第3話 夫婦の写真

 うちの両親は、どうかしている。

 喧嘩をしている姿を見たことがない。

 朝から晩まで「おはよう、愛してる」「おやすみ、今日もありがとう」。

 俺が生まれて17年、ずっとこれだ。


 今日は二人の結婚17周年。

 母が弾む声で言った。

 「ねえ、せっかくだから写真撮ってくれない?」

 父はすでにテーブルの向こうでポーズをとっている。

 「おい、どうせならチューの瞬間を撮れ!」

 「バカ、恥ずかしいでしょ!」

 結局、頬にキスをして、

 俺は呆れながらシャッターを切った。


 「はぁ……これが17年かぁ」

 カメラのモニターに映る二人は、本当に幸せそうだった。

 俺の家族には、少なくとも“愛が冷める”という概念は存在しないらしい。



 ◇◇



 ――同時刻、異世界、魔法のある王国。


 ラシェルはため息をつきながら、夜の通りを歩いていた。

 夫はまた、他の女の家に行っている。

 この世界では男の浮気は珍しくもなく、

 妻たちは黙って耐えるのが“常識”とされていた。


 「愛なんて、ただの気まぐれ……」

 そう呟いたとき、空から一枚の紙が舞い降りてきた。

 拾い上げると、それは見たことのない素材でできた薄い板。

 そこには、男女が寄り添って笑っている。


 まるで恋をしたばかりのような笑顔。

 羨ましく思っていると、夫婦の薬指にリングが嵌めていることに気づいた。

 もしかして“浮気のできない魔法”をリングにかけているのではないのか?


 ――薬指のリング。

 この世界では、指輪はただの装飾品にすぎない。


 だがラシェルは思った。

 「これのように……“一生一緒”の魔法がかけられたリングを……」


 そしてその夜、彼女は他の浮気に苦しむ妻たちを集め、

 「“永遠の愛”を守る魔法のリングを作りましょう」と提案した。



 ◇◇



 試行錯誤が始まった。

 誓いの言葉、思いやり、尊重などを魔力の核に。

 「愛は奪うものじゃない、守るもの……」

 ラシェルはそう言って、指輪の中心に自分の想いを込めた。


 数日後、彼女たちの作ったリングが完成する。

 名付けて【ライフタイム・リング】――“一生一緒の指輪”。

 それを私と、帰ってきた夫の薬指に嵌めると心が穏やかで温かい気持ちになった。


 夫からは、

「なぜだろう、最近お前の顔が見たくなる」と照れくさそうに言われた。


 その日を境に、《エテルナ・リング》は街中で噂になった。

 「この指輪をつけると、夫婦仲が良くなる」

 「浮気が減った」「心が落ち着く」

 いつしかそれは王都中に広まり、

 “夫婦は薬指にリングを嵌める”という新しい文化まで生まれた。


 ラシェルは静かに微笑んだ。

 あの二人の写真を見ながら――

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