乙女ゲームのプロローグで死ぬ主人公の兄に転生したので全力で死亡回避したら、俺が聖女になってしまった。いや、俺、男ですけど?
ダイシャクシギ
第1話 この世界、知ってる…?
「……ちゃん、お兄ちゃん!」
軽やかで弾むような声が聞こえる。
声の主に身体を揺すられたことで俺の意識も徐々にはっきりしてくる。
「お兄ちゃんってば! 起きてよ!」
お兄ちゃん……?
俺には、弟(俺)に「このゲームが難しいから代わりにやって~。マジ神ゲーだから~」とか言って乙女ゲーをやらせてくる若干腐っている残念な喪女姉しかいない。
それなら、きっとこれも夢なのだろう。
「おーきーてー! 朝だよー!」
しつこいな……
声の主はどうしても俺を起こしたいらしく、段々と激しい揺れになってきた。
俺は渋々と目を開け、目の前の光景に思考がフリーズした。
「…………」
「もー! やっと起きた! おはよう、お兄ちゃん」
窓から射しこむ朝日の中、ベッドに寝ている俺へ覆いかかるように見下ろしてくる美少女がいた。
陽の光を受けて輝くさらさらとしたショートボブの銀髪。
染みひとつない透明な肌。
少しだけ怒ったように寄せられた整った眉に、長い
美少女はどんな表情でも美少女なんだな……
「…………」
「あれ? お兄ちゃん? 起きてる? おーい」
こんな美少女、見たこと――――いや、見覚えが、ある……?
あれは……
「ミリア~、レオンは起きた~?」
「まだー!」
美少女は遠くから聞こえる女性の声に振り返って大きく返事をし、再びくるりとこちらへと向き直った。
部屋の窓から射す朝日にふわりと舞った銀色の髪がキラキラと輝いている。
「ミリア・アーデルハイト……?」
「?? どうしたの改まって? まだ寝ぼけてるの?」
ミリアは俺のつぶやきに不思議そうな顔をする。
そして軽く首を
「そうですよー。お兄ちゃんの可愛い可愛い妹の、ミリアですよー」
「…………」
少しふざけた様子で少女は自分の両頬に人差し指を当てる。
向けられたコケティッシュな笑顔の可愛さに、ただでさえ混乱していた思考が更にフリーズしていく。
「お兄ちゃん、ホントにどうしたの? 具合でも悪いの?」
あまりの反応の薄さに心配になったのか、ミリアが顔を近づけて
ベッドに寝たままの俺には逃げ場もなく、そのまま固まってしまう。
「っ……!」
「んー……熱とかは無さそう」
眼前に限りなくどアップになった
状況に全く頭が付いていかない。
発熱のないことを確認して満足したのかミリアの顔が離れていく。
「具合が悪いとかじゃないなら、いい加減起きてね。お父様もお母様も待ちくたびれてるよー」
「ぁ、あぁ……」
混乱した頭で必死にそれだけを言う。
こちらがようやく起きたと判断したのか、早く起きてくるよう念を押してからミリアは部屋から出て行った。
廊下を走って行くミリアの足音を聞きながらベッドから身体を起こし、混乱の抜けきらない思考を整理する。
「どういうことだ……? ミリアがいるってことは、ここはプリクロの世界、なのか……?」
『プリズムハート・クロニクル~聖女と五つの誓い~』。
通称プリクロは俺が残念姉にやらされていた乙女ゲームの一つだ。
田舎の貧乏貴族だった主人公(ミリア)が聖女として力に目覚め、学園に通うことになり、イケメン王子様や騎士様たちとイチャコラしながら絆を深めていく。
そして覚醒した聖女の力と愛の力で魔王様を倒す、みたいな話だ。
戦闘システムやジョブやスキルツリーによる育成システムやらが妙に凝っていたせいで残念姉には難しかったらしく、姉の代わりにさんざん周回させられた。
金払いは良かったのでいいバイトではあったが……
「夢、か……?」
念のために
夢であってほしかったが、どうやら違うらしい。
ベッドを降り、部屋の隅にある姿見の前へと向かう。
「っ!?」
鏡を見て言葉を失う。
そこには記憶にある俺の姿はなく、先ほどのミリアによく似た銀髪の美少年が映っていた。
まだ幼さを残した頬のラインに、薄い唇。線の細い身体。
男性として成長しきっていない故の中性的な危うさに、思わずドキリとする。
「これが……俺?」
鏡の中の美少年がミリアによく似た声を発する。
「マジ、かぁ……」
俺が、この美少年ってこと、らしい。
どういうことだ……?
