01:35p.m.

20






あれから、プレゼントを渡してから2週間経った。



いくら時間が経っても、後悔がなくなることも、薄れることもなく。




むしろ募っていく一方。



この気持ちの置き場がどこにもなくて困ってる。





振られるかも――、


時間が経つごとに、現実味を帯びてきたその言葉に、一日中悩まされている。




このまま、自然消滅だって有り得ないことじゃない。




「……」




携帯の着信履歴に残る”須崎七瀬”の文字。



3回だけ、かけた。



3回とも、出なかった。




折り返しの電話がかかってくることもなければ、メッセージが送られてくることもなかった。



踏み込んで嫌われた。


そう考えるのが、普通で正解。




このまま、もう会うこともできないまま、私は七瀬くんを忘れることができるのだろうか。




次に会ったときに「誰だっけ?」なんて、知らない人のフリをされたりするのかもしれない。





「……大丈夫?顔色悪いよ?」




騒がしいお昼休み。


教室で友里と向かい合っていた。




コンビニで買ったサンドイッチを片手に考え込んでいた私を心配してくれた友里。



「なんか、食欲ないかも」




袋から出したはいいけど、食べる気分じゃなくなったサンドイッチを袋に戻す。



この2週間ずっと考えていたツケが回ってきたみたいに。



大した結果は出せていないくせに、頭が痛くなってきた。




「早退すれば?どうせなら須崎に迎えに来てもらいなよ」



「…早退しようかな」



「じゃあ、須崎に連絡して、」



「ううん、七瀬くんは呼ばない」




正確には呼べない、かもしれない。


多分、電話しても出ないと思うし。



それに出てくれなかった時、4回目の無視は一段と深く刺さる。



「紬葵はさ、もっと我儘になったら?」



「……私、そこそこ自由にやってると思うんだけど、」



「須崎のために可愛くなったり、物を貢いだり、なんか都合のいい女に見える」




友里の言葉は直球で耳が痛い。


叱られてるみたいに、居心地が悪くなる。



でも、彼氏のために可愛くなったり、誕生日プレゼントをあげるのは普通のことだと思うし。


それでも違うって言いきれないのは結果的に都合のいい女になっているからかもだけど。




「…嫌われたくない」




自分が七瀬くんとどうなりたいとか、これまでの七瀬くんの笑顔とか、全部こんがらがってるけど、それだけは単純明快で。




「困らせたくないし、迷惑かけたくない」



私にとって、都合のいい女は、なるべき姿だった。



大切なものがなくならないように。




「じゃあ、私、帰るね」



言い逃げみたいになったのは、自分でも馬鹿だってわかってたから。



私はわかりきってることを言われるのが嫌な子供だから。







01:35p.m.





校門が閉まっていて、まごつく私に予鈴が鳴る。



予鈴を外で聞くのは変な気分になる。


悪いことをしてさぼっている気分。




――須崎に迎えに来てもらいなよ。




本格的に頭痛が酷くなってきた瞬間、さっきの友里の言葉を思い出す。




……会いたい。


会いたいよ、七瀬くん。



迎えにきてなんて、わがまま言わないから。


声が聴きたい。


いつもみたいに、”つーちゃん”って呼んでほしい。




「……」



携帯の画面には”須崎七瀬”の文字。



呼び出しの音が鳴るたびに、胸の高鳴りがよくわかる。




……出て、お願い、七瀬くん。





「……つながった?」




コール音が止まった時、あまりにもびっくりして、きっと間抜けな顔だったと思う。




「もしもし、七瀬く――」



『……、』




何かが、変。



音が、いつもと、なんか、違う。




『……ゃ、っ、ぁっ』



無機質な携帯から、女の人の甘い声。



…七瀬くんの番号で、あってる、よね?



間違ってない。


ちゃんと、須崎七瀬って書いてある。




『―――ねえ、っ、七瀬』



『ん?……何、茜さん』




少し遠くから聞こえた声は小さいけど七瀬くんのものだってはっきりわかる。


電話越しなのに、生々しい、声だった。




「彼女…とか、できたの…?」



「…………なんで?」



「んー……、なんとなく?」




息をつく独特な間がわざとらしく私に教えてくれる。


知りたくないことまで全部。





「―――いないよ、彼女なんか」





ねえ、七瀬くん。




助けて、頭が痛いの、――。






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