―※


 一週間後。


「だ、旦那さま、大変です! 魔王軍が北部の国境にある砦を突破、我が領土に攻め込んできました!」


 通信魔導具と感知魔法による偵察の任についていた私兵団団員の一人が、ダイニングルームに慌てて入ってきて、報告する。


 その直後。


「旦那さま、ご報告申し上げます! レイビット帝国が裏切り、西部国境を越えて我が国へ進軍中とのことです!」

「だ、旦那さま! ご報告申し上げます! ベーダイン皇国が南部国境から我が国へと侵入したようです!」

「旦那さま、大変です! ネーミエ共和国が不可侵条約を一方的に破棄、我が国を敵国と見做して東部国境を突破したとのことです!」


 更に三人の偵察担当団員たちが駆け込んできた。


 東西南北――魔王国を含む四ヶ国連合による同時侵攻。

 本来ならば、紛れもなく国家存亡の危機だが――


「ぐへへ。来たな」


 僕は口角を上げた。

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