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「――昨日、無事に帰れた?」




おはようも二の次に、友里に話しかけられる。



「もう体調は大丈夫なの?」



「うん、大丈夫。ありがとう」




本当は大してよくなってもいなかった。


むしろ、昨日の七瀬くんへの電話で気分が沈んで、悪化している気がする。




休んでしまおうかとも思ったけど、家にずっといると、考えたくないことばかり考えてしまいそうで。




「…どうして紫夕くんを呼んだの?」



「会えたんだ。よかった」



「うん。校門でてすぐの道で会えた」



「森山を呼んだのは……なんとなく?」



「なんとなく?」



「呼んだら面白いかなって」





結果的には、紫夕くんが来てくれて、とても助かったわけだけど…。


理由が面白そうだなんて、なんとも微妙な気分。




「それに、森山呼んだら須崎も来ると思ったし」



「……昨日は、七瀬くん学校来てないんだって」



「そうだったんだ」




蒸し返される昨日の記憶。


七瀬くんの電話に出た”茜さん”と呼ばれていた女の人。



生々しい二人の息遣いは、本当に七瀬くんだったのかと、現実逃避したくなるほどに鮮明に思い出すことができる。




「でも意外だったかも」



「何が?」



「紫夕くんが来てくれたこと」




そんな義理も、そんな優しさも、私に向けてくれることが不思議。



いまいち考えてることがわからない紫夕くん。


気まぐれ、という概念が彼の中にも存在するのかな。






意外さの中にはいつも、相手に対する勝手な偏見も混じっている。


それに申し訳なくなる。



今回みたいに優しさを見た瞬間なんかは、特に。









「友里、紫夕くんの連絡先知ってたの?」



「知らないけど」



「じゃあ、昨日はどうやって連絡したの?」



「圭太につないでもらったの」



「圭太くんに?」



「最初は圭太に頼もうかとも思ったんだけど、森山の方がいいかなって」



「どうして?」



「須崎にとって、一番ムカつく相手は森山かなって」




あの二人の仲が凄くいいよね、とはならないと思う。


普段の二人の距離は、近くもなく、遠くもない。



だけど、なんか、二人は特別で。


何も言わずとも、お互いのことをわかりあっているような、そんな雰囲気。




「紬葵を盗られてムカつく相手」



「……」




七瀬くんはきっと自分のものに、触られるのが嫌なタイプだと思う。



七瀬くんが時折見せる、私への独占欲みたいなものは、まやかしで。


好きだから、に直結するものじゃない。




初めから、ずっと。




「私なんか盗らないよ」




盗られた、の意味は結局、七瀬くんに捨てられたと同じ。



いい意味であることはない。




彼女なんか、いない。


そう言い放った七瀬くんは、どうして私に付き合おうなんて言ったのだろうか。






…私はもう遠回しに、七瀬くんに捨てられたのだろうか。










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