第1話 魔法少女ヒバナ爆誕

明るい陽射しが差す朝の教室。


「おはようカヤク」


女子高校生、小林アカリは、スマホを眺めている友人に声を掛けた。


「…アカリか…おはよう」


その友人、火野カヤクは気だるそうに挨拶を返した。


「何見てるの?」

「…別に…アカリが見るような――ちょっと取らないで!」


本人の回答を待たずに、アカリはスマホをひょいと奪う。


「…モデルガン?…ヒバナこういうの好きだよね」

「…私の勝手でしょ」

「それはそうだけど…もう少し女の子らしい趣味を持った方が良いよ」

「余計なお世話。だいたい――ふみゅ!」


アカリはスマホを返した瞬間、アカリの指先がヒバナの頬をむにゅっと引っ張る。


「ふぁにふるんふぁ(何するんだ)!」

「人の趣味趣向をどうこう言わないけど…こんなにかわいい顔してるんだからもっとおしゃれとか気にした方が良いよ!」

「ふぇふにいいひゃんふぉんなの(別にいいじゃんそんなの)!」

「良くない!」


そんな二人の様子を伺っている人物達が居た。いや、多くのクラスメイトが注目していた。


「…ねえあれって付き合ってるの?」

「いやそうではないらしいが…」

「幼馴染とは聞いてたけど」

「女の子同士だから…むしろ…フフフ、その下品なんですけど…」

「変態百合厨は黙っていろ!」

「…ゴホン」


いつの間にか現れていた担任教師の田所先生が咳払いをしていた。


「そろそろHRを始めるぞ」


生徒たちは一気に静まり、ぞろぞろと席に付き始めた。


田所先生はいつも通り淡々と連絡事項を述べた後、少し声を落とした。


「…知っている者もいると思うが、最近行方不明者が増えているらしい。詳しい話は省略するが事件性があるとか何とか…正直分からない事の方が多いから何とも言えないが、夜遊び等は控えてくれ。仕事が増える」

「…行方不明?」




「ねえヒバナ、怖いよね失踪とか」

「うん…で」


放課後、ヒバナとアカリの二人は仲良く一緒に帰宅していた。


「何で腕を組むの?」

「別にいーじゃーん☆せっかくバイトが無い日なんだから」

「…暑苦しい」

「酷いな~」

「抱きつく力を強めるな!」


鬱陶しそうな顔をしつつも、ヒバナの声色はどこか楽しげだった。


「でも~本当は~」

「どうにも思ってな――」


人が居ない暗い路地に差し掛かった時だった。ヒバナのスマホに着信音が鳴る。


「?」


スマホをポケットから取り出し、画面を点灯させる。


「メール?」

「怪しいメールを開けたらウイルスとかが――」

「それぐらいは分かって…ん?」


ヒバナはメールの題名に何とも言えない感想を抱いた。


「…あなたは選ばれた?…あなたの力を貸してほしい?…変な詐欺メールもあるもの…」

『詐欺じゃない!』

「「!?」」


後ろからかけられた機械を通した女性の声に、二人は振り返る。


「…うさぎの…ぬいぐるみ?」


そこにいたのは、宙に浮いているという一点を除けば、どこからどう見ても普通のうさぎのぬいぐるみであった。


『ただのぬいぐるみじゃない!私の名前はDr.モフルだ!』

「ナニコレェ!?」


ぬいぐるみは、ふわふわと浮きながら二人に近づく。


『本題に入ろう!いいかい火野ヒバナ!君には才能がある!私と契約して魔法少女になってくれ!』

「うわ胡散臭」

『言ったな!私には虚影から世界を守るって使命が――』


その瞬間であった。頭上からヒバナ向かって何かが落ちてきた。


『上から来るぞ!気を付けろ!』

「!?」


上から襲来する何かに、ヒバナはアカリを抱え横に転がる。


刹那、アカリが立っていた場所に大きな穴が空く。


「何奴!?」


影と表現すべきか、黒くて質力を感じない物体。それが獣の形を模っていた。


『あれが虚影だ!人の負の感情が形となって――』

「説明は後でいいから逃げ――!?」


しかし、回り込まれてしまっていた!


