05:00p.m.
16
「――あ、今日は普通の紬葵だ」
制服と一緒にいつもの地味顔に戻った私を、友里がからかってくる。
七瀬くんの誕生日の時の格好はもう忘れたいのに。
「もうやらないよ。似合ってないって七瀬くんにも言われたし」
七瀬くんに可愛いって言ってもらうための作戦は結局失敗に終わった。
化粧から服からに合わないの一点張り。
七瀬くんにそう言われたことが、誰に言われるよりもショックで、誕生日プレゼントまで渡し損ねた。
「プレゼント、本当にピアスでよかったかな」
友里についてきてもらって、選んだシンプルなピアス。
見れば見るほど、これでよかったのかと不安になる。
「なんでピアスにしたの?」
「七瀬くん、いつも同じのつけてるから、あんまりピアス持ってないのかなって」
しかもいつも付けているのは、ファーストピアス。
「喜んでもらえると思うよ。紬葵が選んだものなら」
「そうかな?」
「大体、彼女から貰えるものなら何でも嬉しいでしょ」
違うの。
それは普通の彼氏彼女のことでしょ?
私と七瀬くんは何かが足りない。
間に壁があって、上手く距離を詰められない。
だから、こんなにも自信がない。
「―――え、七瀬くんて彼女いるの?」
七瀬くんと紫夕くんはこの辺じゃ有名人で。
学校が違くても、学年が違くても、知らない人なんか一人もいない。
こうして、話題に出てしまうほど。
教室に着けば否応なく、耳に入ってくるくらい、大きい声につい耳を傾けてしまう。
「あー……、いるけど、あんまり関係ないよ」
「どうして?」
「だって七瀬くん、」
明らかに私の方を見た。
確信的に私に悪意を持っているのが伝わる。
「彼女のこと好きじゃないもん」
馬鹿にした笑いが矢になって刺さってくる。
自分で思うのと、人に言われるのとはこうも違うものかと。
わざわざ言われなくたって、そんなの最初からわかっているのに。
「昨日だってね、七瀬くんに会いに行ったら、私にかわいいって言って抱きしめてくれたんだよ?」
ああ、そうだったんだ。
昨日七瀬くんが抱きしめてた子なんだ。
私が貰えなかったかわいいを貰っていた子。
「まあ、あんな地味な子、七瀬くんが好きになるなんて1ミリも思ってないけど」
かわいい、
好きな人のその一言で女の子は魔法にかけられたお姫様のように。
かぼちゃの馬車に乗ったシンデレラみたいに。
七瀬くんによって、魔法にかけられた女の子は昨日よりも輝いて見える。
「じゃあ何のための彼女なの?」
いつまで経っても魔法をかけてもらえず、かぼちゃの馬車にも乗れなかった惨めな使用人は王子様を見ることすらできない。
舞踏会に来なかった人はサイズの合わないガラスの靴さえ落とせない。
「さあ?ただの虫よけじゃない?七瀬くんに寄って来る女なんて際限なさそうだし」
「うわ、かわいそー」
「自分でもわかってるでしょ。早く消えてくれればいいのに」
聞きたくない。
だけど、これは自分が直視しないといけない現実。
「まさか、本当に愛されてるって勘違いするほど馬鹿じゃないだろうし」
してないよ。
してないけど、したかった。
もっと馬鹿だったら、幸せだっただろうか。
少しでも、七瀬くんへの気持ちが報われるのかな。
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