第6章 真実への一歩
陽太くんの「待ってる」という言葉と、美香たちの温かい優しさ。 あの日以来、私の心の中では小さな光が灯り続けていた。それは、詩織さんの冷たい言葉がもたらす闇に、必死で抵抗する希望の光だった。 もう、逃げてばかりじゃいけない。卑怯な魔法に頼って、嘘で塗り固めた自分で向き合うのは、陽太くんにも、心配してくれる友達にも、あまりに失礼だ。 自分の弱さと向き合わなければ。
そう決意した私は、一つの答えにたどり着いた。 まずは、正直に謝ろう。最近ずっと彼を避けていたこと。そして、約束を果たせていないこと。告白なんて大それたことはできなくても、真実への一歩は、そこから始まるはずだ。
放課後、私は震える足で体育館へ向かった。引き戸の隙間から中を覗くと、ちょうどバスケ部の練習が終わったところだった。タオルで汗を拭う陽太くんの姿を見つけ、心臓が大きく鳴る。 大丈夫。言うことは決まっている。 私は一度、ぎゅっと目をつむり、意を決して彼の名を呼ぼうとした。
「――相葉くん!」
しかし、私の声は、体育館の喧騒にかき消されそうになった別の声と重なった。
「陽太! お疲れ様。飲み物、持ってきたよ」
そこに立っていたのは、当たり前のように陽太くんの隣にいる詩織さんだった。彼女は完璧な笑顔でスポーツドリンクのボトルを差し出し、私の存在に気づくと、その瞳の奥に一瞬だけ冷たい光を宿した。 陽太くんは私に気づき、「あ、白鳥さん」と声をかけてくれる。でも、詩織さんが彼の腕に自分の腕を絡め、「ほら、早く着替えないと風邪ひくよ」と甘えた声で急かした。
「わりい、白鳥さん。ちょっと待ってて」 陽太くんはそう言ってくれたけれど、詩織さんの「あなたに構ってる暇なんてないのよ」という無言の圧力が、私と彼の間に見えない壁を作る。 私は、何も言えなくなってしまった。せっかくかき集めた勇気は、彼女の登場であっという間に萎んでいく。結局、私はまた、自分の弱さに負けたのだ。
陽太くんが部室へ向かった後、詩織さんは私の方へ向き直った。 「まだ諦めてなかったんだ。しつこいね」 その言葉に、私は唇を噛みしめることしかできない。
そのやり取りを、少し離れた場所から陽太くんが見ていたことに、私たちは気づいていなかった。着替えを取りに戻ってきた彼は、詩織さんの冷たい表情と、俯いて拳を握りしめる私の姿を目撃していたのだ。 彼の表情から、いつもの明るさが消える。彼は、私の苦しみの原因が何なのか、確信に近い形で気づき始めていた。
私は、その場から逃げ出した。美術室へ向かう廊下を走りながら、悔しさで涙が滲む。 ポケットの中のペンダントは、もうほとんど温かさを失っていた。 私は、このペンダントの力を疑い始めていた。いや、本当は最初から分かっていたのかもしれない。願いを叶えてくれたように見えたのは、ただの偶然。このペンダントに、本当の魔法の力なんてないのだ。 私をほんの少しだけ前に進ませてくれたのは、魔法じゃない。陽太くんと、美香たちがくれた、温かい言葉だけだった。 真実への一歩は、あまりにも遠くて険しい。それでも、私はもう一度、自分の足で踏み出さなければならない。魔法という名の幻想から覚めて、本当の自分の力で。
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