第15話 捜査線拡張!?

港に残された潮の匂いが、まだ彼らの鼻に刺さっていた。


朝霧たちは倉庫街に佇んだまま、遠ざかる貨物船の黒い影を見送ったが――

その静寂は、突然の轟音で破られた。


ババババッ――!


上空に、二機のヘリが飛来した。

海保のマークが月光を反射し、プロペラの風が波を乱す。


「追跡班のヘリだ!」健太が叫ぶ。


甲板の上で慌ただしく装備を整える海保隊員たち。

無線越しに、警察本部とのやり取りが断片的に聞こえてくる。


朝霧は胸ポケットの無線を強く握った。

「本部、こちら朝霧。貨物船はGPSを切って逃走。位置の特定は――」


『こちら本部。新情報が入った。衛星監視チームより緊急報告。

 貨物船は国境を越えた可能性が高い。』


「国境……?」こはるが息を呑む。


『船は極めて低速で進み、途中でレーダーに映らなくなった。

 だが――数分後、フランス国籍の貨物船が同じ進路上に突然現れた。

 積み荷情報が不自然に改ざんされている』


香澄は顔色を変えた。

「つまり……船を乗り換えたってこと?」


『その可能性が高い。

 ――“K”はフランスに向かった。』


風が止まり、潮の匂いが一層濃くなる。

朝霧たちの胸に、重い事実だけが沈んだ。


健太が下を向いたまま呟く。

「日本の領海から……出ちゃったってことか……」


朝霧は静かに目を閉じた。

思考が一瞬だけ凍り、次の瞬間、再び燃え上がる。


「……国が変わったからって、追うのを諦めるわけにはいかない」


ふいに無線が鳴る。


『本部より。国際捜査課が動く。フランス側と連携し、追跡を継続する。

 君たち現地班は、明朝一番の便でパリに向かえ――以上。』


「パリ!?」こはるが驚きで目を丸くした。


健太は一気に顔を上げる。

「本当に行くの? 海外にまで……?」


朝霧は静かに、しかし確信を込めて答えた。


「行くわ。“K”が向かったのは、ただの逃亡先じゃない。

 ――あそこが本拠地よ」


月が高く昇り、倉庫街の影を長く引き延ばす。


その時――

ポツン、と足元の“月の模型”が再び光り出した。


表面の“K”の文字が、フランス語のような文字列に変わりながら、薄く浮かんでは消えていく。


Invitation prochaine…

(次の招待状)


香澄が小さく震えた声で言った。

「向こうで……また“ゲーム”を仕掛ける気だわ」


朝霧は模型を拾い上げ、強く握りしめた。


「上等よ。

 ――行きましょう、海の向こうへ。」


潮風が吹き抜け、夜が深く沈む。

そして日の出前、彼らはパリ行きのフライトに向けて走り出す。


物語はついに、舞台をヨーロッパへと移していった。

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