11:55p.m.
6
電気を消した部屋に一人。
カーテンを器用にすり抜けて隙間からは月明かりが差し込む。
それがちょうど私を照らして。
まぶしすぎるくらいに光って見えた。
あの日の七瀬くんと同じみたいに。
――そういえば、初めて七瀬くんに会った日も月が綺麗だった気がする。
今から半年くらい前の話。
「――引っ越し?」
「そう、引っ越し。」
親から伝えられた引っ越しは、タイミングとしてそんなに都合の悪いものではなかった。
付き合っていた彼氏を友達にとられて、何もかもどうでもよくなった時。
謝ってくるくせに、わざわざ私にのろけ話をする友達にも。
私をだしに彼女の可愛いところを褒める元彼氏にも。
そんなことにイライラしている自分が、馬鹿みたいで情けなくて。
どうしようもなかった時。
「うん、わかった」
少しの前の私だったらもう少しごねていたかもしれない。
私一人でも残るとか、どんなに時間がかかっても通学してたかも。
新しい家で荷物の片づけが終わったのは真夜中。
11:55p.m.
もうすぐ明日になる時間。
疲れたけど、まだ眠くない。
「ちょっとコンビニ行ってくるね」
「やめときなさい。もう夜も遅いんだから」
「すぐそこだし、大丈夫だよ」
100メートルもない道のり。
コンビニに行くくらい問題ない。
不良とか、暴走族とか、そういうのは都市伝説だとしか思っていなかったし。
だって実際、前に住んでいたところにはそんなのいなかったし。
「――黙れ」
低い声と鈍い音がした。
まるでスポットライトみたいにちょうどそこだけ街頭に照らされて。
運悪く、初めて人が人を殴っているところを目撃した。
「ひっ」
足と地面がくっついたみたいに、動けなくなった。
声が聞こえたのか、殴っていた人が私の方へ振り向く。
ちょうど逆光で顔は見えない。
だけど、私の顔は見えているかもしれない。
最悪だ。
足がいつも通り動いたとして、走れるだろうか。
走っても追いつかれるのではないだろうか。
追いつかれなかったとして、家を知られてしまうのはもっと困る。
「――
私の反対の方向から、誰かが歩いてきて、誰かの名前を呼ぶ。
殴っていた人が振り向いたから、きっとその人の名前。
今しかないと思った。
地面から足をはがして、100メートルもない道を精一杯走った。
家につく少し前に後ろに誰もいないことを確認して、安堵のため息をつく。
空を見上げれば、月が綺麗で。
汗まみれの私を笑っているようだった。
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