5.「vs訳アリ公爵令嬢ラルシィ(剣魔闘大会(2))」

「行きますわよ! 覚悟なさい!」


 以前と違い黒ローブを身に纏ったラルシィの全身から迸る魔力が、一際大きく膨れ上がる。


「おい、見ろよあの子!」

「なんか凄そうだぞ!」


 観客たちも盛り上がっている。


 くっ!

 これ、ヤバいかも!


 こうなったら、七つスキルを全て使ってでも――!


 覚悟を決めた僕に向かって、不敵な笑みを浮かべたラルシィが、叫んだ。


「『フュリアスファイア』!」


 膨大な魔力が、彼女が翳す両手に凝縮、光り輝く手の平から、炎が放たれた。


 ぽふっ


 ロウソクの火よりも、ほんの少し小さい程度の炎が。


「「……………………」」


 落下した矮小な炎は、石造りの舞台に触れると、跡形もなく消えた。


「「……………………」」


 気まずい沈黙が流れる。


「も、もう一回ですわ! 今度はさっきよりも更に強力な炎魔法ですわ! 今度こそ黒焦げにしてやりますわ! 『ボイステラスファイア』!」


 ぽふっ


 しかし、今回出現した炎も、とても小さかった。

 落下後、即座に消える炎。


 うん、花火とかする時に、ピッタリだね!


「お、おかしいですわね……今度こそ! 『フィアスファイア』!」


 何度やっても。


「『インテンスファイア』!」


 ラルシィは、ロウソク以上の炎を生み出すことは出来ない。


「うっ! うううう!」


 とうとう、彼女は膝をついてしまった。


「分かっていましたの……わたくしには、魔法の才能が皆無だということは……」


 項垂れるラルシィ。


「あ、あの子、見たことある! 思い出した! 去年も一昨年も参加していた子で、毎回一回戦負けする公爵令嬢だ!」

「マジか!? 弱いのによくやるなおい」

「おい、声がでかいって! 相手は公爵令嬢だぞ!」

「あっ、ヤベッ。聞こえてなきゃ良いけど」


 観客の声に、ラルシィは唇を噛む。


「知っての通り、私の御父様は、焔魔帝――歴代最強と謳われる炎魔法使いですわ。御父様だけじゃない。御祖父さまも、曽御祖父さまも、フレアフレイム家は代々、凄腕の炎魔法使いを輩出してきましたわ。その中で――私だけが、満足に炎も出せない落ちこぼれですの……」


 ラルシィは言葉を継ぐ。


「幼少時代に貴方に散々悪口を言われた私は、魔法で見返してやろうと思いましたわ。でも、私の炎魔法は壊滅的だった。何年経っても、一向に上手くならなかった。正直、諦め掛けていましたわ」


 「でも!」と、ラルシィが立ち上がり、縦ロールツインテールを揺らした。


「三年前、貴方は、突如トレーニングを始めましたわ。それも、地獄のような過酷な内容のものを。しかも、ただ〝不敵な笑みを上手く浮かべられるようになりたい〟という、馬鹿みたいな理由で!」


 すごい! 何で知ってるんだろう!? うちの家の中でしか言ってないのに!

 まるで、魔法みたいだ!


 ……って、そうだ、彼女は魔法使いだった!


「それを知った時、消え掛けていた情熱が、私の胸の中でメラメラと再び燃え上がりましたの! 暴言男が頑張ってるんだったら、私だって! と」


 両拳を握りしめたラルシィは、「この三年間、貴方に負けないように、必死に頑張って来ましたわ」と告げると、その手から力が抜けて、肩を落とした。


「でも……どれだけ努力を重ねても、私の魔法は向上しませんでしたわ……それでも、剣魔闘大会のような、実戦形式で戦う場に行けば、もしかしたら良い刺激になって上手くいくかもしれない……なんて一縷の望みをかけたけれど、それすらも駄目でしたわ……」


 ゆらりと身体を揺らしたラルシィは、胸元に手を入れると、ローブの中から、布に包まれた何かを取り出した。


「もう、私に残された手段はこれしかありませんわ。本当は私自身の魔法で倒したかったですけれど、仕方ないですわ。私に才能があろうがなかろうが、貴方は許せませんもの!」


