24
「――なんか、久しぶりだね。元気だった?」
ずっと連絡も返してくれなかったのは、七瀬くんなのに。
他人事みたいな一言目に、返す言葉がうまく出なかった。
……正直に言ったら、また会えなくなりそうだったから。
「うん。元気だったよ」
テンプレみたいな言葉を返して、無理に笑った。
上手く笑えていることを願いながら。
好き。
やっぱり好き。
ここにくるまで、七瀬くんに会うまでは、…怒っていたと思う。
言いたいことだってたくさんあった。
会えなかった時間が愛を育てるなんて言うけれど、今回の時間は再確認のような、そんな時間だった。
何をされても、どんなことを聞いても。
「つーちゃん、ごめんね」
「……」
抱きしめてくれる、七瀬くんの暖かさに嬉しくなるし。
七瀬くんがくれる言葉はすべて本心に聞こえる。
本心だとしても、あの電話がなかったことにはならないのに。
あの時聞いた声は、七瀬くんのものも、茜さんと呼ばれた人のものも、脳内にこびりついているというのに。
「……」
私は、怒っているんだ。
傷ついて、悲しんでもいる。
なのに、この感情をどう風化していけばいいかをずっと考えてる。
今までだって、ちゃんと受け流してきた。
受け流したら、きっと元通りになる。
「ごめんって何が?」
怒っているように聞こえたかな、
冷たい口調になったかな、
友里が言っていた言葉を思い出す。
「全部」
七瀬くんはずるくて。
きっとどうすれば、私が許すかもわかっていて。
全部、なんていって言葉をごまかすことのずるさも理解してる。
「俺、つーちゃんには嫌われたくない」
七瀬くんの言葉は、本心に聞こえるし。
その場しのぎで言っているようにも聞こえない。
それは好きのフィルターがかかっているからかもしれないけど、全部、信じちゃうの。
「……」
私はちょろくて、友里の言う通り、都合のいい女。
どんな惨めな気持ちも好きには勝てない。
ギュッと抱きしめてくる七瀬くんがただただ愛おしい。
都合のいい女になりたいわけじゃないのに。
ただ、抱きしめられただけで、全部許して、全部なかったことに。
……できるのかな。
私は、本当に何も変わっていないのだろうか。
「ねえ、七瀬くん」
「ん?」
「私のこと、さ」
―――どう思ってる?
出かけた言葉をすぐにしまった。
「…もう一回抱きしめて」
「何それ、かわいい」
なけなしの勇気はすぐに引っ込み、代わりに出た言葉に七瀬くんは優しく笑う。
風が吹いて、目に入った七瀬くんの耳元。
七瀬くんに耳が見えた。
いつもと変わらない、ファーストピアス。
…聞けない。
さっき出しかけた言葉の続きも、私がプレゼントとしてあげたピアスの所在も。
聞いたら、また連絡が取れなくなってしまうかもしれないから。
またしばらく、会えなくなってしまうかもしれないから。
「今日、風冷たいね」
「そうだね」
プレゼントのピアスはあげられるだけでよかったはずの、ただの自己満足だったのに。
今日はやけに風が強くて、髪が揺れるたびに目についてしまう。
その風は、久しぶりに会えて嬉しい気持ちも一緒に揺らされる。
「駅前のさ、西口にある雑貨屋さんがつぶれて、ドーナツのお店できたんだって」
「そうなの?」
「今度食べに行こうね」
と。
この先のわからない、未来の約束をしたけど。
このまま、好きでいることは、正しいことなのかな?
そもそも正しさっているんだっけ?
考えたくない。
考えたら、きっと、私はここにいられない。
七瀬くんの隣にまだいたい。
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