「くっ!」

「待てぇい!」

「!?」


電柱の上に、少女が立っていた。


「とうっ!」


少女は跳び、地面に降りる。


少女のピンク色の服装は、フリフリで可愛らしいとても一般的な人間が着る服装ではない。


そう、まるで――

「――魔法…少女…?」


「この私、白鷺ユイが相手だ!」


少女は名乗りを挙げると、虚影に向かって走り出す。


「うりゃー!その幻想をぶち壊す!」


少女…白鷺ユイの拳が獣の横腹に炸裂する。


虚影はまるで幻のように消えていく。


「分かってるんだよ!」


後ろから奇襲してきたもう一匹に、ユイはバリアで弾き返す。


「やぁ!!」


ユイの拳が影を砕き、光が闇を焼き払っていく。


ユイはゆっくり振り返り、変身解除してヒバナ達に笑顔を向ける。


その表情に、アカリの脳内がフル稼働する。


「…あの子、確か五組の学級委員長…」

『あれこそ魔法少女だ!世界を救うために――』

「そんな事言っている場合じゃないみたいですよ」


ヒバナは後ろを向く。


そこには先ほどの獣が五体、現れた。


「…まだ居たの…行くぞ!へぇー…んしん!とうっ!」

『何でいつも掛け声に変なバリエーション持たしてるの?』


ユイの首にかけられたネックレスが光ったかと思うと、再び服が先ほどのフリフリに変化した。


「どういう理屈だこれ!?」

『ふっふっふ…これこそ私が開発した秘密兵器…魔法少女変身アイテムのネックレス(正式名称)だ!』

「何てネーミングセンスの無さ!」


ユイは変身したかと思うと、どこからともなく謎の♡型ステッキを取り出した。


「一気に終わらせるよ!」


♡から、ハートの形のレーザーが放たれる。


ハートレーザーは纏まっていた敵に着弾し、爆散させる。


「いぇい!」

『見たかいヒバナ君。これが魔法少女だ!ぜひ君の力を貸してほしいんだ!』


Dr.モフルは、ヒバナに人形の目を向ける。


「急にそんなこと言われましても」

『説明しよう!あれは虚影!ザックリ言うと人の負の感情が形になった物だ!』

「はあ」

『よくある昔話の幽霊とか妖怪とかはこの虚影だったと考えられているんだ!』

「へえ」

『だが…“あの事件”以降!この虚影を悪用する謎の組織が現れた!』

「ふん」

『その組織は虚影の力を高め、多くの一般人を負の感情の材料として確保しようと動き始めたのだ!』

「そうなんだ」

『そこで立ち上がったのがこの私、Dr.モフルだ!』

「うん」

『それで私は魔法少女を生み出した!虚影に対抗できる唯一の存在だ!…分かった?』

「まあ多少は…それでいくつか質問があるんですけどその前に…」


ヒバナは振り返る。


そこには、虚影達と戦っているユイがいた。


「…こんな状況で話すことですか?」

『だから君の力を貸してほしいんだって!君にしかできない!』

「そんなこと言われましても」

『給料出るよ!』


ヒバナの目の色が変わる。


「…いくら?」

『…今は月10万。仕事に応じて追加報酬あり。危険手当付き。あ、もちろんしっかりとしたバイト名義になるから法律関係は安心してね』


ヒバナは数秒の無言の後、ゆっくり口を開く。


「…わかった。やる」

「えぇ!?」


アカリは声を上げる。


「いや絶対怪しいでしょ!何か裏があるでしょ!」

「でも…」

「でもじゃない!絶対思春期の絶望が宇宙エネルギーとか裏があるタイプだよこれ!」

『ありがとう!じゃあコレを首にかけるんだ!』

「りょーかい!」

「人の話聞いてるの!」


何処からか取り出したネックレスを受け取り、ヒバナは首にかける。


『イメージするんだ!魔法少女になった自分を!』

「ぬぬぬぬぬん…」


ペカー