 その双眸に暗い光を宿した彼女は、それを僕に向けると。


「乙女に恥辱を与えたことを、あの世で懺悔なさい!」


 カチッ


 何かボタンのようなものが押される音が聞こえて。


 ヒュンッ


 布が上空に弾き飛ばされると同時に、恐ろしいスピードでナイフの〝刃のみ〟が飛んできた。


「魔石の力で、スピード・切れ味、共に強化されたナイフですわ! 言葉で私の心を抉った貴方が、今度は凶刃で自身の胸を貫かれるのですわ! おーほっほっほ~!」


 高笑いをして勝ち誇る勝るラルシィの表情が。


 ピタッ


「なっ!?」


 驚愕へと変わる。


「ゆ、指で止めるとか、貴方の身体、どうなってますの!?」


 僕は、飛んできたナイフの刃を、人差し指と中指で挟んで止めると、地面に投げ捨てた。


「ぐへへ。真の悪役貴族は、この程度でやられたりしない」


 三年間で鍛えに鍛えまくった僕は、更にそこに、七つスキルの一つである『増幅ブースト』を掛けて身体能力を格段に上げていて、それが一生続いているから、このくらいならどうってことない。


「ぐへへ。お前には魔法使いの家系としてのプライドが無いのか? ナイフなど使わずに、魔法で勝負すれば良いものを」


 不敵な笑みを浮かべる僕に、ラルシィは声を荒らげて、髪を振り乱した。


「私がどれだけ苦労してきたかも知らない癖に、無責任なことを言わないで――」

「お前の適性は、植物魔法だ」

「………………へ?」


 意表を突かれた彼女は、間の抜けた声を上げた。


「今……何て言いましたの?」

「お前の適性は、植物魔法だ」

「……ほ、炎魔法じゃなくて?」


 信じられないとばかりに呆然と聞き返すラルシィに、僕は逆に問い掛ける。


「今まで魔法属性の適性を調べなかったのか?」

「……だって、私の家系は、代々炎魔法に長けた者ばかり輩出してきましたもの。適性を調べる意味などありませんわ……」


 勿体ないなぁ。


 「自分の適性はこれしかないんだ!」なんて初めから限定したりせずに、色々試したり、新しいことに挑戦することで、見えてくることもあるのに。


 そう、演劇の素人だった僕が、悪役貴族を演じて大成功したように、ね!


「ぐへへ。俺様の七つスキルの一つである『鑑定』で見抜いた情報だ。間違いない。騙されたと思って、試しに使ってみろ」

「……もし嘘だったら、承知しませんわよ?」


 ラルシィは、「植物魔法だなんて、マイナーな魔法、呪文も知りませんわ」と戸惑いながら、地面に向けて右手を翳した。


「えっと、その……『植物さん、生えていらっしゃい』」


 刹那。


 ドシュッドシュッドシュッドシュッ


「!」


 無数の太い〝根っ子〟が、まるで触手のように、地面から生えてきた。


「す、すごい! こ、これを私が!?」


 ラルシィは、自分の手の平と、ウネウネと蠢く幾多の〝根っ子〟を交互に見比べる。


「っと、危ない危ない。ぐへへ。ただ生やして、それで終わりか?」


 咄嗟に飛び退いて〝根っ子〟の襲撃を躱した僕は、彼女を挑発した。


「そんな訳ありませんわ! ここから逆襲してやりますわ!」


 両手を翳した彼女が、自信に満ちた笑みを浮かべる。


「その者を捕らえなさい!」


 主の声に呼応して、〝根っ子〟が一斉に僕に向かって襲い掛かる。


「中々のスピードだ。しかも、石造りの舞台を、まるでティッシュのように容易く貫く威力もある。だが――」


 僕は、スピードのギアを一段上げる。

 舞台上を素早く駆け抜けながら、全方位から襲い来る〝根っ子〟を全て躱す。

 

