第3話
🏙️第3話:カブ子さん、街に現る!
⸻
◆街の門で
「……おお、あれが街か!」
異世界に転生してから初めて見た“文明”だった。
高い石壁、塔の上では見張りの兵士が槍を構え、
門の前には馬車と旅人が列を作っている。
本田兼吉(ホンダ・カネキチ)はスーパーカブ――いや、カブ子さんのハンドルを握りながら息をのんだ。
草原を突っ切ってここまで走ってきたが、ようやく一息つけそうだ。
「ふぅ……やっと休めそうだな」
「はい♡ 燃料も残り12%です。給油ポイントの確保を推奨します」
「お前、燃料残量までわかるのか……って、異世界にガソリンスタンドなんてあるわけないだろ!」
そんな会話をしていると、門番の兵士が目を丸くした。
「お、おい貴様! その鉄の獣はなんだ!?」
「え、いや……えーと、乗り物?」
「しゃべったぞ!? 鉄がしゃべったぁぁ!!」
周囲の人々がざわめく。
子どもが泣き出し、馬がいななき、旅人が後ずさる。
⸻
◆鉄の乙女、現る
カブ子さんは慌てず、丁寧にお辞儀をした。
「ご安心ください。わたくしは搭乗者様のサポートユニット――本田技研工業製スーパーカブ型式AA01でございます♡」
「わけがわからんが、喋る鉄人形だと……!?」
兵士たちが槍を構える。
兼吉は両手を上げて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って! 敵じゃないから! カブ子さん、変なことするなよ!?」
「了解しました♡」
その直後――
ガシャンッ!!
カブ子さんの背中から金属のパーツが展開し、
タイヤが現れ、エンジン音が響く。
「バイク形態、起動完了です♡」
「って、変形しちゃってるじゃねーかあああ!!」
街中に響くエンジン音。
人々は悲鳴を上げ、兵士が転げ回る。
門番は青ざめながら叫んだ。
「鉄の乙女だ! 伝説の機械が現れたぞ!!」
⸻
◆騒動のあとで
なんとか門の外で落ち着いた二人。
兼吉は額を押さえながらため息をつく。
「……なぁカブ子さん、次から“変形禁止”な」
「了解です、カネキチ様♡ ですが……」
「ですが?」
カブ子さんは、ほんの少しだけ、寂しそうに笑った。
「この世界の“空気”は、わたくしの燃焼効率を上げています。
もしかすると、わたくしがここに来たのは――偶然ではないのかもしれません」
「偶然じゃない……?」
兼吉は息をのむ。
カブ子さんの背に刻まれた“古いエンブレム”が、光に反射してわずかに輝いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます