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「紬葵の彼氏って紬葵には優しくないよね」




ひそかに思っていたことを、友里に言われて、第三者からみてもそうなんだ、とちょっと落ち込む。



基本的に優しい七瀬くん。


だけど私はその基本には入っていないみたい。




「本当に付き合ってるんだよね?」



「…うん、たぶん」




確かに付き合っているはずなんだけど、さっきみたいな光景を見ると不安になる。



私は、七瀬くんの彼女だって勘違いしている痛い女なんじゃないかって。





「七瀬くん、さっきの女の子のこと好きだったりして」



「は?」



「だって抱きつかれたときに離そうともしなかったし、それに”かわいい”って言ってた」




今はもう私と友里は二階のソファがある部屋にいて、一階の様子は見えないけれど。


まだ七瀬くんとさっきの女の子は触れ合っているのかな。




「そんなに嫌なら七瀬に声かければよかったじゃん」



「…それはそうなんだけどさ」




そんなことをして迷惑そうな顔をされたら、きっと一生立ち直れない。


決定打だけは食らいたくない。



七瀬くんに要らないと言われるのが、何よりも怖い。







「――うるせぇ」



奥の部屋から出てきたのは、私の苦手な人。


口が悪くて、身長が高くて、高圧的で。



紫夕しゆうくん。



初めて会った時からずっと私の中のイメージは怖い人。

それに、私は、彼に嫌われてる。



「あ、ご、ごめん!うるさかったかな」



「――チッ、何でお前がここにいんだよ」




真っ黒い髪をかき上げて、面倒くさそうにこっちをみた紫夕くん。


するどい視線が私に刺さる。



「さっさと七瀬のところに行けよ」



「七瀬くんは…」



”下でほかの女の子と一緒にいるから”


というのは事実だけど、何だか口にするのは憚られる。




「…七瀬くんもそのうち、ここにくるでしょ?」




私に七瀬くんを引っ張ってくる勇気はない。


だから1秒でも早くここにきてくれることを願うことしかできなくて。



そんな自分がもどかしい。




「つーか、何その格好」



「私なりに頑張ったんだけど、似合ってないかな…?」



会う人みんなに驚かれる今日の私。



そんなに変かな。


やっぱりメイク濃すぎ?

それとも髪の毛の巻キツい?

ワンピース背伸びしすぎたかな。



もうちょっと似合うようダイエットとかちゃんとしとけばよかった。




「必至だな」



「……」



「必死になっても意味ねえよ。七瀬は――」



紫夕くんはそこまで言って、口をつぐんだ。



「…七瀬くんは?」



「……いや、いい」




気になる続きを答えてくれないまま。


結局それを最後まで聞けることなく。



開かれたドアの先にいた七瀬くんにすべてを持っていかれる。







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