第4話

 頑張って作っているっぽい笑顔と違って、本当の感情が顔に出ているっていうか。そういう顔の方が私は好きだな、なんて言ってもまだ届かなそう。この世界で一番可愛い私が、二番目に可愛いって自信を持って言える人なのに。


 意外に自信がないんだなぁ、宇都木って子は。

 むずむずしてきた。もし宇都木が自分の可愛さを自覚して、私は可愛いですーって自信を持ち始めたら絶対凄いことになるのに。


 うぅ、もったいない。

 もったいない、けど。強要すんのも違うよなぁ。

 ……はぁ。もったいないよ〜〜。


「清瀬さんは、可愛いよ」

「うん。それで?」

「それで!? えっと、自信があって凄いなぁって思うし、友達も多くて羨ましい、かな」

「うんうん。それでそれで?」

「ま、まだ褒めるの!? それでその、誰にでも分け隔てないところもいいと思う」


 もっと私のこと褒めて〜〜♡♡!!

 可愛いよね、私! だよね! 最高だよね! わかるわかる!

 私は私のこと褒めてくれる人ちゅき♡♡♡


「もっともっと!」

「え、えぇ〜……。私が迷ってる時に一緒に教室に行ってくれた時、なんかかっこいいなぁって思ったり……」

「そんなことあったっけ?」

「うん。入学したての頃」

「そっか〜。それで私のこと好きになっちゃったか〜!!」

「うん」


 そりゃそうなるよねぇ。

 私みたいな可愛い子が道案内してくれたらもうそれは恋に落ちるしかなくなっちゃうよね。ああ、私って罪な女……! 一体何人の初恋を奪ってしまったんだろう……!


 やばい、テンション上がってきた。

 私はがばっと立ち上がって、宇都木の手を握った。


「ごめん、宇都木」

「え?」

「私も宇都木のこと、たっくさん褒めさせて!」

「えぇっ!?」

「もう私の中の褒め欲が限界なの!」

「ええぇ……い、いいけど……」

「じゃあ言うけど!」


 私はぎゅっと……いや、ぎゅぎゅっと彼女の手を握る。


「自覚してないかもだけど宇都木ってめっちゃくちゃ可愛いし、勉強の教え方もすっごいうまいしマッサージだってプロかな? って感じだったしもう何しても一流になれるんじゃない? って思うわけ!」

「えっと……」

「でも実際宇都木も自分のこと可愛いって思ってるでしょ? だってメイクする時いつも顔見るわけじゃん。その時ちょっとも可愛いって思わないの? ほんとに??」

「……ちょっとは思う、かもだけど」

「だよね〜〜♡♡!!!」


 そりゃそうだ。

 美味しいものはまずいって思い込もうとしても美味しいし、可愛い人はどう足掻いても可愛いに決まっているのだ。


 可愛い。

 宇都木初華は、可愛いのだ!!


「顔は生まれつきって言うけどそれでも可愛いのは事実だしその顔を活かすためのメイクをしてるならそれはもう立派な努力で勝ち取った可愛いだし最高なことには違いないから! 私は可愛い! って言ってみて!」

「わ、私は可愛い……?」

「私は可愛い!」

「わ、私は可愛い……!」

「もっと大きな声でー?」

「私は可愛い!」


 やけになったように、彼女は叫ぶ。

 私はにっこり笑った。


「エクセレント! これで可愛いを自覚できたね、宇都木!」

「英語の勉強の成果が変なところに出てるし……」

「他のことはまだ自信なくてもいいけど! 自分の可愛さにだけはお願いだから自信を持ってください……!」

「本気の懇願!? な、なんでそこまで必死に……」

「だって! 私は可愛いものが大好きなの!」


 ぎゅぎゅっと……ぎゅぎゅぎゅっと彼女の手を握る。


「可愛いものは心を満たしてくれるし幸せにしてくれるし、私の人生になくちゃならないものだから! 可愛い人には自分のことちゃんと可愛いって認めてあげてほしいんだよ〜! そっちの方が絶対幸せだから! もっと可愛くなるから!」

「そ、そうなの?」

「そうなの!! これはもう、ほんとにそうなの!!!」


 可愛い子が自分なんて可愛くないと思っちゃうのは人類の損失! 私は悲しいです!


