17
「―――つーちゃん、お待たせ」
制服姿の七瀬くん。
黒い学ラン姿がよく似合ってる。
「今日はどうする?」
「あ。えっと、私の家来る?」
「行っていいの?」
「うん、今日は誰もいないから」
「何それ?誘ってたりする?」
顔を覗き込み、意地悪そうに笑う七瀬くん。
「そういう意味じゃなくて、」
「行こう、つーちゃんの部屋久しぶりに行きたい」
急いで取り繕った体裁なんて、受け入れてもらえなくて。
まるで小さい子供をあやすように頭を撫でてなだめられる。
………
七瀬くんが私の部屋にいるという、事実が緊張を叩きおこす。
できることなら、ずっと目を瞑っていてほしい。
「なんか嬉しいな、つーちゃんが部屋に入れてくれるなんて」
「来たの、初めてじゃないでしょ?」
「前回は俺が無理やり押し切ったからさ」
「そんなことないと思うけど…」
七瀬くんがあんまりキョロキョロするもんだから、余計に恥ずかしくなる。
自分から誘っておいて、馬鹿みたいだけど。
「あんまり見ないで」
「何で?」
「七瀬くんに見られるの、なんかやだ」
そう言えば、七瀬くんはゆっくり私に近づく。
筋の通った綺麗な鼻が私の鼻とぶつかると、鼻先だけひんやりとする。
七瀬くんは体温が低い。
指先も、手のひらも、鼻先でさえ。
唯一、冷たさを感じない唇はいつも優しい暖かさだった。
「……どうしたの急に」
「”やだ”の言い方が、なんかきた」
七瀬くんとキスするとすごく甘く感じるの。
その甘さは毒みたいに私の神経を蝕んで麻痺させる。
無性に、泣きたくなる。
”彼女のこと好きじゃないもん”
今日はそんなことを聞いたから、余計に。
「泣いてるの?」
「……」
「何かあった?」
七瀬くんはタチが悪い。
こんなのにいちいち気が付かないでよ。
好きでもない相手のことなんか考えないで、私のことをただただ好きに振り回せばいい。
「何にもないよ。もう一回、しよ」
自分から進んでキスをしたのはこれが初めてだったかもしれない。
少し驚いた様子の七瀬くんに気が付かないフリをして、強引に合わせた唇。
欲張りな私はキスしてる時だけは、七瀬くんと触れている時間だけは勘違いできる。
………自分が七瀬くんに好かれてるって馬鹿になれる。
きっと紫夕くんあたり、「馬鹿じゃねーの」って言ってくれると思う。
鼻で笑って、呆れて、私を否定してほしい。
「ねえ、つーちゃん」
「何?」
「今、何考えてる?」
いつもに増して、色気がある。
その色気に、多少なりとも酔っているのかもしれない。
「……話して」
「っ、ん」
話して、なんて言うくせに口を塞ぐのをやめない。
それどころか、中へと侵入してくる。
息を吸うのに必死で、持ち合わせが少ない余裕もすぐに底をつく。
毎回ね、初めてしたみたいに緊張するの。
慣れないキスは成長しない理由の一つ。
息も上手く吸えなくて苦しいのに、全然嫌じゃない。
このまま、息もできないまま、七瀬くんに溺れていたい。
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