6.「vs女勇者サユ(剣魔闘大会(3))」
少し時間は遡って。
〝頂上決戦部門〟準決勝前。
「……もぐもぐ……やっぱり王道のショートケーキですわね……! ……もぐもぐ……でも、こっちのチーズケーキも中々……! ……もぐもぐ……いやいや、こちらのフルーツケーキも捨てがたいですわ……!」
めっちゃ食べてるー!
植物魔法に目覚めたラルシィが、まるでリスのように頬をパンパンに膨らませながら、大量のケーキを貪り食っている。
どうやら王都の中央通りで大量にケーキを買ってきたらしく、恐らく身の回りの世話をするためついてきた執事たちであろう、正装に身を包んだ十人の紳士たちに持たせた特大ケーキを次々と平らげていく。
「ぐへへ。俺様に負けたから、せめて個性では勝とうと、腹ペコキャラに変更したのか? だが、真の悪役貴族である俺様には、個性でも勝てんぞ?」
「ふんっ! ……もぐもぐ……偉そうにしていられるのも今の内ですわ! ……もぐもぐ……何か、無性にお腹が空くんですの! ……もぐもぐ……きっと成長期ですわ! ……もぐもぐ……
勝ち誇る公爵令嬢。
「ケ、ケーキ……!」
気付くと、甘い匂いに引き寄せられてきたレピア・ファーラ・ナフィが涎を垂らしていた。
「ぐへへ。お前たちの方が大量に食えるよな? なら、これで存分に買ってこい。獣人としての意地を見せろ。俺様の部下として、人間の公爵令嬢ごときに負けることは許さん」
「分かったわ!」
「ハッ! 任せな!」
「了解なの! ナフィが目に物見せてやるの!」
金貨が入った革袋を僕が渡すと、礼を述べながら、レピアたちはケーキを購入するためにコロシアムの外へと走っていった。
その後、公爵令嬢と獣人少女たちによるケーキ大食い対決という、仁義なき戦いが繰り広げられた。
※―※―※
そして、決勝戦。
「あんたがゲーム〝フェリーチェ・グローボ〟で有名な悪役貴族のヴィラゴ・フォン・テンドガリアっすね! 奴隷商なんてやる人間のクズは、自分がぶっ殺してやるっす!」
「!」
明らかに〝転生者〟である女勇者サユと対峙した。
聖鎧を装備した彼女が、手にした聖剣をブンッと勢い良く僕に向けると、その赤色のポニーテールがふわりと揺れる――と同時に、その身体も揺れて、たたらを踏む。
うーん。啖呵を切られたことなんかより、目に酷い隈が出来ているのが気になるなぁ。
何か、身体もふらついてるし、戦う前から疲労困憊っぽいんだけど。
「ぐへへ。お前、パンダにでもなりたいのか? 目に酷い隈が出来ているが」
「ここしばらく眠っていないだけっす。国から『毎日働いてくれ』って頼まれてるっすから。でも、仕方ないっす。勇者だったら、それくらいやって当然っす! 原作の勇者は、どれだけ働かせられても文句一つ言わなかったっすし!」
え? サラッと言ったけど、ずっと徹夜ってこと?
うわー、想像するだけで辛いよ、そんなの!
「ぐへへ。馬鹿な奴だ。適度に休めば良いものを」
「何言ってるっすか!? 国の西端の村がモンスターに襲われたと聞けば馳せ参じ、国の東端で盗賊団が出没したと聞けば、やはりそちらにも出動する。そうして、国民の命と平和を守る。それが、この国に異世界召喚された自分の責務っす! 睡眠が取れなくても、それくらい何てことないっす!」
それくらいて……寝なきゃ死んじゃうと思うんだけどなぁ。
っていうか、毎回付き合わされる馬も大変だよ!
