第12話 赤い信号
「・・・」
誰もいない信号に待つ時間――。
当たり前にあるその信号の赤に、なぜ赤なのか、その自明の不安定に、
世界がグラグラと揺れていく。
赤が赤の意味を持つ前の世界を、私は知っていたはずだった――。
不安が世界いっぱいに溢れる。
ガチガチと震えるように足元が崩れていく――。
《イスラエルはパレスチナとの停戦協定を破り、ガザへ砲撃を開始したとの・・、この砲撃で少なくとも○○人が殺され・・》
「あなたはまだそこにいるの?」
声が聞こえる。
それは少女の声。
ブッダ:
三種の激しい欲望があります
感覚的なものへの欲望
生存への欲望
消滅への欲望です
相応部四五ー一七〇
世界中を敵に回しても、絶対に許せない奴がいる。
「俺は狂ってなんかいない」
鏡に映る彼。彼は僕。僕は彼を見つめる。彼が僕を見つめている――。
「俺は狂ってなんかいない」
俺って一体誰なんだ・・?
不安――。
不安になる――。
東部中学校一年四組。
あの時のあの自分があそこにいたことに、今はなんだか信じられない思いがする。
あの時、僕は一年四組の生徒で、あの人間たちと同級生だった。
あの人間たちは、今もあの世界にいる。
《アメリカがイランの核施設三か所を攻撃》
核戦争の危険が迫っている。
「もうそれでいいよ」
みんな死ぬならそれでいい。
「もう疲れたよ」
この世界で生きていくことに、僕はもう疲れてしまった。
「おまえは セックスでもしていろ」
お前には女とセックスがよく似合う。お前はそんな男だ。
「すべて滅びてくれ」
何もかもすべて、すべて滅びて欲しい・・。ありとあらゆる何もかも、すべて跡形もなく滅びて欲しい。
世界が滅びれば、僕を苦しめているあの訳の分からない何かもすべてが滅びる。
もはや僕の救いはそこにしかない――。
くらべるものとてない至上の神
パドマ・ティメよ
あなたの深い慈悲のこころを憶う(おもう)とき
あなたへの
おさえ難い愛と帰依の念(こころ)をうたう
悲しい詩(うた)が
岩と雪と湖のなかから
私のこころに湧きあがる
雪山はパゴダのように
天に向かって聳えたつ
雲を白い首飾りにして
だが
夕暮れの赤い風を吹き飛ばすとき
その裸身が露わになるのは
なんと悲しいことだろう
澄んだ空を映し出す湖は
地上の美事な飾りもの
私の心がどれほど満たされているかを
測ってくれる
だが
魚とかわうそが命をかけて闘うとき
そこには
いかに多くの血が流れることか
死すべき運命(さだめ)のわれわれは
一時(ひととき)の虚偽(たわむれ)に時を忘れた
だが
すべてのものが死にゆくさまが
顕わにみえる いま
ポヴォ谷は死体置き場だ
わたし チョギャムは
東に向かってとびはね踊る
頭の赤いハゲワシは
墓地の木にとまり
ワニは墓場の水場で眠っている
勇ましくも
人の死体をむさぼり喰うことよ
自分の屍を食い物にするものが
待っているのも知らずに
おいがおじを殺し
隣人たちがすべて野蛮な仇となる
この暗黒の時代には
どこに身を隠しても
毒を含んだ霧がしのびより
全身を包みこむ
わたしは時を呼びもどし
師父の記憶をよびおこす
わたしのこころに
慈愛にみちた尊顔がたちあらわれる
生じることもなく 滅することもない
すべての変化を超越した
真実の相をもって
時を超えて
彼は至上の教えを説きつづける
わたしは
自由に向かって歩みつづける
かれの最後の弟子として
ポヴォ谷をさまよう者の詩(うた)
地獄は、いつだってたんたんとした日常のたんたんのところにある。
今日も僕は生きていない世界に生きている。
みんな今日も狂っていく。でも、そのことに気づきもしない。
愚かに迷い
心の乱れている人が百年生きるよりは
知慧あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。
素行が悪く
心が乱れていて百年生きるよりは
徳行あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。
ダンマパダ
また冬が来る。あの辛く長い長い冬が――
あけすけに真実をしゃべってしまうあの子はいつも嫌われていた。
「なあ、俺は狂ってなんかいないよな」
俺はしゃべっている。
「俺は誰としゃべっているんだ?」
友だちなんていないだろ?君に。
「・・・」
誰もいない部屋。
誰もいない部屋・・。
この世界中に誰だっていない。
国家レベルの大虐殺の惨劇が世界中にライブ配信されているこんな狂った世界で、まともにいられる人間の方が狂っている。
狂っているのはあいつらの方だ。
人々の苦しみには原因があり
人々の悟りには道があるように
すべてのものは みな縁(条件)によって生まれ
縁によって滅びる。
雨の降るのも
風の吹くのも
花の咲くのも
葉の散るのも
すべて縁によって生じ
縁によって滅びるのである。
シュリーマーラーデーヴィー・シンハナーダ・スートラ
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