7.「vsブラックドラゴン」

《ブラックドラゴンにじっくり焼かれてこんがり焦がされエンドのフラグが立ちました》

「何だか料理みたいだね!」


 脳内に響くサポさんの声に、僕は小さく呟く。


「ぐへへ。魔王軍幹部とはな。相手にとって不足なし」


 僕は空を一瞥した後、観客席のレピア、ファーラ、そしてナフィに目をやる。


「ぐへへ。お前ら、あのデカブツをこの舞台の上に落とせ」

「分かったわ!」

「ハッ! 任せな! 」

「すごくおっきいけど、ナフィ頑張るの!」


 上空の漆黒ドラゴンに向けて三人が跳躍しようとすると、ドラゴンが気付いて、迎撃しようとするが。


「ぐへへ。ラルシィ。お前も手を貸せ」

「もう、仕方がないですわね! ……もぐもぐ……」


 相変わらずケーキを頬張り続けているラルシィが気怠げに手を翳すと、大量の根っ子が地面から出現。


 勢い良く伸びたそれらは、上空のブラックドラゴンの全身に絡みつくが。


「ガアアアアア!」

「……凄まじい……力ですわ……!」


 抵抗にあって引っ張ることができない。


「やあああああ!」

「おらああああ!」

「たあああああ!」


 そこに、跳躍後ブラックドラゴンの更に上空まで達したレピアたちが、それぞれレイピア・戦斧・ナイフで胴体に斬り掛かる。


「ガアッ!」


 上からの衝撃と下からの牽引で、ブラックドラゴンは僕の眼前に落下した。


 見ると、根っ子の束縛から解かれた彼は、即座に体勢を立て直しており、レピアたちによって受けたダメージがほぼ無い。


 かなり硬そうだね!

 さすが魔王軍幹部!


「勇者が悪役貴族に頼るだなんて、めちゃくちゃ癪っす。でも、まだふらついててまともに戦えそうにないし、あんたに託すっす!」


 複雑な表情を浮かべるサユが、「取り敢えず」と言葉を継ぐ。


「ブラックドラゴンは、胴体は異常に硬いので、首を狙いに行きたいところなんすけど、首を斬るとまた新たな首が増えて、それを斬るとまた三本目の首が増えて、逆に厄介っす! 首が一本だけだと何も吐いてこないっすけど、二本目以降は、炎・雷・氷、などなど、首ごとに違った種類のドラゴンブレスを吐いてくるんすよ! 想像するだけで地獄っす! だから、首が一本だけの内に、何とかして身体全体に大ダメージを与えて倒すのがセオリーっす!」


 原作ゲームを知っているだけあって、その手の情報には詳しいらしく、彼女は貴重な情報を教えてくれた。

 

 せっかく教えてくれたし、活かさなきゃね!


「ぐへへ。情報提供ご苦労」

「いえいえっす! だから、あんたの必殺技か何かで一気に――」

「では、こちらからは一切攻撃せずに倒すとしよう」

「そうそう、こちらからは一切攻撃せず………………え?」


 自分がターゲットだとばかりに、僕が両手を広げると、ブラックドラゴンが僕に向かって突進してきた。


「ガアアアアア!」


 僕の上半身に、彼がその巨大な口でガブッと噛み付くが。


「『増幅ブースト』。ぐへへ。魔王軍幹部とは、なかなかの悪役っぷりだが、こちらは真の悪役貴族だ。負けるわけにはいかない」

「ガァッ!?」


 岩をも砕くブラックドラゴンの牙が砕けて、悲鳴を上げる。


 固有スキル『増幅』で極限まで〝硬度〟を上げた僕の身体には、彼の自慢の牙も役に立たない。


「ガアアアアア!」


 ならば、とばかりに、ブラックドラゴンは上段に構えた右前足で僕の身体を引っ掻くが。


「ぐへへ。なかなか良い攻撃だったぞ」

「ガァッ!?」


 鋼鉄も貫く爪が、剥がれて吹っ飛ぶ。


「ガアアアアア!」


 これなら、と、その巨躯を素早く回転させて、僕に尻尾をぶち当てるが。


「ぐへへ。かなりの衝撃が来たぞ」

「ガァッ!?」


 巨大な尻尾が千切れて宙を舞う。

 

「ガァッ……ガガァッ……!?」

「す、すごいっす! あまりの防御力の高さに、あのブラックドラゴンが、動揺してるっす!」


 うん、こうして攻撃を受けてみて、実感する。

 彼は、間違いなく強い!