どうやら、サユは真面目過ぎるようだ。
「ヴィラゴさまのことを何も知らないのに、好き勝手言わないで欲しいわ!」
「ハッ! 〝奴隷商なんてやる人間のクズ〟だって? どうやら清く正しい勇者さまは、正義に固執するあまり、視野が狭くなり過ぎて、奴隷出身のあたいらが今どうなってるのかが見えちゃいないらしいね」
「ナフィたちはみんな、ヴィラゴさまに感謝してるの! 今のナフィたちがあるのは、全部ヴィラゴさまのおかげなの!」
レピアたちが横から――というか、僕らがいる中央の舞台よりも高い位置にある観客席から口を挟む。
「レピア、ファーラ、ナフィっすね。勿論知ってるっすよ。全員が元奴隷のS級冒険者パーティー〝ビースト〟は、既に冒険者界隈では伝説っすから。しかも、ヴィラゴは、あんたたち以外にも多数の元奴隷少女たちを冒険者として育て上げてるっす。その結果、短期間であんたたちS級三人、A級の冒険者が十人、B級に至っては三十人も誕生してるっす。正直、異常っす!」
ふっふっふ。どうやら、僕のあまりの悪役っぷりに驚いているみたいだね!
そうさ! これこそが、真の悪役貴族というものなのさ!
「だけど!」と、サユが声を張り上げる。
「どれだけ優れた人間を育て上げようが、奴隷商は奴隷商っす! 人間のクズであることには変わりないっす! 自分はこの悪役貴族を、勇者として成敗しなきゃいけないっす!」
「何なのよ、あの女!」「ハッ! 頭が固すぎて笑えないね」「ヴィラゴさま、そんな奴けちょんけちょんにやっつけちゃってなの!」と、レピアたちのヤジが聞こえる。
「ぐへへ。何を言おうが、真の悪役貴族である俺様には、心地良い称賛でしかないな。だが、俺様に盾突くと言うならば、容赦はしない」
「望むところっす!」
僕は、下卑た笑みを浮かべて、サユに問い掛ける。
「ぐへへ。分かっていると思うが、力無き正義に意味はない。俺様が勝ったら、悪役貴族である俺様が正しいということになる。敗者であるお前には、俺様の言うことを何でも一つ言うことを聞いてもらう」
「別に良いっすよ! ただ、自分は別にあんたに言うことを聞いてもらう必要はないっす。だって、あんたは自分がぶっ殺すっすから! それに、〝力無き〟正義なんかじゃないっす! 自分の聖鎧は最強っすから、どんな攻撃も効かないっすよ!」
勇者が聖剣ではなく手を翳す。
「ここまでの試合は、剣技だけで勝ってきたっすけど、あんたには特別に見せてやるっす! 最強の雷撃を! 『サンダー!』」
その手から放たれるは、勇者御得意の雷撃。
雷そのものであり、光の速さの三分の一のスピードを誇るそれは、目視してから回避するのは困難。
「ふん、口ほどにもないっすね! 一瞬で終わった――」
「中々の速さだったぞ」
「………………へ?」
雷撃は、僕のすぐ左側を通り抜け、観客席の人たちを守るための透明な魔法障壁に当たった。
「しかも、威力も十分だな」
数々の試合で、どんな攻撃を受けてもビクともしなかった魔法障壁に、罅が入っている。
「な、何でっすか!? 避けられる訳ないのに――」
「手の向きから、方向は分かる。あとは、極限まで鍛え抜いて、なお且つ固有スキルで増幅された俺様の身体能力なら、回避することはそれ程難しくない」
「ぐぬぬ!」と、歯噛みするサユが、「勇者として、悪役貴族なんかに負けるわけにはいかないっす! 『サンダー!』 『サンダー!』 『サンダー!』 『サンダー!』」と連発するが。
「ぐへへ。ぐへへ。ぐへへ。ぐへへ」
僕はそれを紙一重で避け続ける。
「お返しだ。最強の鎧とやらを試してやる。『アイシクルレイン』」
僕の声に呼応して、無数の氷柱が空中に出現、サユに襲い掛かる。
「へへ~ん、っす! 言ったじゃないっすか! 生半可な魔法じゃ、聖鎧が全部無効化しちゃうんすよ!」
