第3話 魔王軍四天王 グレイス
「あの場所で、3千人以上の人間が消えた?
あの場所は危険な場所だ。古の悪魔が封印されし土地だからな。
悪魔が、人間の魂と供物を手に入れたのかもしれない……」
魔族である グレイスは思った。
最悪の場合、封印されし古の悪魔が蘇った可能性がある。
強力な悪魔が、この世に解き放たれたとしたら危険だ。
あの場所の危険度は、更に上昇した事になる。
しかし、調査しなければ正確な事は分からない。
例え危険だと分かっていたとしても、調査しない訳にはいかないのだ。
「私と、数名の強者のみで調査に出る。」
「グレイス様自ら調査へ出向く必要はありますまい。
魔王軍四天王自ら出向かなくても、調査団を派遣すれば済む話ではないでしょうか?」
「否、今回は危険が大きい。不測の事態を考慮して動くべきなのだ。」
かの地の危険性は、他の魔族も十分に理解している。
それ故、無事に帰還できる自信のある者だけが志願に手を挙げた。
グレイスと一緒に同行するには、3名。皆、潜入調査のプロ達である。
「調査の目的は、古の悪魔の封印に異常が無いかどうか?
それと、詳細な現状の情報収集とする。」
「はっ!承知致しました!」
魔族達の調査団は準備を整えると、速やかに目的地へと出発した。
グレイスの考えでは、3千人もの人間達が消え、その同行が長時間消息不明のままである事実から、封印は既に解けたものと答えを導き出している。
その場合、悪魔に見付かれば戦闘になる可能性が高い。
グレイスは封印解除の証拠が見付かれば、すぐさま撤退すると決めていた。
最悪の悪魔が解き放たれたとは考えたくもない。
もし封印が解除されていた場合、当然今後悪魔との関係をどうするか?を迫られる事になる。
古の悪魔との戦争か……どれ程の仲間が生き残れるだろうか?
「かの地には、エルフの集落が幾つか点在したな。」
「集落には排他的なエルフが多い故、情報収集は厳しいでしょう。」
森に住むエルフにとって封印されし土地は、外敵の侵入を防いでくれる恰好の隠れ家であった。
悪魔や精霊の類も生息し、魔族の支配が及ばない地域である。
そんな場所へ、人類が初めて大軍を率いて侵攻してきたのだ。
「人間が大軍を率いて侵攻してきたのだ。
何処かへ転送されたのでなければ、悪魔への供物となった可能性があるな。」
「一度に大軍を転送する事は不可能でしょう。
悪魔への供物となった可能性は否定できませんが……」
「エルフが排他的とはいえ、現在は非常事態だ。
エルフの長と会って、話を聞く必要があるだろう。
問題が発生した場所へ急ぐより、ここから一番近い エルフの集落へ向かうぞ!」
ここから問題が発生した場所へ直接向かったとしても、数回は警備しているエルフと遭遇するに違いない。
我々が森への侵入者と勘違いされては面倒が増える。
それよりかは、この森へ近づいた目的をエルフ達と共有した方が、魔族への疑念も晴らす事が可能だろう。
例えこちら側が見付からぬように調査をしたとしても、エフルの立場から見れば、魔族側の考えや動きを確認する為、調査したいと考えるに違いないのだから。
グレイスは四天王である。四天王が長に会いたいと言えば、無下に断ったりはしないであろう事は推測できた。
数日後、グレイス達は一番近いエルフの集落へと到着した。
集落へ到着する少し前に、エフルの仕掛けた警戒魔法が発動し グレイス達の接近を事前にエルフ達は察知している。
数は 4体と少ないが、各々の魔力の強さが異常なまでに高い。
集落の若者達は臨戦態勢で グレイス達を向かえる準備を既に整えていた。
グレイスも緊迫した空気を感じ取り、自分の役職と名前、それに集落の長に会いたい旨を大声でエルフ達に伝える。
柵の間から グレイス達の事を窺っていた男性の一人が、集落の中心へと急ぎ走っていく。
どうやら、長の判断を仰ぎに行ったのだろう。
「グレイス様、どの程度ならお待ちになりますか?」
「1時間程度であれば、待ってやるさ。
相手に数時間も時間を与えては、何か仕掛けて来る可能性があるからな。
……本当に最悪の悪魔は、復活していないのか?……」
グレイス達の懸念は、十数分後には解消した。
この集落の長が グレイス達の前に姿を現したからである。
「魔王軍の四天王が此処を訪れた!って事は、魔族にとって何か重要な事が生じましたかな?」
(なるほどな。現状でエルフ達が悪魔に関して慌てふためく事無く過ごしているって事は、現時点では悪魔の恐怖に晒されていない証拠)
長や、エルフ達の行動から、まだ悪魔の被害に遭っていない事が窺える。
封印が解けていないのだろうか?