ネックレスの宝石の部分から、まばゆい光が広がる。


「だから!人の!話を!聞けーっ!」


アカリの叫び声が響く中、光の中から黒い服装のヒバナが現れる。


「これが…魔法少女…!?」


短いスカート、可愛らしい飾り付け、そして黒いストレートの髪

がポニーテールに束ねられる。


『祝え!新たなる魔法少女の誕生の――ひでぶ!』

「「!?」」

『何やってんだおめぇ!』

「「!?」」


Dr.モフルの短い悲鳴の後に、ぬいぐるみから男性の声が響く。


『勝手に勧誘に行きやがったなバカ野郎!引きこもりのテメーの代わりに僕がやってんだから勝手に動くなバカ野郎!』

『バカ野郎って二回言われた!親父にも言われたことないのに~!』

『知るか!それにアオイさんみたいな人が娘にバカ野郎とか言うはずないだろ!』

『でもしっかり私自ら――』

『そもそも!急に魔法少女とか言われて協力してくれるような人間が――』

『居たんだよ!ほら火野ヒバナ!変身してくれた!』


ぬいぐるみの向こうでは、Dr.モフルと何者かが喧嘩をしているようだ。


「あの~…」

『…すまない火野ヒバナさん。急にこんな奴に変なことに巻き込んでしまって…今から僕は現場に向かいます。無茶かもしれませんがユイさんと協力して虚影を打ち倒してください!…お願いします』


ドタバタとした物音の後、男性の声が消える。


「よく分かんないけど…なんか分かった!行くぞぉ!」

「ヒバナぁ!」


ヒバナは振り返り、通信の裏でボコボコにされていたユイに向かって走り出す。


「うりゃあああ!」


ヒバナは拳を握り締め、獣の形の虚影に殴り掛か――

「あ」

「え?」


ユイが振り向きざまに振り回したステッキが、ヒバナの下腹部に直撃する。


事故である。盛大なフレンドリーファイヤーである。


「ひぎゃあああ!」

「うわごめーん!」


ヒバナは吹き飛ばされたが、何とか受け身をとり立ち上がる。


「何すんだテメェ!」

「いや私が悪かった!…けど!不用意に戦いの中に入るんじゃ…ないよ!」


ユイがステッキを振り下ろすと、虚影の顔面を吹き飛ばす。


「結構脳筋だな…じゃなくて…よく知らない相手と連携なんて取れないしどうする?」

『そういう時のための魔法だ!』

「うわビックリしたまだ居たのか」

『さっきからずっといるよ!イメージするんだ!敵を打ち破る自分の姿を!』

「敵を…」


ヒバナは過去の記憶を探り、想像力を回す。




≪~唐突な回想シーン~≫


ヒバナの家は、典型的なネグレスト家庭だった。


いつも家に一人、冷たいご飯とテレビだけでは、自分の乾いた心を潤すことは出来なかった。


だが、出会いって言う物はいつも突然だ。


何気なく付けたテレビ。


本当に偶然だった。


たまたま毎週映画やっている時間だった。


そこでヒバナは目にした、銃って物を。


ゾンビだったか、化け物相手に立ち向かう人間たちと、そして彼らに力を与えていた銃に心を奪われた。


そう、彼女は銃に恋をしたのだ。


それ以降、彼女に銃という趣味が産まれた。


雀の涙の小遣いを溜めてモデルガンを買い、銃が出てくる映画やアニメを見、そしてそれを明日への生きる糧として日々を過ごした。


そんな生活を続けたら出来るものは一つ。



熱狂的なガンマニアだ。



そんな変人の想像するものだ――

「――敵を倒す…つまり…」


光が産まれ、それが形を作り、鈍い黒色をした武器を生み出す。


「…行くぞ」

『あれは…!?』


ヒバナは自分が生み出した“それ”を掴み、虚影に向ける。


「食らえマボロシ野郎!私がぶっ飛ばしてやる!」

『拳銃!?』


高らかに宣言すると、ヒバナはその手に握った拳銃の引き金を引く。


バン!バンバン!