 でも、こんなに強いのに、なんで魔王の言いなりになってるんだろう?


「お前ほどのモンスターが、何故魔王ごときの言いなりになっているんだ?」

「ガァッ?」

「金を貰ったのか?」

「ガガガッ!」


 ブラックドラゴンが首を横に振る。


「では、他の物を貰ったからか? 地位か? 名誉か?」

「ガガガッ!」


 再び首を横に振る彼に、僕は更に問い掛ける。


「そうなると……もしかして、美味い餌を貰えるからか?」

「ガガッ!」


 ブラックドラゴンが首肯した。


「さっき俺様を喰おうとしたよな? ということは、美味い餌というのは、人間のことか?」

「ガガッ!」


 勢い良く首を縦に振る彼に、僕は質問を重ねる。。


「ちなみに、お前たちドラゴンは、人間を喰わなければ死ぬのか?」

「ガガガッ!」

「なるほど。別に人間を喰わなくても死なない、と。牛や豚や鳥や猪を食べても生きていけるのか?」

「ガガッ!」

「そうか、動物の肉でも問題ないんだな。牛・豚・鳥・猪だと、数が少なくて、お前たちドラゴンは飢えてしまうのか?」

「ガガガッ!」

「そんなこともない、と。では、特に飢えている訳でもなく、人間じゃないといけない訳でもなく、ただ食べたいから人間を食べる、ということだな?」

「ガガッ!」


 肯定するブラックドラゴン。


 僕は深く息を吸い込むと、ブラックドラゴンを真っ直ぐに見据え、叫んだ。


「このあんぽんたん!」

「ガァッ!?」


 ブラックドラゴンの身体がビクッと反応する。


「身体の大きなお前たちがそんな風に食べていたら、人間は絶滅してしまうじゃないか! そうしたら、もう人間を食べることなんて出来なくなる! お前たちは自分で自分の首を絞めているんだ!」

「あ、そっちの批判なんすね! 予想外っす!」


 サユが横から口を挟む。


「それと、人間なんかよりもずっと美味いものを食わせてやる。ちょっと待ってろ」


 僕は、「お前たち、ちょっと来い」と、レピアたちを呼び寄せると、ある物を準備させることにした。


※―※―※


 その後、じっと待つのが苦手らしいブラックドラゴンに何度も噛まれ、爪で引っ掻かれ、尻尾でぶたれ、その度に彼の牙・爪・尻尾の一部が吹っ飛ぶ、ということを幾度か繰り返した後。


「待たせたな」

「ガァッ!?」


 舞台の上に置かれたのは、熱々な巨大鉄板の上でジュージューと音を立てる牛肉のステーキだ。

 ドラゴン用ということで、人間用の百倍の大きさとなっている。


「王都一美味いと評判のレストランのシェフに作らせたものだ。早速食べて――」

「ガアアアアア!」


 僕が言い終わる前に、ブラックドラゴンは齧り付いていた。


「美味いか?」

「ガガッ!」


 幸福そうに目を細め、喉を鳴らすブラックドラゴン。


 僕も、鉄板の上に残った欠片を食べてみる。

 確かに美味い。けど――


「ぐへへ。確かに美味だが、俺様の家が雇っている料理長のステーキは更に美味いぞ」

「ガァッ!?」

「ぐへへ。食ってみたいだろ?」

「ガガッ!」

「ぐへへ。ならば、俺様の部下になれ。そうすれば、毎日食わせてやる。どうだ? 俺様の部下になる気はあるか?」

「ガガッ!」


 ブラックドラゴンは躊躇なく首肯した。

 どうやら、魔王に対する忠誠心とかは無いらしい。


「ぐへへ。部下になると言ってしまったな? 覚悟しておけ。こうなった以上、絶品ステーキをたくさん食わせて、胃もたれさせてやる」

「ガガッ!」


 こうして、ブラックドラゴンが僕の陣営に加わった。


「ぐへへ。なかなか良い乗り心地だぞ、ブラドラ」

「ガガッ!」

 

 やったー!


 ドラゴンが部下って、すごく悪役っぽいよね!

 ドラゴンの背中に乗ってる時なんかは特に!


「ブラックドラゴンを部下にして、ニックネームまでつけるとか、意味不明っす……」


 早速その背に乗り、内心テンションが上がりまくっている僕に、サユがぽつりと呟いた。

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