身体の線が出るようになっているのか、サユは鎧の上からでも分かるその豊かな胸を張る。
試しに炎魔法、水魔法、風魔法などをぶつけてみるが、確かに効果は無かった。
「ぐへへ。勝ち誇っているみたいだが、お前の攻撃は俺様に掠ってもいないんだがな」
僕の挑発に、サユが聖剣を鞘にしまい、両拳を握り締め、全身から魔力を迸らせる。
「そういう台詞は、これを食らってから言うっすよ! はあああああ! 『デキュプル・サンダー!』」
魔力を一気に膨張させたサユが、同時に十本の雷撃を放つが。
「『
「!」
超スピードで全て回避した僕は、背後で雷撃が魔法障壁を破壊する音を聞きながら、一気にサユの眼前まで距離を詰める。
「〝身体能力への重ね掛け〟に加えて、〝視力〟と〝感知能力〟も極限まで増幅させた俺様じゃなければ、食らっていただろうな」
一気に眼前まで距離を詰めて長剣の柄に手を掛ける僕に、しかしサユは口角を上げる。
「自分には魔法が効かないから、そうやって近接戦闘を仕掛けてくるのは予想していたっすよ!」
「!」
いつの間にか再び抜剣して上段に構えていた彼女が、「これで終わりっす!」と、僕が剣を抜くよりも先に勢い良く聖剣を振り下ろすが。
スポン
「!?」
聖剣が彼女の手からすっぽ抜けて、宙を舞う。
「『
「くっ! 何すかそのチートな固有スキルは!? 化けもんっすね!」
歯噛みしたサユは、だがしかし不敵な笑みを浮かべる。
「さすが奴隷商で汚い金をたんまり貯えてきただけあって、オリハルコン製の長剣を装備してるみたいっすけど、無駄っすよ! この聖鎧は、魔法攻撃だけでなく、世界最高峰と言われるオリハルコン以上の硬度を持ち、物理攻撃にもめっぽう強いっすから!」
その自信満々の笑みに、僕は「では」と応じる。
「剣は使わずに素手で攻撃するとしよう」
「あははは! 血迷ったっすか? 拳なんかでいくら殴ったところで、自分の聖鎧は絶対に壊せない――」
スポン
「……………………へ?」
僕は、彼女の聖鎧の腰の部分に両手を当てると、勢い良く上に持ち上げて脱がせた。
「『
「きゃあああああああ! 何がどうなってるっすか!? そんなすっぽ抜けるようなもんじゃないんすよ、この鎧は!」
上半身が可愛らしい下着姿になり、両手で胸を隠しながら蹲るサユ。
よく見ると、上半身を覆っていた聖鎧の上部は、パーツごとにバラバラになって落下している。
僕は、羞恥に頬を紅潮させる彼女の足を取った。
スポン
「『
「きゃあああああああ!」
今度は、下半身を覆っていた聖鎧が脱げて、サユは上下とも下着姿になってしまい、両手で胸と股間を隠しながら再び蹲る。
「こ、この変態! クズだとは分かってたけど、ここまでとは思わなかったっす!」
涙目でキッと睨みつける彼女だったが。
「よし、捨てよう」
「あ……そ、それだけは止め――」
ポイポイポイポイポイポイポイポイッ
脱げた聖鎧の全パーツを、舞台から場外へと投げ捨てると、サユが青褪める。
また聖鎧を装備しようと思ったら、場外に行かないといけない。
けど、そうすれば、失格負けとなる。
「うぐぐっ! ま、まだっす! ここから雷撃で倒せば、逆転っすよ!」
蹲って上下の大切な部分を左腕で懸命に隠そうとしながら、右腕を翳すサユに対して、僕は。
「『サン――』」
「このあんぽんたん!」
「あ、あんぽんたん!?」
叫んだ。
「まだ俺様に負けた理由が分からないのか? それは、お前が睡眠時間を自ら極限まで削って、疲労困憊だからだ」
「え!? いや、まだ負けてない――っていうか、どう考えても単純にあんたが強過ぎるからっすよ!」
何か口答えしているようだけど、そんなことで僕は手心を加えたりはしない。
だって、悪役貴族だから!