銃声が響く。


「ちょっと!危ない!」


ユイは頭を抱えながら、どうにか物陰に身をひそめる。


銃声しか聞こえない中、ユイは何とかヒョッコリ首を出し――

「――ひぃ!」


ユイの頭上を弾丸が通る。


「何なのあれ!?」

『…あれが、ヒバナの魔法なんだろう…多分…』


いつの間にか、ユイの横にうさぐるみが座っていた。


「あれが魔法!?ちょっと野蛮過ぎじゃ!?」

『野蛮度でいったらあなたも負けてないと思うけど…』


ユイは警戒しつつも、再び頭を出す。


そこには拳銃で狙いを虚影に定め、正確に撃ちぬいているヒバナがいた。


「目標をセンターに入れてスイッチ!目標をセンターに入れてスイッチ!目標を――弾切れ…」


ヒバナは、初めてのはずなのに慣れた手つきでリロードを行う。

恐ろしい子。


『…魔法は基本的に脳内で詳しいシミュレートが出来る範囲でしか物体を創造できない…はずなんだけど…なんで銃とか複雑な物体を想像できるんだ…?』


いつもハイテンションで空気が読めないDr.モフルでさえ、衝撃的な現状に混乱していた。


『…ま、そういうこともあるか。ユイ!サポートに入るんだ!流石にこの数に一人はキツイ!』

「いやこの弾幕じゃ撃たれますよ!」

『さっき味方を殴った奴の言葉!?てかバリアがあるでしょ!』

「…分かりました!」


ユイは諦めたような声を出し、バリアを展開して前に出る。


彼女の魔法は防御重視のようだ。


『ふぅ…』

「このぬいぐるみが~!」

『なに!?』


アカリが高速移動で接近し、ぬいぐるみの首を絞める。


『やめろーっ!精密機器だぞーっ!』

「ヒバナに何かしてみろ…私は貴様をぶっ殺す!」

『ステイステイーッ!今戦闘中!説明は後でするから今は待って!』


アカリはしばらく睨んだ後、腕の力を緩める。


『…ヤンデレ?』

「……」




「ッ!」


ヒバナは振り返り引き金を引く。


「もう十体ぐらいは倒したのに…なんて数だ!」

すぐさまリロードを行い、接近してくる虚影を撃ち抜く。


虚影はかなり学習能力が高いらしく、先ほどまでと打って変わり波状攻撃でヒバナをじりじりと追い詰めていった。


「デビュー戦なんだから少しは楽に勝たせてよ!」


ヒバナは一歩、また一歩と後ろに下がりながら反撃する。


「…このままでは厳し――!」


後ろから奇襲を受ける。


(間に合わな――)

「バリアーッ!」


ヒバナの首元に到達するはずだった攻撃は、光の障壁によって弾かれた。


「ナイスだ桃色!」

「桃色って何よ!?私は白鷺ユイって名前が――」

「オーケーユイ!守りは任せた!」

「ああもう!」


ヒバナは目を閉じ、意識を集中する。


(グロック17が作れたんだ…他の武器を生み出すことだって…)


