第3話 こっちの世界の住人
焦げた臭いが辺りに蔓延してくる。
鼻をつく匂いに思わず顔をしかめながら、カイは黒く焼けた道を歩いていた。
「……いや、俺の初級魔法の威力が凄いことは自覚していたが、ここまでになるとは思わなかったな。」
地面には、走った雷の軌跡が蛇のように黒い筋を描き、
木々は片っ端から炭になっている。
焦げた葉がぱらぱらと落ち、歩くたびに灰が舞った。
「これ、ゲームだったら“犯人探し”とかされるレベルだぞ……。」
ぼやきながら、足元の焦げ跡を見下ろす。
魔法で焼けた大地はまだ熱を帯びていて、靴底がじりっと鳴る。
しばらく進むと、遠くで何かの音がした。
風に混じって、微かな叫び声が聞こえる。
「……ん? 今の、声か?」
耳を澄ますと、確かに人の声がした。
助けを求めるような、か細い声。
「まさか……人か何か巻き込んでいるとかじゃないよな。」
半ば不安気に、半ば好奇心で、カイは足を速める。
焦げ跡の終わりを抜けた先――
そこには、黒煙を上げる半壊の荷馬車と、何人かの男たちが倒れていた。
全員、黒焦げ。雷が直撃した痕跡が生々しく残っている。
「……あ、やっぱり巻き込んじゃったかぁ。」
思わず口に出る。
倒れている獣人たちの傍らに、鎖で繋がれた少女が這いずっていた。
腕には鉄製の枷。足も溶けて千切れているが鎖で繋がれている痕跡がある。
服は焼けこげぼろぼろで、肩には謎の烙印。
どう見ても“奴隷”だった。
「おい、大丈夫か?、ごめんな。」
声をかけると、少女はびくりと体を震わせた。
怯えた目でこちらを見る。
けれど、その瞳には、ほんの少しの“安堵”も混じっている。
「……助けて、くれたの……ですか?」
「いや、違うな、俺の放った魔法でそうなってるんだから。」
「……本当なら、貴方のおかげで、助かりました…。」
「?うん。まあ、結果的に助かったならいいか。……あいつらはどうする?生きてそうに無いが。」
涙で濡れた頬を、汚れた指で拭う。
「わたし……捕まって……売られるところでした。
森を抜けたところで……この人たちに……」
言葉の途中で、少女の視線が足元の死体に落ちる。
まだ状況を理解しきれていないようで、呆然と見つめている。
カイは頭をかきながら、短く息を吐いた。
「……とりあえず、傷を治してやる。痛いだろ。」
少女の腕に軽く指を当て、気を流し込む。
少女の少し焼けた肌が瞬時に治っていく、どうやら気の操作はゲームと同じ感覚で出来るようだ。
「……治った……!」
「よかったな。……(あれ一応商人系の奴だよな)、そういえばこっちの世界はアイテムドロップとかはどうなってるんだろう。」
「……なにを言って……?」
「いや、こっちの話。」
少女が不思議そうに首をかしげる。
「さて……この辺りに、他に人がいる場所は知らないか? 実は突然ここに飛ばされてしまってな。」
「……村が、森の奥にあります。私と同じ獣人の村が……」
「村ね。じゃあ、案内してくれないか?俺も寝床を探していたし、ついでに護衛もするよ。
森で寝ても良いんだがここはモンスターが鬱陶しくてさ、魔法を使うにもあんな風になっちゃうし。」
「え……いいのですか? その……助けてくださったのに……」
「いいって。こっちは特にやる事もないし。」
少女は小さく目を見開いた。
そして、少しだけ、笑った。
それは、救われたというより――
「まだ信じられないけど、少し安心した」という笑みだった。
少女は歩き出す。
カイも歩き出し少女について行く。
焦げた森の中を抜ける風が、少しだけ優しく感じた。
(……この世界、やっぱり“ゲーム”じゃないな。
でも、じゃあ俺は今、どこにいるんだ?)
そんな小さな確信が、彼の胸の奥で、静かに形を取り始めていた。
――――――――――――――――――――
不運な奴隷商…彼は展開の犠牲になりました
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