22
「――昨日、無事に帰れた?」
おはようも二の次に、友里に話しかけられる。
「もう体調は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
本当は大してよくなってもいなかった。
むしろ、昨日の七瀬くんへの電話で気分が沈んで、悪化している気がする。
休んでしまおうかとも思ったけど、家にずっといると、考えたくないことばかり考えてしまいそうで。
「…どうして紫夕くんを呼んだの?」
「会えたんだ。よかった」
「うん。校門でてすぐの道で会えた」
「森山を呼んだのは……なんとなく?」
「なんとなく?」
「呼んだら面白いかなって」
結果的には、紫夕くんが来てくれて、とても助かったわけだけど…。
理由が面白そうだなんて、なんとも微妙な気分。
「それに、森山呼んだら須崎も来ると思ったし」
「……昨日は、七瀬くん学校来てないんだって」
「そうだったんだ」
蒸し返される昨日の記憶。
七瀬くんの電話に出た”茜さん”と呼ばれていた女の人。
生々しい二人の息遣いは、本当に七瀬くんだったのかと、現実逃避したくなるほどに鮮明に思い出すことができる。
「でも意外だったかも」
「何が?」
「紫夕くんが来てくれたこと」
そんな義理も、そんな優しさも、私に向けてくれることが不思議。
いまいち考えてることがわからない紫夕くん。
気まぐれ、という概念が彼の中にも存在するのかな。
意外さの中にはいつも、相手に対する勝手な偏見も混じっている。
それに申し訳なくなる。
今回みたいに優しさを見た瞬間なんかは、特に。
「友里、紫夕くんの連絡先知ってたの?」
「知らないけど」
「じゃあ、昨日はどうやって連絡したの?」
「圭太につないでもらったの」
「圭太くんに?」
「最初は圭太に頼もうかとも思ったんだけど、森山の方がいいかなって」
「どうして?」
「須崎にとって、一番ムカつく相手は森山かなって」
あの二人の仲が凄くいいよね、とはならないと思う。
普段の二人の距離は、近くもなく、遠くもない。
だけど、なんか、二人は特別で。
何も言わずとも、お互いのことをわかりあっているような、そんな雰囲気。
「紬葵を盗られてムカつく相手」
「……」
七瀬くんはきっと自分のものに、触られるのが嫌なタイプだと思う。
七瀬くんが時折見せる、私への独占欲みたいなものは、まやかしで。
好きだから、に直結するものじゃない。
初めから、ずっと。
「私なんか盗らないよ」
盗られた、の意味は結局、七瀬くんに捨てられたと同じ。
いい意味であることはない。
彼女なんか、いない。
そう言い放った七瀬くんは、どうして私に付き合おうなんて言ったのだろうか。
…私はもう遠回しに、七瀬くんに捨てられたのだろうか。
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