ヒバナの手に握られた拳銃が、別の武器へと形を変えていく。


『なんだあの武器!?』

「…FN P90だ!食らえぇ!!」


流線型のデザインから、無数の数の弾丸が飛び出していく。


弾の嵐は、虚影達をなぎ倒していく。


「うおおおおおお!」

「銃声うるさい!」


隣に立っているユイは苦言を呈したが、爆音+最高にハイになっているヒバナには届いていなかった。


だがサブマシンガンの火力は恐ろしく、それまで山のように居た虚影が跡形も残さず消えていった。


『…倒した…のか…?…レーダーに反応は…無いな…。よくやった二人とも!君たちのおかげで町は救われた!』


Dr.モフルの声に、二人は変身を解除し、ゆっくり腰を地面に下ろす。


『大活躍だったなヒバナ!初陣とは思えない!ご感想は?』


ヒバナは顔を上げ、笑顔で答える。


「…爽快」

『…自分で言うのもなんだけどヤバい奴だね君…』


後ろから、車のブレーキ音が響く。


「?」


車から、一人の若い男が降りてきた。


『来たな!紹介しよう!彼こそ私の優秀な助手!金田アキ――』


うさぎのぬいぐるみは、男の蹴りにより盛大に吹き飛ぶ。


『何をするんだアキラ!精密機器だ――』

「その程度で壊れるようには作られてねぇよ!」

『うわ~!なんか引っかかって動けない~!』

「知るか!…ふぅ」


男はヒバナとアカリの前に立つ。


「…僕の名前は金田アキラだ…」

「…え、自己紹介の流れ?私は火野ヒバナ…です」

「私は小林アカリです」

「火野さんと小林さんですか…」


金田と名乗った男は膝をついたと思うと、頭を地面スレスレまで下げた。


「本当に申し訳ございませんでしたーっ!」


実に美しい土下座だった。




魔法少女Q&Aコーナー


アカリ「あなた達は誰なんですか?」

金田「端的に纏めれば国の特殊部隊って事ところです」


ヒバナ「なんで女子高生にやらすの?」

金田「若い女性でないと変身できないんです。理屈は…まあそう言う物なので納得してくださいとしか…それでギリギリラインの高校生にしてもらうことになったんです」


アカリ「どうして警察とかじゃなくて一般人にやらすの?」

金田「虚影は認識している人が多ければ多いほど強くなるんです。つまり、限界まで少数精鋭でないといけないんです」

ヒバナ「それで一般人とかは知らないってことなんですか?」

金田「そうです。あんまり良い事ではありませんが情報統制させてもらってます。…自分が言える立場では無いが、国が密かに情報統制して年端も行かない少女を怪物と戦わせるって悪の組織すぎですよ本当に」


アカリ「魔法って何ですか?てかなんで服装あんなにかわいらしいデザインなんですか?」

金田「少女の想像力を力に具現化するものとしか…情けないことに作っておいてまだ分かってないことも多くて…デザインは…まあ趣味ですね。デザインした人の」


ヒバナ「結構派手に暴れてしまいましたけど後始末とかは?」

金田「そこは我々の専門チームのロボットに任せてください。戦闘はまだ苦手ですが証拠隠滅に関しては右に出るものは居ませんので」


ヒバナ「虚影とやらの目的は?」

金田「第一に我々が持っているとあるモノの奪取。そして感情を生成するための人の誘拐。詳細は話せないが、奴らはそのあるモノにご執心だ。だからそれを奪うために我々に攻撃してくるんだ」




「聞きたいことは聞けました」

「…まあ、理由は分かりました」


金田が乗ってきた車の中で、ヒバナは腕を組んだ。


「…それでお金の方は?モデルガン趣味ってお金がかかるんだよ」


ヒバナのお金ジェスチャーに、金田はため息をついた。


「…それは安心してくれ、こっちがちゃんと準備しておく」


金田はため息をつくと、タブレットを取り出す。


「詳しい仕事内容についてだ。しっかり読んでくれ」


ヒバナは受け取ると、画面に書かれた文字を――

「…ちょっと何言ってるのか分かんない…アカリ、読んで要約して」

「え~…仕方ないな」


隣に座るアカリはパスされたタブレット読み始める。


「…つまり、深夜であろうと呼び出しには応じること、緊急時以外の変身は禁止、他人に魔法少女及び虚影に関して話すことは厳禁、怪我や死の危険が高いことは留意すること、あと戦闘時は命令を絶対順守、辞めたいならすぐにでも辞めれます…って所かな」

「…おっけー金田さん!バリバリ働くからガンガン金を払ってくれよな!」

「…それに関しては問題ないが…一つ聞きたいことがある」


金田は言いづらそうに声を出す。


「どうぞ」

「プライベートな話だから無理に答えなくても構わないが…お二人さんって…その…恋人だったりするのか?さっきからずっと腕組んでるし、小林さんは…」

「どうかしましたか?」

「…いや何でもない」

(火野さんを見る目がヤバいなんて言えねーっ!)

「……」


ヒバナは視線を自分の腕に降ろす。


先程からずっとアカリが自分に抱きついていた事を思い出した。


「そうなんですよ~!ヒバナは私の自慢の――アウ!」

ヒバナのチョップがアカリの脳天に直撃する。


「いいえ恋人ではありません。幼馴染です」

「…そ、そうか。それじゃあ変に気を使わない方が良いよな――…!」


アカリに睨まれ、金田は冷や汗をかく。


(…私達は相思相愛…ヒバナはこう言ってるが相思相愛なんだ…)

(こいつ直接脳内に!?)


