12



紫夕くんの好きになるなに、どんな理由がこめられているのか。



ただ単に面倒くさいからなのか、あるいは優しさなのか。



答えがわからないまま。




とりあえずは紫夕くんに宣言した通り、好きにならないように須崎くんを避け続けた。




頻繁にくるご飯のお誘いも断ってるし。


須崎くんと、紫夕くんの遭遇率が高いあの公園の近くには寄らないようにしているし。



……小さいけど、できることはしてる。






「なんか外、人多くない?」



放課後の教室で友里が窓に指を突き立てる。



指先を追えば、友里の言う通り、校門に人だかり。




「確かに。なんかあるのかな?」



「見える?」



「ううん」





人だかりは見えるけど、距離があるのでここからだとなんの人だかりなのかはわからない。




「見えるところに行く?」



「そこまでじゃないかも」




バッサリとしてる友里は、ここから見えないとわかると興味が薄れたように、携帯をいじり始める。



気になってモヤモヤしたけど、見続けたことで分かることでもなかったから、窓から離れて、自分の席へと腰掛ける。




「先生って、何分で戻るって言ってたっけ?」



「10分」



「戻ってくるの遅すぎない?」




放課後、私に渡す書類があり、職員室に忘れたから待っていて、と。


しかも職員会議があるから、それが終わり次第とのこと。



そんな理由で教室で待っているわけだけど、少し待ちくたびれた。





「職員会議長引いてるのかもね」



「また今度にする?ドーナツ食べに行くの」



「もう期間限定の抹茶ティラミス味売り切れてるよね…、ごめんね」



「紬葵が謝ることじゃないでしょ」





教室に入る西日がまぶしく友里と私を照らす。


少し不快でもあるけれど、珍しい明るさが見たことない教室を見ている気分にさせてくれる。



人数が少なくなった廊下と、私と友里しかいない教室。


廊下を歩く一つの足音が教室まで聞こえてくるのも、放課後ならでは。




「先生来たかも」




足音に反応して、ドアの方へ目線を移す。


案の定、私たちの教室の前で足音が止まった。



――やっと帰れる。




開いたドアの先には先生はいなくて。



「よかった、会えた。」



その代わりに、柔らかく安堵の声をもらす須崎さんがいた。


なんで、どうして、と。

声が出ないくらい、驚くしかできなくて。




近づいてくる須崎くんをただ見つめることしかできない。




「つーちゃん?」


「……」




反応のない私を覗き込むみたいに。


距離の近さにも驚いて、椅子をずって離れる。




「ど、どうしてここにいるの?」



「どうしてだろうね」




焦らすみたいに、簡単には答えをくれない須崎くんは、意地悪気に微笑む。


どんどん、自分の体温が上がっていくのがわかる。



西日が差しててよかったかもしれない。




自分の顔が赤くなるのを、ちゃんと誤魔化してくれるのかは定かではないけれど。




「今日は暇?」




面と向かって、聞かれるのは最初の中華に誘われた以来。


募りに募った罪悪感の所為か、心が痛い。




「今日は、…友里とドーナツ食べに行こうって」



ちらっと友里の方を見るけど、友里も不思議そうな表情でこちらを見てる。




「ふーん」



「……」



「それさ、ずらせたりしない?」



「え?」



「今日は俺に譲ってくれない?」




眉毛が下がって、子犬みたいに。


まるで甘えてるみたいに。




「え、っと…」



「いいよ、私は別の日でも。どうせ、行くのやめようとしてたんだし」



「本当に?ありがとう、友里ちゃん」




私が返事をするよりも先に、友里にお礼を言う須崎くん。



「じゃあ、行こうか」




机の上に置いてあった私の鞄と、私の腕を手に取って。


割と強引に、歩き始める。




「あ、でも、先生が」



「先生?」



「渡すものがあるって言われて、待ってたんです」




全然来ないけど。




「先生遅すぎるから、帰ったっていえばいいよ」



鞄を持った友里が私と須崎くんの横を通り過ぎて、すたすた下駄箱に向かって歩いて行く。




「一緒に待っててくれてありがとね」



「じゃあね紬葵、また明日」




友里の優しさにじーんとしながら、すらっとした後ろ姿にかっこよさまで感じる。

良い人と仲良くなれてよかった。



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