14




静かな空気感のまま、麻婆豆腐を食べ終えて。



中華料理屋を出た。




「ごちそうさまでした」



「美味しかったね」



「うん」




辛い物を食べた火照った体に、外の風の冷たさが心地よくて癒される。




「じゃあ次行こうか」



「次?」



「うん」



「どこに行くの?」



「内緒」




さっきと同じように腕をとられて、慌てて足を出して歩き始める。



内緒、なんて言葉にすら、心臓が高鳴るから、子供っぽくなってる気がする。




須崎くんといると特に。





「……」




少し歩いた先にある緩やかな坂道。


腕をとられていたはずの手はいつの間にか手のひらに移動して。



ずっと、胸が痛いくらいになっていた。




この時間がずっと続けばいい。


そんなことを考えながら登る坂道はあっという間に、一番高いところへ。





「……すごい綺麗」




思ったよりも高いところへ上ってきたらしく、目に映る景色は輝きを放つ街が一望できる場所だった。




陽は落ちているけれど、まだ完全に夜じゃない。





「でしょ?」



「よく来る場所なの?」



「うん、そうだね。最近は特に」



「最近は特に?」



「ここなら一人になれるから」



「え?」



「なーんてね」




冗談だったと笑う須崎くんは寂しそうで、見ているこっちにもその感情が移ってくるみたいに。




「これ、いつまで繋いでるの?」




「嫌なら振り払ってもいいよ」




振り払えたら、今度こそこの気持ちを終わりにできるだろうか。


終わりにしたら後悔しないだろうか。




きっと、後悔しない方を選ぶことなんかできない。




どっちを取っても、選ばれなかった未来を羨むだけ。






ゆっくりと、手を離す。


近づきすぎたこの距離を正すために。




「俺のこと苦手?」



「……そんなことないよ」



「今、間があった」



「ないよ」




苦手じゃない。


苦しくなるだけ。



手をつないだ理由を考えてしまう。





これがスタンダードな可能性だってある。


距離感が近い、私とは違う考え方の人。



わからない。




「俺のこと苦手じゃないならさ」


 

「……」



「俺と付き合わない?」



「え?」




予想外の言葉に、不覚にも喜んでしまった自分がいた。



それが答えだったんだと思う。




「つーちゃんと一緒にいるの、好きなんだよね」



「……」



「避けないで、そばにいてほしいと思う」






嬉しさと、不思議な感じが混ざって、ふわふわしてる。


何が正解なのかを考えたくなくなった。






「多分、つーちゃんが必要なんだ」






ずっと誰かに言って欲しかった言葉。





すぐそこには間違っているかもしれないけれど、私の望む答えが転がっている。



あとは、拾うだけ。






「わ、私も……須崎くんと一緒にいたい」




その言葉に、須崎くんは緩く笑って。


私は何だか恥ずかしくなって、目を逸らす。





「ねえ抱きしめていい?」




前にも、同じように言われたことがある。


学生証とお金を返しに行ったとき。




あの時は冗談だった言葉だけど、今はたぶん違う。




「……」



ゆっくりと頷けば、遠くない距離が簡単に埋まる。


私は動けないまま。




彼を見上げれば、須崎くんは優しく笑った。



背中に腕が回っても、彼の胸に顔をうずめても、私は動けないままだった。




心臓が壊れてしまうのではないかと、心配になるほどうるさい。




あんなに悩んでいたのに、いざこうなってしまえば。



好きを自覚するしかなかった。


もうとっくに、引き返せないくらい須崎くんに惹かれてた。




笑っていてほしい。



最初はただ、そう思っただけだったのに。



今はもうそれだけでは物足りないのかもしれない。




この暖かさも、抱きしめられている強さも、知っているのは自分だけであってほしい。




自分のものだけであってほしい。









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