さっきミリアにそっくりな美少女もいたし……
ゲーム世界転生、ってやつか?
でも何でそんな急に……
混乱して立ち尽くすこと数秒。
両頬を両手で軽くペシリと張り、気持ちを立て直す。
「落ち着け。落ち着け、俺。とりあえず、思い出せる範囲で直近の出来事を思い出せ……」
頬にあった両手でそのまま頭を抱え、記憶を必死にたどってみる。
だが記憶はどうにも曖昧だ。
「えぇっと……」
そう、
俺はインフラ系のシステムを扱ってる会社でSEをやっていた。
そして、あの馬鹿営業が有り得ない超短納期の仕事を得意顔で取って来たんだよな。
SE業界なんて、現場を把握してない経営陣がすぐに人件費削減とか騒いで人が削られて、それでもみんなで必死に仕事回してて……
そんな中、一週間あればいけるっしょ? じゃねぇよ、あの馬鹿が。
現場に泣きつけばどうにかなると思いやがって……
違う違う、脱線した。
えぇっと……結局チームみんなで会社泊り込みのデスマーチで対応することになって……
三徹目に着替えが無くなったから、着替えを取りに一時帰宅したんだよな。
そんで最寄り駅から家までの近道に裏通りを歩いていたら、突然正面から眩しいライトにいきなり視界を焼かれて。
その直後にものすごい衝撃が……
「あれ?」
記憶はそこで途切れ、以降を思い出せそうにない。
え? どういうこと?
もしかして……
「俺、交通事故か何かで死んだ……?」
言葉にしたせいだろうか。
奇妙な納得感が胸にストンと落ちてくる。
そっか……
死んだのか……
「そっか……」
親父にも、おふくろにも、親孝行らしいこと出来なかったな。
長期休載しまくりの漫画、最後まで読めなかったな……
馬鹿姉貴、俺のパソコンのHDD、物理破壊してくれたかなぁ……
そんなことをつらつらと思いつつ呆然とすることしばし。
まぁ、あれだ。
みんな、がんばって。後は頼んだ。
俺はこっちの世界で生きて――
「ん……? ちょっと待て」
プリクロのプロローグを全力で脳内再生する。
「主人公ミリアの兄ってことは……」
周回を繰り返すうちにスキップしていたせいで詳細までは覚えていない。
だが、たしか――
「あれ? 俺、死ぬんじゃね?」
プリクロのプロローグでは、ミリアの15歳の誕生日、ミリアたちが住む村を魔獣たちが襲う。
そして魔物に襲われるミリアを助けようとして、双子の兄であるレオンがミリアの目の前で殺されてしまう。
そのショックでミリアに眠る聖女の力の一部が覚醒するんだが……
「ぇ、やっぱり俺、死ぬじゃん」
どうしよう。
新しい人生、もうすぐ終わるの確定してる?
どうしよう、いやマジでどうしよう……
「おーにーいーちゃーん!!」
いつの間にか再び部屋に入って来ていたミリアが先ほどよりも眉の角度をきつくしながら腰に手を当てて立っている。
ぷりぷりと怒っているミリアを改めて見つめる。
「はーやーくーきーて! お父様もお母様も待ちくたびれてるって言ったでしょ!」
美少女は怒っても美少女。
だが何だろう、この違和感……
そうか!
ゲーム画面で見ていたミリアより、いくらか幼い気がする!
「ミリア! ミリアはいま何歳だ?」
ミリアの両肩を掴み、慌てて尋ねる。
俺の急な質問に目を白黒させつつ、微かに頬を赤らめたミリアはすぐに答えてくれた。
「え、12歳だけど……この前、一緒に誕生日のお祝いしたじゃない」
12歳!!
それならまだ3年近くある。
3年もあれば、間に合うかもしれない。
俺が死ぬ魔物襲撃イベントを回避できるかもしれない!
「ミリア……俺、がんばるから! がんばってミリアも俺も幸せになれる道を探すから!」
「ぇ?! お兄ちゃん、どうしたの急に? そんな……急に告白されても、心の準備が……そ、そういうのは、せめてもうちょっとムードのある夜とかに……」
急にミリアが真っ赤になってモジモジしている気もするが、そんなのは後回しだ。
早く3年後の死にイベ回避に向けた計画を立てなければ!!
──これは歴史に名を刻む”最初で最後の男の聖女”の物語である。
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お読みいただきありがとうございます。
ご無沙汰しておりました。
久々の新作です。
カクヨムコン11に何とか間に合わせるつもりですので、
もし良ければお付き合いください。
フォローと★★★がまだの方は執筆のモチベアップになります。
よければお願い致します(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
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