第3話 渓谷越え
渓谷にかかった吊り橋。
これを抜けると、目的地のケイクオウルだった。
「……なんこれ、中々に肝試し橋だわね」
見渡す、霧の向こう側へ消えるように長く延びる橋。
蔓のロープが所々ほつれ、板はところどころ割れている。
街の住人が生活のために使っているせいか、老朽化が激しい。体重を預けるには、度胸が要った。
ララカはツン、ツンとつま先で揺らしてみせる。
トントンと渡っていくエリンが、振り向いて笑った。
「私も昔は怖かったケドね。案外丈夫に出来てるのよ。馬車だって通るんだから」
そう言って、ララカとイチガの間に手を差し出す。
その手を無視し、イチガはララカの手を取った。
「切れそうになったら、蔓を掴んで、近い方へ走る」
一歩、足を踏み出すイチガ。
風が唸り、橋がぎしりと鳴く。
「大丈夫。下は川だ。落ちても泳げば助かる」
「……この寒い時期に、泳ぐのは嫌ぁ」
ボヤきながらも、ララカは一歩一歩、慎重に足を運んだ。
だが、足取りは遅い。
「ねーえ? お嬢ちゃん。渡り切る前に橋が朽ちて落ちちゃうわよ!」
「だって……足に力が……」
「担ごうか?」
イチガがララカの腰に手を回そうとする。
が、
バシッと叩いて手を払うララカ。
「要らん! 自分の足で花婿を……!!」
その言葉に、エリンがニンマリと口角を上げた。
「お婿さん、ね?
ケイクオウルは裁縫で有名な街よ。シュッとしたテーラーなんて、沢山いるわ」
「し……しゅッ……?」
「『お嬢様! こちらの生地など、肌色によくお似合いになりますね……しかし……』」
伊達男のような声色で、ララカの襟元に手を差し入れるエリン。
「『こんな生地よりも、僕の手の方が――』」
「うわああああああ!!」
突然のララカの叫びに、イチガは思わず耳を塞いだ。
「そういう! そういうのは婚礼の後なのよ!? だめ! 会っていきなりなんてッ!!」
顔から蒸気を上げながら、しかし勢いそのままに橋を渡っていくララカ。
イチガは首を傾げ、エリンは腹を抱えて笑う。
風が吹き抜け、霧が一瞬だけ晴れた。
吊り橋の向こうに、白い街並みがぼんやりと浮かんでいる。
それが、ケイクオウル。
裁縫の町だった。
イチガララカの花婿探し 花雲ユラ @hanagumo_yura
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