第2話

◆異世界の草原を走る


風を切る音が心地よい。

銀色の髪をなびかせ、メイド姿の少女――カブ子さんが、

草原を滑るように駆け抜けていた。


「おいカブ子さん! スピード出しすぎだって!」

「安全運転モード解除中ですので♡」

「解除すんな!!」


背中にしがみつきながら、本田兼吉は絶叫した。

空はどこまでも青く、地平線の向こうに見える山々は見たこともない形をしている。

――ここが異世界。

祖父のスーパーカブが人型になり、バイクにも変形する、謎の世界だ。


「目的地は、どちらへ?」

「さぁ……とりあえず、人がいそうな場所まで――」


そのとき。

地面が、震えた。



◆竜、襲来


遠くの丘の向こうから、黒い影が飛び出す。

それは、鱗に覆われた巨大な生物――ドラゴンだった。


「おいおいおいおい!? あれってまさか!」

「敵性反応確認。生物種:竜。推定出力、わたくしの3.4倍」

「3.4倍って、勝てねぇだろ!!」


竜が口を開き、炎を吐く。

灼熱の火球が迫る――


「回避モード、起動します♡」


ブロロロロロロロロロロロロロロッ!!!


カブ子さんの足元から、白煙が上がった。

地面を蹴るように、バイク形態へ変形。

金属が軋み、風が爆ぜる。


竜の炎を、すれすれで回避した。



◆スーパーカブ、全開走行


「おい! 飛んでるぞカブ子さん!?」

「はい♡ 飛行モードはオプション装備です!」

「誰がそんなの付けたんだよぉぉ!!」


《ギアチェンジ:五速、全開!》


エンジンが咆哮し、風が弾ける。

竜が追いすがるが、カブ子さんはその速度を上回った。


「竜の飛行速度、超過確認。追い抜きます♡」

「お前、カブの限界ってなんだよ!!」


ドォンッ!!!


爆発的な加速とともに、竜の頭上を通過。

竜が驚愕の咆哮を上げる。


「ぶっちぎり、完了です♡」


風が止み、静寂が戻る。

兼吉はカブ子さんの背に額を押しつけ、息を整えた。


「……お前、ホントにただのスーパーカブなのか?」

「はい。本田技研工業製スーパーカブ型式AA01。

 ただし、“異世界チューン済み”でございます♡」


「どこのディーラーがそんなチューンすんだよ!!」


カブ子さんは楽しげに笑いながら、夕焼けの空を駆け抜けていった。



🌟次回予告


第3話:「カブ子さん、街に現る!

“鉄の乙女”と呼ばれた少女とバイク少年の評判、広がる!」

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