第4話 孤独
《警視庁の統計によれば、昨年警察が取り扱った死者二〇万四一八四人のうち、自宅で亡くなった単身者は四割近くの七万六〇二〇人に上った。孤独死は社会問題化しており・・》
「君は地獄を見たことがあるか?」
「・・、いや・・」
「俺はある」
「・・・」
映画・サイレント・シティ・ドライバーより
誰も愛していないし、誰からも愛されていない。それが僕の生きている世界。
辛く苦しい孤独。しかし、孤独の喜びを知ってしまったら、そこからいつしか抜け出せなくなる。
気づけば次の日、僕はまたいつもの場所にいる。闇と虚しさが漂う場所――。
そして、彼は今日も新聞を配る。
闇の中に、あの奇妙なインストゥルメンタルの曲が溶けるように流れている。
今日は、何月の何日だったろうか。曜日は?季節は?夏?暑いから、多分そうなのだろう――。しかし、どこかで寒さも感じる。これは、ただの悪寒だろうか・・、それとも・・。
私は不安になる。
《ガザでの死者数が三万人を超え、内子どもの死者数が一万人を超えたとの・・》
実に欲望は色とりどりで甘美であり
心に楽しく 種々のかたちで心を撹乱する
欲望の対象には
この患いのあることを見て
犀の角のようにただ独り歩め
スッタニパータ
外灯に集まる羽虫のように、今日も深夜のコンビニの前にたむろする若者たち。
こんなクソみたいな世の中で、なんでそんなに笑えるんだ?それをいつも不思議に思う。
「クソだから笑うんだよ」
「・・・」
笑うしかない世の中・・。
結局、世界は虚飾・・、であることを、みんな知りながら、でも、それを口にしてしまったら、あまりに人生が虚しくて・・、だから、誰も何も言わず、とりあえず目先の優越と快楽に笑い声を上げて、楽しい振りをする。
ここはそんな世界。
「・・・」
そんな僕の頭上に満月が光る。
アーナンダ:
貪欲を呼び起こす
見かけだけはよいものを避けなさい
長老偈 二一・一
純粋にいいものをいいと思えなくなったのはいつの頃からだったろうか。
嫉妬、妬み、劣等感、それがいつも僕の純粋の邪魔をする。
ブッダ:
真理を知るものがいてもいなくても、
真理は変わらず存在している。
ここは無人島よりも孤独な街。
愛してやまない孤独――。それは最大の敵でもある。
「生きることに疲れました」
私の日記より――
入社の一か月前、交通事故で配達中の新聞配達員のじいさんが死んだ。
即死だった。
二十歳そこそこの金髪の若造が運転する相手の車は、時速百キロを超えていたという。
それを僕は面接の時に店長から聞かされた。
死はいつも僕のすぐ隣りにある。
ブッダ:
頭が燃えているかのように励め
死は必ず来る
相応部 四ー九
孤独はまるで終わりのない牢獄にいるようだ。孤独に刑期はない。孤独に脱獄も出所もない。
つまりは終身刑。永遠の死刑囚。
僕はその中を生きている。
寒く、暗く、侘しい我が人生。
雨が降り、風は疲れを知らず。
我が想いは過去の日々にへばり付き、
若き日の希望は強風に吹き落ち、
そして日々は暗く、悲しい。
悲しき心よ、静まれ!愚痴をとめよ。
雲の向こうには太陽は依然として輝き、
何時の運命はいずれの人にも同じ。
どの人生にも雨は降り、
暗い、悲しい日々がなければならぬ。
ロングフェロウ
孤独死。それはすぐそこに当たり前にある現実。
「新聞がたまっとってなぁ、なんかおかしい思うてたら、中で死んどったわ」
「臭いはなかったわ。ただ、窓が真っ黒になっとってなぁ。それ全部ハエやねん」
新聞販売所所長・岩井氏の話
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