「お前がそんな風に無理して倒れたら、みんなが悲しむし、勇者としての仕事が一切出来なくなって本末転倒だろうが!」
「いや、そうかもしれないけど、そんなことよりも今は、脱げた聖鎧を――」
「まだ認めようとしないのか。強情な奴だ。では、仕方がないな。『
「!」
聖鎧を脱がされたのが余程トラウマになっているのか、ビクッと肩を強張らせたサユは、警戒心を露にする。
「…………あれ? 何も起きないっす! 驚かせるんじゃないっすよ!」
安堵の笑みを浮かべた彼女の身体が、グラッと揺らぐ。
「……あれ? ……なんか……急激に眠気が……」
「『
「!」
「言っておくが、かなり手加減している。ほんの少し増幅させただけだ。お前は言ったよな? 『睡眠が取れなくても、それくらい何てことない』と。それなら耐えてみせろ」
「……ううっ……! ……こ……こんなの……どうって……こと……ないっ……す……!」と、何とか強気な姿勢を保とうとするも、頭が前後左右にフラフラと揺れる。
「……じ……自分は……勇者っ……す……! ……悪役……貴族……なんかに……負ける……訳……に……は……い……か……な………………スゥ……スゥ……」
とうとう女勇者サユは地面に突っ伏して、陥落した。
「よっと」
ポイッ
「ぐがっ!?」
僕は彼女を場外に放り投げて、勝利した。
「こ、ここは……場外っすか……!? そんな……! 自分、負けたっすか!?」
目を覚まして、負けたことを知り愕然とするサユ。
「超短時間だったが、久し振りに眠った感想はどうだった?」
僕の問いに、彼女は唇を噛みながら答える。
「くっ! 悔しいけど、気持ちよかったっす……」
真面目だからちゃんと答えてしまうみたいだ。
「ぐへへ。約束通り、俺様の言うことを一つ聞いてもらうぞ。お前は良い身体をしているからな」
「! やっぱりあんたは変態ドクズっす! 自分のこのダイナマイトボディが狙いだったんすね!」
「本当に、戦うのに良い身体をしているからな。その鍛え上げられた肉体を使って、今後は市民のためではなく、俺様のために働け」
「そっちの〝良い身体〟っすかあああ! 紛らわしいっすよおおお!」
何故叫んでいるのかよく分からないけど、僕は言葉を継ぐ。
「俺様の部下となれ。敵を蹴散らせ。言っておくが、倒れられたらその間働かせられなくなってしまうからな。俺様はお前を絶対に倒れさせない。覚悟しておけ! 休養日を設け、適度に休息を取らせて、俺様の傍でずっとこき使ってやるからな!」
「なっ!?」
唖然とするサユに、僕は満足気に目を細める。
「……国の態度と全然違うんすね……」
「ぐへへ。そりゃそうだ。俺様は真の悪役貴族だからな。手緩い国なんかとは訳が違う」
ふっふっふ。
僕の悪役貴族っぷりが凄過ぎて、圧倒されているようだね!
僕が悦に入った。
刹那。
「「「「「ガアアアアアアアアアア!」」」」」
「「「「「!?」」」」」
突如、コロシアムの上空に、一匹の漆黒のドラゴンが現れた。
「「「「「うわああああああ!」」」」」
「「「「「きゃああああああ!」」」」」
観客たちが逃げ惑う。
「あれは魔王軍幹部のブラックドラゴンっす! こういう時こそ、勇者の出番っす!」
聖鎧を再度装着したサユが、聖剣を拾い、天に掲げるが。
「あれ?」
ふらついて、膝をついてしまう。
「ぐへへ。既に先程の『
そう言えば、レピアたちは何匹もモンスターを倒してるけど、僕はまだ一匹も倒したことが無いんだよね。
三年間のトレーニングは、結局自分一人でやったし。
これは、もしかしたら良い機会かもしれない!
「ぐへへ。魔王軍幹部か。どちらがより悪役に相応しいか、勝負と行こうか」
僕は不敵な笑みを浮かべた。
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