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「―――つーちゃん、お待たせ」





制服姿の七瀬くん。


黒い学ラン姿がよく似合ってる。




「今日はどうする?」



「あ。えっと、私の家来る?」



「行っていいの?」



「うん、今日は誰もいないから」



「何それ?誘ってたりする?」




顔を覗き込み、意地悪そうに笑う七瀬くん。




「そういう意味じゃなくて、」



「行こう、つーちゃんの部屋久しぶりに行きたい」




急いで取り繕った体裁なんて、受け入れてもらえなくて。



まるで小さい子供をあやすように頭を撫でてなだめられる。






………





七瀬くんが私の部屋にいるという、事実が緊張を叩きおこす。




できることなら、ずっと目を瞑っていてほしい。




「なんか嬉しいな、つーちゃんが部屋に入れてくれるなんて」




「来たの、初めてじゃないでしょ?」




「前回は俺が無理やり押し切ったからさ」




「そんなことないと思うけど…」




七瀬くんがあんまりキョロキョロするもんだから、余計に恥ずかしくなる。



自分から誘っておいて、馬鹿みたいだけど。




「あんまり見ないで」




「何で?」




「七瀬くんに見られるの、なんかやだ」




そう言えば、七瀬くんはゆっくり私に近づく。



筋の通った綺麗な鼻が私の鼻とぶつかると、鼻先だけひんやりとする。




七瀬くんは体温が低い。


指先も、手のひらも、鼻先でさえ。



唯一、冷たさを感じない唇はいつも優しい暖かさだった。




「……どうしたの急に」



「”やだ”の言い方が、なんかきた」




七瀬くんとキスするとすごく甘く感じるの。


その甘さは毒みたいに私の神経を蝕んで麻痺させる。




無性に、泣きたくなる。






”彼女のこと好きじゃないもん”




今日はそんなことを聞いたから、余計に。



「泣いてるの?」



「……」



「何かあった?」




七瀬くんはタチが悪い。


こんなのにいちいち気が付かないでよ。



好きでもない相手のことなんか考えないで、私のことをただただ好きに振り回せばいい。





「何にもないよ。もう一回、しよ」





自分から進んでキスをしたのはこれが初めてだったかもしれない。



少し驚いた様子の七瀬くんに気が付かないフリをして、強引に合わせた唇。




欲張りな私はキスしてる時だけは、七瀬くんと触れている時間だけは勘違いできる。




………自分が七瀬くんに好かれてるって馬鹿になれる。





きっと紫夕くんあたり、「馬鹿じゃねーの」って言ってくれると思う。




鼻で笑って、呆れて、私を否定してほしい。




「ねえ、つーちゃん」



「何?」



「今、何考えてる?」




いつもに増して、色気がある。


その色気に、多少なりとも酔っているのかもしれない。




「……話して」



「っ、ん」




話して、なんて言うくせに口を塞ぐのをやめない。


それどころか、中へと侵入してくる。




息を吸うのに必死で、持ち合わせが少ない余裕もすぐに底をつく。




毎回ね、初めてしたみたいに緊張するの。


慣れないキスは成長しない理由の一つ。




息も上手く吸えなくて苦しいのに、全然嫌じゃない。


このまま、息もできないまま、七瀬くんに溺れていたい。



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