5
ベッドに座ると、より一層頭がおかしくなりそう。
「ねえ、七瀬くん」
「ん、何?」
「みんながいる部屋に戻らない?」
二人きりが嫌とかじゃないの。
むしろ嬉しい。
七瀬くんを一人占めできるこの状況は、今日の私がずっと望んでいたもの。
だけど…、
「ほら、七瀬くん誕生日だし、…主役がいないと盛り上がらないと思うの」
…七瀬くんの匂いしかしないこの部屋は、危険。
まるで七瀬くんにずっと抱きしめられているみたいな感覚。
私って変態なのか
「だから、」
もう一度、”戻ろう”と口にしようとした刹那。
割と優しめに、でも絶対逃げられない強さでベッドに押し倒される。
「……俺、今日誕生日なんだけど」
「……」
「つーちゃんからまだ”おめでとう”もらってない」
そう寂しそうに言う七瀬くん。
私も本当は一番に言いたかった。
誰よりも早く”おめでとう”って言えたらよかったのに。
「……電話出なかったの、七瀬くんじゃん」
日付が変わった瞬間にかけた電話。
むなしくも携帯からはツーツーという電子音。
誰かと通話中の表示。
女の子から人気のある七瀬くんのことだから、きっとかわいい女の子から電話がかかってきて、”おめでとう”って言われたんだろうなって。
簡単に想像できた。
だけどその想像が当たっていても、はずれていても、そんなこと言えない。
面倒な女だって思われたくない。
さっと、一言、おめでとうって言えばいいのはわかってる。
変な意地を張っているのも。
だけど、おめでとうも言えなかったこともそうだけど、さっき七瀬くんが女の子に言った”かわいい”が忘れられないの。
”かわいい”
他の女の子にはあんなに簡単に言うのに、その言葉が私に向けられたことは一度だってない。
「じゃあ、今日は何のためにきたの?」
七瀬くんの唇が、私の耳に微かに触れるほど近く。
甘い声が直接鼓膜を震わせる。
「紫夕に会いに来たわけ?」
「それは、」
「それとも圭太?」
「……」
「そんなに短い丈のワンピース着て、化粧で色気づいて誰のこと誘惑するつもりだったの?」
「ひゃっ、!」
七瀬くんの冷たい手が太ももに触れ、びっくりして声を上げる。
そんな私を上から見下ろす七瀬くんの表情は冷ややか。
「これ、似合ってない」
そう言ってリップを拭いとるように私の唇に舌を這わせる。
「まず」
苦いものを食べたような表情をした七瀬くんは、そのままねじ込むように中に入って私の舌を捕らえる。
息をするだけで精一杯。
何度してもなれないキスは、するたびに緊張して体全体がこわばってる。
「…本当、下手くそ」
背中に手を回した七瀬くんは、後ろのファスナーに手をかけるとそれを下ろし始める。
着々と脱がされるワンピース。
「…な、七瀬くん」
「何?」
「なんでファスナー下げるの?」
一度も引っかかることなく器用にファスナーを下ろされ、涼しくなった背中。
そこに七瀬くんの冷たい手が触れた。
「っつめた…」
七瀬くんはそんな私の反応を見て、何だか楽しんでるみたいで。
「100年早いよ」
「何が?」
「つーちゃんがこのワンピース着るの」
やっぱり似合ってなかったのか。
可愛いと思ったんだけどな…。
「じゃあ脱ごうか」
「え?」
「あと、ここ壁薄いからね」
中途半端に脱げたワンピースを器用に脱がせて。
それから七瀬くんは意地悪そうに笑う。
「ほら女の人の声って結構響くし」
「っ、待って」
「それとも紫夕たちに聞かせたい?」
全力で首を振って、声が出ないように必死に口をつぐんだ私。
そんな様子を見て楽しそうに笑っている七瀬くん。
――やっぱり七瀬くんは私には優しくない。
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