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「――なんか、久しぶりだね。元気だった?」




ずっと連絡も返してくれなかったのは、七瀬くんなのに。



他人事みたいな一言目に、返す言葉がうまく出なかった。



……正直に言ったら、また会えなくなりそうだったから。




「うん。元気だったよ」




テンプレみたいな言葉を返して、無理に笑った。


上手く笑えていることを願いながら。




好き。



やっぱり好き。




ここにくるまで、七瀬くんに会うまでは、…怒っていたと思う。



言いたいことだってたくさんあった。



会えなかった時間が愛を育てるなんて言うけれど、今回の時間は再確認のような、そんな時間だった。





何をされても、どんなことを聞いても。




「つーちゃん、ごめんね」



「……」




抱きしめてくれる、七瀬くんの暖かさに嬉しくなるし。




七瀬くんがくれる言葉はすべて本心に聞こえる。



本心だとしても、あの電話がなかったことにはならないのに。




あの時聞いた声は、七瀬くんのものも、茜さんと呼ばれた人のものも、脳内にこびりついているというのに。




「……」




私は、怒っているんだ。


傷ついて、悲しんでもいる。




なのに、この感情をどう風化していけばいいかをずっと考えてる。




今までだって、ちゃんと受け流してきた。




受け流したら、きっと元通りになる。




「ごめんって何が?」




怒っているように聞こえたかな、


冷たい口調になったかな、




友里が言っていた言葉を思い出す。




「全部」




七瀬くんはずるくて。



きっとどうすれば、私が許すかもわかっていて。




全部、なんていって言葉をごまかすことのずるさも理解してる。




「俺、つーちゃんには嫌われたくない」




七瀬くんの言葉は、本心に聞こえるし。


その場しのぎで言っているようにも聞こえない。




それは好きのフィルターがかかっているからかもしれないけど、全部、信じちゃうの。




「……」




私はちょろくて、友里の言う通り、都合のいい女。




どんな惨めな気持ちも好きには勝てない。





ギュッと抱きしめてくる七瀬くんがただただ愛おしい。




都合のいい女になりたいわけじゃないのに。


ただ、抱きしめられただけで、全部許して、全部なかったことに。





……できるのかな。



私は、本当に何も変わっていないのだろうか。





「ねえ、七瀬くん」




「ん?」




「私のこと、さ」




―――どう思ってる?




出かけた言葉をすぐにしまった。




「…もう一回抱きしめて」



「何それ、かわいい」



なけなしの勇気はすぐに引っ込み、代わりに出た言葉に七瀬くんは優しく笑う。



風が吹いて、目に入った七瀬くんの耳元。




七瀬くんに耳が見えた。




いつもと変わらない、ファーストピアス。





…聞けない。



さっき出しかけた言葉の続きも、私がプレゼントとしてあげたピアスの所在も。




聞いたら、また連絡が取れなくなってしまうかもしれないから。


またしばらく、会えなくなってしまうかもしれないから。





「今日、風冷たいね」



「そうだね」




プレゼントのピアスはあげられるだけでよかったはずの、ただの自己満足だったのに。




今日はやけに風が強くて、髪が揺れるたびに目についてしまう。





その風は、久しぶりに会えて嬉しい気持ちも一緒に揺らされる。





「駅前のさ、西口にある雑貨屋さんがつぶれて、ドーナツのお店できたんだって」



「そうなの?」



「今度食べに行こうね」





と。

この先のわからない、未来の約束をしたけど。




このまま、好きでいることは、正しいことなのかな?


そもそも正しさっているんだっけ?




考えたくない。



考えたら、きっと、私はここにいられない。




七瀬くんの隣にまだいたい。







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