第9話 炎の魔女ココアとの出会い
▼▼▼ side:炎の魔女 【過去】▼▼▼
これは、セイ・カボルトが「??」と呼ばれていた頃の、現実世界での過去話。
当時小学一年生の??は、真夜中の公園で一人ポツンと、砂場の上で座り込んでいた。
手から流れる電流が、止まらない。
電気が皮膚の下で暴れ、指の動きすら制御できない。
自分の体がまるで自分のものではないかのように、言うことを聞かない。
壊れたテレビ。
壊れたゲーム機。
データが消えた瞬間、父親が声を荒げ、怒鳴り声が耳の奥で反響した。
逃げるように家から飛び出したのは、もちろん、怒られて怖かったから、もある。
だが、今回は特別、“家から出るしかなかった”。
父さんが、俺の力で腕を火傷したからだ。
父さんが、一瞬怯えた顔をしたからだ。
その顔が、目に焼き付いてしまったからだ。
??を囲うように、小さな緑の稲妻が走る。
稲妻は生き物のように??を守り、月の光すらない真夜中では、花火のように輝いていた。
今は、誰にも見られない。
??は、稲妻を泳がせることにした。
まるでこの時を待っていたかのように、より一層輝く。緑の光は夜の信号機よりも眩しく、砂場の粒がひとつひとつ反射して、小さな宇宙が広がった。
「綺麗」
声に、肩が跳ねた。
ここは誰もいないはずの公園。
??は涙を拭い振り向くと、トイレの前で少女が立っていた。
中学校の制服の上から、大きなコートを羽織る少女。月のない夜で白い顔だけがぼんやり幽霊のように浮かんで見えた。
??は怯え逃げ出そうとすると、彼女は右手をコートから出す。
ほわりと、松明のような、暖かな炎が咲いた。
「わたし、君と同じかもしれないよ?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の中に熱が灯る。
荒ぶる稲妻が、気づけば静かになっていた。
彼女の名は『心愛(ココア)』長い黒髪は艶やかで、真夜中だというのに肌は発光したように白い。
だがその瞳は、なんの感情も映っていなかった───まるで、この世界で『生きていない』かのように。
▼▼▼ side:炎の魔女 ▼▼▼ 第一の回想 完。
ここは、偽物の亜空間。
十二月十七日・午後
セイは、古びた階段から街を見下ろす。
かつて病院だった廃墟の最上階。
冬風が鉄骨を撫で、白い息が薄暗い廊下に溶け込んでいく。
セイは息を切らしながら、埃まみれの部屋に声を投げた。
「リーダー!」
廃墟にしては使えそうな古い家具。
レコーダーに、やかんと割れたコップ。
ガラクタだらけの生活感ある部屋で、ある女性がベッドから起き上がる。
「あん? 帰れ」
彼女は、染めたばかりの金髪に、毛先は青。
耳のピアスはきらりと光を反射し、健康的に焼けた肌を引き立たせていた。
青のスカジャンを羽織り、黄色のハイニットに短すぎるパンツ。冬にしてはあまりに薄い服装だ。
セイは用件を伝える。
「今から信じられないけど、信じてほしいことを言います」
「言ってみろよ、信じるから」
セイは、真剣な面持ちで告げた。
「明日、アンタの妹が死ぬ」
沈黙。
ベッドが軋み、飛び降りる。
黒い目を赤く輝かせ、耳のピアスがキラリと光を反射した。
「私信じるって言ったけど、嘘ついたわ」
彼女の炎が、帯のように揺らめく。廃墟に光が灯るも、空気は最悪に冷えきっていた。
「今からお前を殴る」
火柱のような拳が飛び、セイは全身でかわす。
避けながら、必死に叫んだ。
「本気! 本当! 俺三日先の未来から来たんだって!」
「嘘でも言っていいこと悪いことあるんだよ! ほら謝れよ、今なら許してやっからさァ!!」
炎を纏う拳がセイの顔面を狙う。
しかし、セイは拳を視界でハッキリと捉えた上で、蹴りや拳、全ての攻撃を回避する。
やっぱりこうなった!
わかってたけど、しばらく暴れたら落ち着くんだ、頑張れ俺、避けきれ俺。
廊下から二人を眺めていたチャドは、肩を揺らして笑った。
セイって優しいね。『三日前を再生している世界』って伝えればいいのに、混乱するからって『未来から来た』で誤魔化すなんて。
それにしても。
チャドが、ぽつりと漏らす。
「あのヤンキー、魔女だね」
チャドの言葉に、涼策は「ヤンキーの魔女……」と呟き、ふっと鼻で笑った。
「すぐ魔力枯渇するクセに、あんな出しちゃって」
「だからココアは炎を」
チャドは勢いよく、涼策と目を合わせた。
「ココア?! あだ名?」
「本名」
「ココアさん?!」
毎週水土21時33分投稿
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