10
それから何日か日をまたいで、学校の帰り道でもある例の公園の横を通りがかれば。
「つーちゃん!」
今度は私が見つけるよりも、早く須崎七瀬くんに話しかけられた。
聞きなれない呼び名に、自分のことだと思えなくて、少し反応が遅くなったけど。
振り向いた瞬間、須崎くんは屈託のない笑顔で私を向かい入れる。
「今日これから暇?中華食べに行かない?」
「中華?」
「うん。美味しい店があるんだ」
「へえ」
「それに、まだお礼もできてなかったし」
お礼なんかいらないのに。
と、思ったけど、声には出さなかった。
何となく、そう言ったところで受け入れてくれない気がした。
「ごめん。今、お腹空いてないの」
「そっか。じゃあ、また今度誘うね」
一礼して、背中を向けて歩きだす。
見られているかもしれない、そう思うと背筋がのびた。
意識しすぎている自分に、疲れてしまいそうだ。
転校先は須崎くんとは違う高校だったけど。
須崎くんと紫夕くんは違う学校であっても有名人だった。
クラスメイトの間で、一日一回は話題にあがるような、そんな有名人。
そういえば学生証とおつりを返しに行った時も、紫夕くんが私のことを追っかけだと勘違いしてたっけ。
私が思っているより、すごい人と連絡先を交換してしまったのかもしれないと、携帯の画面を見ながらため息をついた。
「今日購買なんだけど、つきあってくれない?」
学校のお昼休みに、席が近くて仲良くなった友里から告げられる。
「うん。いいよ。私も購買行ってみたかったんだよね」
「別に普通だけどね」
「おすすめとかある?」
「……唐揚げ串とか?でかくて安いし」
「へえ、食べてみようかな」
と。
購買に行く途中で、携帯がふるえた。
須崎くんから、メッセージが来ているよう。
”今日、おっきいお肉食べに行くんだけど来る?”
おっきいお肉
可愛い言い方するんだな、と。
”今日は予定がある”
”ごめんね”
二回目の断りに、少しの罪悪感を持ちながら文字を打つ。
文字だけだと硬くて、なんとも可愛げのない女になる。
だけど、これでいい。
きっといつかは誘われなくなる。
その時がくれば、私の気持ちもすっかり落ち着いているはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます