第2話 私服の写真

 日曜日の午前、駅前のカフェに集まったのは、写真部のメンバー4人。

 部活以外で集まるのは久しぶりだ。

 「せっかくだから、写真撮ろうよ!」

 部長がスマホを掲げる。


 みんなそれぞれの私服を着ていた。

 明るいデニムの部長、フリルのブラウスの後輩、ジャケットにスニーカーの友人。

 俺は地味めなパーカーを羽織っている。


 「いくよー、はい、チーズ!」

 シャッターの音。

 カフェの前で、4人が笑っている一枚の写真。

 それはなんの変哲もない、ただの休日の記録。

 ――少なくとも、俺たちにとっては。



 ◇◇



 ――同時刻、異世界。


 カムーレという男は、古びた仕立て屋の主人だった。

 街では王都からの高級服が流行し、彼のような小さな店は見向きもされない。

 新しい服を作っても売れず、閑古鳥状態。


 「……もう畳むか」

 つぶやいたその時だった。


 天井の隙間から、一枚の紙がふわりと落ちてきた。

 拾い上げてみると、それは見たこともない光沢の板で、

 そこに4人の若者が笑っていた。


 ――だが、その服装にカムーレは息を呑む。


 素材の組み合わせ、色の対比、何より“軽やかさ”。

 その誰もが、形式にこだわらない、それでいて自分らしい。

 まるで、服が人に仕えるように見えた。


 「……なんて自由な服だ」


 カムーレは一晩中その写真を見つめ、翌朝、針を手に取った。

 長年使っていなかった布を引き出し、写真を見ながら縫い合わせる。

 布を斜めに切り、袖を短くし、装飾を減らす。

 「形じゃない。着る人の顔が映えるように――」


 やがて完成したのは、シンプルだが洗練された服。

 自分でも信じられないほど、心が高鳴っていた。


 ◇


 数日後。


 通りを歩いていた若い娘がカムーレの店の前で足を止めた。

 「わぁ、かわいい服!」

 そしてその場で一着を買っていった。


 翌日にはその娘の友人が、さらに次の日にはそのまた知り合いがやってきた。

 「最近、この街で素敵な服があるって噂よ」

 カムーレの店はいつしか、若者たちの集う場所となった。


 人々はその服を“風の服”と呼び、今までの服とは違い身軽な――まるで“空を飛んでいるよう”と語った。

 カムーレは誰にも言わなかったが、

 あの“笑っている4人”の写真を、店の奥に大切に飾っていた。


 ――彼らこそが、新しい時代の風を運んできたのだと信じて。

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