 サイドステップで、身体を捻って、身体を反らして、または宙を舞って。


 〝根っ子〟の物量は確かにすごいが、極限まで鍛え抜かれたスピードで、僕は決して身体に触れさせない。


「! 何ですのそのスピードは!? まるで先程魔法と剣技部門で優勝した子みたいですわ!」

「当然だ。ナフィは俺の教え子だからな。弟子が出来ることを、師匠が出来ない訳ないだろ?」

「!」


 奥歯を噛み締めるラルシィは、「もっとですわ!」と、魔力を膨張させた。


「『植物さん、二倍』!」


 新たに〝根っ子〟が生えてきて、脚の踏み場もない程になったが。


「『アイシクルレイン』!」

「!」


 僕の両手から数多の氷柱が出現、迫り来る〝根っ子〟を全て斬り落とした。


「今度は、魔法部門で優勝した少女の――」

「ああ。レピアも俺の教え子だからな」


 「まだ! まだですわ!」と、ラルシィが声を張り上げる。


「『植物さん、十倍』!」

「!」


 舞台全体から隙間なく〝根っ子〟が生えてきて、僕を捕らえんとする。


「おーほっほっほ~! これで終わりですわ! いくら貴方が強くても、この量なら、どうしようもな――」

「はあああああ!」


 抜剣と同時に、素早く上段に構えた長剣を一閃。


 ドーン


「!?」


 〝根っ子〟の集合体を、僕は舞台ごと粉々に破壊した。


「それは、剣技部門で優勝した子の――」

「ああ。言うまでもなく、ファーラも俺の教え子だからな」

「で、でも、おかしいですわ! これ、どう見てもそのファーラって子よりも威力が大きいですわよ!」

「ぐへへ。そりゃそうだろう。師匠が弟子より弱いはずないだろうが」

「!」


 さてと。

 そろそろかな。


「ぐへへ。降参しろ」

「!」


 一瞬で距離を詰めた僕は、ラルシィの喉元に剣を突き付けた。


「…………………………こ、降参ですわ……」


 すごく嫌だったのだろう、長い沈黙の後、とうとう彼女は陥落した。


 僕が剣を鞘に収めると、再び膝をついたラルシィが、顔を真っ赤にして、プルプルと震える。


「ひ、酷いですわ! 適性を教えて、希望を持たせておきながら、完膚なきまでに叩きのめすだなんて! 上げて落とす、それが貴方のやり口ですの!?」

「ぐへへ。俺様は悪役貴族だからな」

「ぐすっ……この鬼! 悪魔! 悪役貴族! うわああああああああああああああん!」


 ペタンと座り込んで号泣する彼女を見た僕は。


 やっぱり、悪役貴族としては、追い打ちを掛けるべきだよね?


 止めを刺すことにした。


「ぐへへ。復讐を誓った相手に負けて泣き崩れる、そんな公爵家の風上にも置けない情けないお前には、このゴミをくれてやる」

「うわあああん! 酷いですわ! こんなゴミ……って、何ですのこれ? 種?」

「俺様が転生時に女神から貰ったものだ」

「め、女神さまから!?」

「そうだ。女神が一度口に入れて、ペッと吐き出した汚い種だ。つまり、ゴミ同然だ」

「め、女神さまの体液が付着した種ですの!?」


 驚きのあまり目を見開くラルシィに、僕はほくそ笑む。


 ふっふっふ。

 目論見通り、ショックを受けているみたいだね。


 僕の悪役っぷりは、公爵令嬢にも通用する!

 うん、この経験は、新たな自信に繋がるよ!


「……し、仕方ありませんわね。べ、別に、全く欲しくなんてありませんけど、敗者の罰として、そう、あくまで、罰として! 甘んじて受け入れますわ」


 ラルシィは、虹色の種をそっと胸元にしまった。


「流石あたしのヴィラゴさまね!」

「ハッ! 流石あたいのヴィラゴさまだね!」

「ちょっと、なんでヴィラゴさまが貴方のものなのよ!?」

「ハッ! それはこっちの台詞だよ!」

「ヴィラゴさま、超強かったの! ナフィ、感動したの!」


 いつものやり取り、何だか落ち着くなぁ。


 部下の獣人少女たちに迎えられた僕は、改めて、ちゃんと勝てたことに胸を撫で下ろす。


 こうして、僕の第一回戦は終了した。


※―※―※


 その後、僕は、順調にトーナメントを勝ち上がっていった。


 そして、〝頂上決戦部門〟決勝戦にて。


「あんたがゲーム〝フェリーチェ・グローボ〟で有名な悪役貴族のヴィラゴ・フォン・テンドガリアっすね! 奴隷商なんてやる人間のクズは、自分がぶっ殺してやるっす!」

「!」


 明らかに〝転生者〟である美少女勇者サユと対峙した。


《〝雷撃ビリビリ全身焦げ焦げ聖剣グサグサ鮮血ドバドバ死亡エンド〟のフラグが立ちました》

「うん、結構ポップなフラグ多いよね。その割には毎回内容がエグいけど」


 る気満々のフラグと共に。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


(※お読みいただきありがとうございます! お餅ミトコンドリアです。


現在、カクヨムコンテスト11に参加しています。

もし宜しければ星と作品フォローで応援して頂けましたら嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/works/822139838006385105


何卒宜しくお願いいたします!)

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