それとも、封印が解けたばかりで悪魔の力が回復していないのだろうか?
悪魔の被害が出ていない事は分かるが、封印解除の事実に関しては、不明なままである。
「人間達が大軍を率いて侵略を開始した様なので、その調査に訪れた訳です。
現在、人間側の状況が分からずじまいな状況な為、何か知っている事があれば、御教授戴けると嬉しいのですが……」
「なるほど……人間側の偵察ですか……
この森の中で、今もなお消息不明の軍事行動。
強敵と遭遇し全滅したか……あるいは、密かに何処かで地下拠点等を築いたか……」
「エルフは、この森で長年に渡り広く分布し定住している。
この森の中であれば、人間の動向など手に取るように分かるはず。
我々が確認したい内容は、この森でいったい何が起きているのか?って事です。」
エルフの長は、核心部分を グレイスには教える気が無いようだ。
今もなお人間の軍隊が森に居ては、エルフにとっても不都合に思えるのだが……
エルフが人間達を捕らえ、人間を奴隷として使用したり、奴隷売買を行っていたりする事例は少ない。
今回は人間側が攻め込んで来た訳だから、奴隷にされても人間達は文句を言えないはずだが。
「まさか、攻め込んできた人間を捕らえて奴隷にしている!って事はないですよね?」
「バカな。我々が、そんな事をやるはずがない。」
長は、即答で否定した。自分達にあらぬ疑いをかけて、魔族側が無理難題を強制してくる可能性を牽制する。
これは、ある意味正しい判断だったとも言えるが、グレイスに一部主導権を奪われる結果となったのである。
「人間が軍を率いて侵略してきた事実は分かっている。問題は、その人間達の動向と所在である。
人間達が悪魔の封印を解いた。あるいは何者かが人間達を悪魔への供物として利用した可能性も否定できない。」
「我々が悪魔の封印を解く為に、人間を悪魔への供物にしたと仰るのか?
我々は古の悪魔の封印を守り、この森で生活している。我々が悪魔の封印を解く理由はありませんぞ。」
「軍隊を屠るのに悪魔の力を利用した可能性は否定できない。
しかし封印が解けたのであれば、3千人の軍隊以上に被害が齎されても不思議ではないはず。
本当に悪魔の封印は解けたのか? 何か御存じではありませんか?」
グレイスは悪魔の封印に関して、何か知っているのではないか?と、エルフの長に尋ねたのだ。
「人間側の偵察ではなく、真の目的は悪魔の封印が解除されたか否か。
解除されていた場合、なぜ悪魔の被害が出ていないのか?の調査って、訳ですな。」
魔王軍四天王は、エルフが何かを知っているものとして、エルフの里を訪れた事を理解した。
知っている事を正直に話さなかった場合、四天王達と不本意な衝突が生じるかもしれない。
被害を出さない為には、どうすれば良いだろうか?
エフルの長は、しばしの沈黙後、知っている情報を グレイスに提供する事を決めた。
「古の悪魔を封印する力が突如として消滅し、同時に人間達の軍も消息を絶った。
悪魔の封印が解除されたものと思われるが、詳細は我々にも分からない。」
グレイスは少し考えた後に御礼を述べると、エルフ達に対してある提案を行った。
「古の悪魔に関して何か情報を入手したら我々にも情報を提供して戴きたい。
その見返りとして、エルフに悪魔の被害が及んだ場合には、我々魔族はエルフの救援を約束しよう。」
グレイスの提案は、双方にとって利益のある内容だ。
お互いに深入りする事無く、古の悪魔に対してはお互いに協力体勢を締結する。
妥協案かもしれないが、前進の為の一歩と言える。
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