金田はアカリの視線に耐えられず、ヒバナに顔を向ける。


「…もう夜も遅い。家まで送っていくよ。ユイちゃんも入ってきていいよ」


金田がボタンを押すとドアが開き、外で待っていたユイが車に乗り込む。


「送迎感謝です!」




「そういえば自己紹介がまだだったね。私は白鷺ユイ。よろしく!」


ユイは手を出し、ヒバナと握手をする。


「私は火野ヒバナ。よろしく先輩」

「先輩だなんて~(照)」

「私は小林アカリ。よろしく」

「よろしくヒバナとアカリ!この白鷺ユイ大先輩が魔法少女のイロハを――」

「ユイちゃんは初めてまだ魔法少女二週間ぐらいの新人でしょ」

「ちょっと金田さん!」


車を運転していた金田がツッコむ。


「それに火野さんは一発で変身出来たけどユイちゃんは変身できるようになるまで――」

「そ、その話はやめてよ~」




ユイとアカリを家に送り、残すところはヒバナになった。


無口の車内だったが、金田が口を開く。


「…それで火野さん。ご両親には僕の方から説明しようかと――」

「その必要はありません」


ヒバナは断言する。


「…でも夜中に勝手に出て行ったり、怪我したり、普通に命に関わる仕事をさせる側としては説明責任って物が――」

「…どうせあの二人は私のことを何とも思ってません」


金田はこれ以上の言及は誰も幸せにならないと感じ、この話題から手を引く。


「そうか、すまなかったな。…それで戦闘映像を見せてもらったが、銃を使うなんてトンデモないな。グロック17にFN P90だろあれ。すごく銃に詳しいんだな」

「分かるんですか!?」


先程までの暗い雰囲気はどこへやら、ヒバナは目を輝かしながら口を動かす。


「正直マニアとしてはもう少しマニアックなモノを出したかったですが、やはり知名度が高いという事は配備数が多い。つまり信頼度が素晴らしいと――」

「あ~、そこまでのマニアじゃないからステイしてくれ…ここで合ってるよな」


金田はヒバナの家の前に車を止める。


「はい、ありがとうございます」

「別に感謝するほどの事ではないよ。僕はこの程度しか出来ないんだよ、情けないぐらいだ」

「…私は車が運転できないので凄いと思いますよ」

「ハハハ!変人だけどいい奴だなお前…それで聞きたいことがあるんだが」

「またですか?」

「まあ聞いてくれ」


金田は真面目な顔になり、ヒバナの目を見る。


「お前にとっての銃ってなんだ?」


予想外の質問に、ヒバナは困惑する。


「…う~ん…自分の全て…って感じですかね」


ヒバナの回答に、金田は複雑そうな表情をする。


「そうか…まあアニメやゲームが人生な僕が言える立場ではないが…」


金田は懐から黒い物体を取り出す。


「…これはまさか!?グロック17!?」


それは先ほどヒバナが使用していた拳銃だった。


「何故これを!?本物!?」

「裏方とは言え化け物と戦う仕事をしているんだ。護身用はあることに越したことは無い」

「そうですか…すっげー…」


ヒバナは興味深そうに金田が持っている銃を観察する。


「…それで他人の趣味にケチをつける意味で言ってないが…銃ってさ、重たいんだよ。結構」

「……」


金田の表情は、まるで経験者は語ると書かれているようだった。


「…す、すまんな変な話をしてしまって!今日はもう遅い!」

「それじゃあ送迎ありがとうございました!そしてこれからよろしくお願いします!…あれ、Dr.モフルさんは?」

「…あ。」



『どうして私を忘れてるんだよアキラのバカ~!』

「……」

『おいロボ三号!変なものを見る目で見てないで助けろ!』




「…魔法少女…ねぇ…」


廃ビルの屋上。


魔法少女の活躍を見物している一人の女が居た。


「…せっかくだからとっておきの“アレ”、使ってみましょうかね…?」


女はまるで最初からそこに居なかったかのように、煙となって消えていった。

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