「じゃあ、その。……ちょっとだけ、自分のこと可愛いって思ってみる」

「うん、それでよし! なんなら毎朝おはよう可愛いねメッセージ送ったげるよ」

「それはちょっと……」


 ふう、また一人可愛さ迷子になっている人を救ってしまった……。


 ……。

 …………。

 じゃなくない?


 せっかく可愛いのに自信なさげな宇都木を見て、完全に正気を失っていた。やっちゃってるよこれ! 完全に!!


 やばい〜〜。

 宇都木の気持ち無視しちゃってないこれ。大丈夫?? いやでも宇都木を褒めたかったのも事実だし可愛いのも事実だし!

 私はそっと彼女から手を離した。


「えーっと、宇都木?」

「どうしたの?」

「……ごめん!」

「えっ」

「私完全に暴走してた。その、嫌じゃなかった?」

「……大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたっていうか、困ったのはあるけど」

「だよねー……」


 普段こんなことないんだけど、やっぱり私の知る中で宇都木がトップクラスで可愛い子だから、なのかな。いや、でも、それだけじゃない気がする。この胸のドキドキだとか、絶対宇都木に元気になってほしいって気持ちは、一体。


 ……恋?

 いやいや。昨日キスされたばっかの相手に、いきなり恋はないってば。


「悪いって思ってる?」


 宇都木が言う。

 私は頷いた。


「それはもう。いきなりびっくりさせてごめん」

「ごめんだけじゃ、ちょっとなぁ」


 おや?

 いきなり悪質なクレーマーみたいになってきてない??


「何をすればいいんですか……?」

「んー……じゃあ私にも、マッサージしてよ」

「え、そんなんでいいの? マッサージとかしたことないから、多分めっちゃ下手だけど」

「いいよ。初めては皆うまくいかないのが普通だし」


 ま、そうだよね。

 ……あれ、てことはつまり。

 キスがめっちゃうまい宇都木って、初めてではない……!?


 いや、それもそうか。宇都木ほど可愛い子ならキスくらいいくらでもしたことがあるか。これまでどれくらい多くの人と付き合ってきたのか、ちょっと気になるけど。さすがにまだ仲良くもないのに過去の恋愛のことは聞けないよなぁ。


「んじゃま失礼して」


 私は彼女の後ろに回り込んで、肩に手を置いた。

 こうして改めて触ってみると、めっちゃ華奢だ。私より背は高いのに、ちょっと頼りない感じ。儚さ的なものが掌から伝わってくる。


 うわー、なんかめっちゃ女の子って感じだ。

 普段自分の体に触ることはあっても、こうしてじっくり人に触ることってないから新鮮だ。私は見よう見まねというか、さっきの宇都木を思い出してマッサージをしていく。


 ……いい匂い、するな。

 多分、柑橘系の匂いだ。香水なのか洗剤なのかはわからないけど、シトラスとかあの辺の匂いがする。私は普段柑橘系より花の匂いにすることが多いから、その辺も新鮮だった。


 背中もなんかちっちゃいし。

 いやいや、私さっきからじっくり見過ぎじゃない?


 人の体をあんまり観察するのも失礼っていうか。宇都木は私を見て、どう感じたんだろうなってちょっと思うけど。


「ん……いい感じ」

「ならよかった。あんまよくわかんないけど、凝ってる感じするわ。お客さん、疲れてますねー」

「ふふ、そうかも」

「やっぱ日頃から勉強すんのって大変?」

「慣れればそうでもないよ。清瀬さんもやってみる?」

「遠慮しとく」


 彼女はくすくす笑う。

 色々、知りたいことはたくさんある。私にキスをしてきた本当の理由とか、彼女のこれまでのこととか、性格とか。だけどこうして彼女が小さな背中を震わせて笑っているのを見ていると、今はこうして触れ合えるだけでもいいかなって思うのだ。


 なんかちょっと幸せだなぁ、みたいな。

 いつもだったらこうは思わないのに。これもラブホの魔力ってやつなのか?


 ラブホ。ラブホかぁ。

 待って?


 ラブホでお互いに触り合うって、結構すごいシチュじゃない!? 改めてそう考えると、ちょっと恥ずかしくなってくる。落ち着け私、動揺が手に出ないように……。

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