第7話 五つのヒントと失われた三日間


 教室を出た三人は、亜空間を壊す方法を探る。

 まずはセイの記憶通りの学校かどうか、教室を見回っていた。



 図書室に入る。

 カウンターでは、両手を広げ歓迎するサラが居た。


「よってらっしゃい見てらっしゃい!」


 セイが叫ぶ。


「三人目?! サラ何人いるの?」

「サラ先生十二号が! おすすめの本を紹介するよ!」

「十二人居るなんて!」


 これまで異なる教室で、三人のサラと出会った。全員服装が異なり、全員担当クラスが異なる。

 それぞれ役割があるのだろう。

 驚くセイの隣で、涼策は微笑ましそうに笑った。


「いやいや、サラ先生は三十五人いるから」

「少しは違和感を覚えてほしい」


 セイと涼策がサラ先生と会話している間、チャドはカウンターに並ぶオススメの本を眺めていた。

 セイがチャドの動きに気づく。


「気になるものあった?」


 チャドはオススメの本から、一冊手に取る。タイトルは『一繋ぎの財宝』中をペラペラと捲ると、セイがチャドへ伝えた。


「それ三十巻はあるから、今はやめといた方がいいよ」


 涼策は、チャドが手にした漫画を見る。


「しかもそれ三十一巻じゃん」

「もう三十一巻出たの?」


 チャドは漫画を閉じ、元の位置に戻した。


「すぐに読めて面白いの教えて!」


 二人は同時に図書室の漫画コーナーからあれがいいこれがいいと話し合い、涼策は系統の異なる五冊を選ぶと、一巻をチャドに渡した。


「こっちはギャグ漫画でッ!」


 セイは涼策の手を掴んだ。

 涼策は息を飲み、口を閉ざす。

 セイは知っている、涼策が選んできた漫画は全て彼のお気に入りであり、一度話せば口が止まらなくなることを。

 セイはチャドへ、軽く涼策について話した。


「ごめん。こいつに漫画の話させると、一時間は終わらないからさ」


 チャドは並んだ二人を見比べ、ふと思ったことをそのまま告げる。


「二人って、種族違うけど兄弟みたいだね」

「違う!」

「違う!」


 同時に否定した二人に、チャドは気にせず肉球の手で漫画を開いた。

 セイの視界では、四つ目の黒山羊が漫画を読んでいる、随分と不思議な光景だ。

 涼策の視界では、人間の友達に漫画をおすすめしただけの、日常の光景だ。

 二人はチャドを挟んで左右に並び、一緒に漫画を読みながら会話を始める。

 先に口を開いたのは、涼策だ。


「ほんっと顔が似てるからって。名字違うのに」

「涼策ぅ、俺さぁ母さんにも似てるねって言われて」

「えぇ、いっそ認める?」

「嫌だね。認めたら負けだよ」


 チャドはぺらぺらと流し読みする。

 ひらり。紙が一枚、ひらりと落ちた。

 拾い上げた彼は「もしかしてこれ」と二人を呼ぶ。

 チャドは『ヒント』と殴り書きされた、一枚の紙をセイへ見せつけた。


「セイ、二枚目だ」


『日付』


 チャドは、セイの顔を覗くようにうかがう。


「どう? なんか思い当たるのある? 一枚目の『雨』は“今日”のことだったよね?」


 学校を一通りまわる最中、音楽室のグランドピアノに『ヒント』の紙が貼られていた。裏には『雨』の文字。

 その文字を見た瞬間、セイは“明日”の記憶を思い出した。

 思い出してはじめて、セイ本人がこの三日間の記憶が朧気であることに気づいた。もしかしたら役に立つのではないかと、こうして探している。


「うーん、日付……今日は誘拐される三日前、今日は雨で、明日は……なんだっけな」


 ここは、セイから見て三日前の世界。

 小さなため息を吐き出したセイは、歩き出す。


「次行こ。多分これ、一個の教室に一個ヒントあるんだよ」


 涼策がセイの隣に並ぶ。

 チャドは漫画を抱え、背を追いかけた。


「本当にこれが“ゲーム”なら、っぽいよねそれ」


 焦るべきなのか、焦らずじっくり答えを見つけるべきなのか。

 セイは自分の胸で思考を巡らせながら、ヒントを求め教室を訪れた。



毎週水土21時33分投稿


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