火薬少女ヒバナ
すゆる
第0話 魔法少女
世界は静かに、しかし確実に侵食されつつあった。
人々の心に沈殿する絶望や怒りが、黒いモヤとなって街の隙間に滲み出す。
それはやがて黒い霧となり、形を生み出す
そこから現れたのは、巨大な獣のような影。
この世界に存在してはいけない異形である。
その存在を、街を見下ろしている赤い目があった。
「…出たわね虚影」
ふわふわしたウサギ型ぬいぐるみが、屋根の上に立っていた。
その正体は、天才科学者、Dr.モフル(遠隔操作ロボットの姿)。
『ブツッ…モル…聞こえてる?ヒバナ、ユイ、レイナ。虚影が出たよ』
通信の向こうで、湯船の水音がした。
「博士、また風呂から操作してるんですか!」
『アキラが無理やり入れたんだよ…もう出るの面倒で…ブクブク…』
「のぼせますよ!ていうかなんか沈んでません!?」
そんな緩いやり取りの裏で、世界は確かに滅びへ向かっていた。
だからこそ、彼女たちが必要だった。
想像力を力に変える──魔法少女。
黒い霧が渦巻き、虚影が咆哮する。
「行くよ…変身!」
制服に身を包んだ少女達…
白鷺ユイ
原崎レイナ
そして火野ヒバナ。
三人の少女の、首に下げられたネックレスから光があふれる。
柔らかな光は少女達を包み、フリフリな服装を形成する。
悪に立ち向かう、想像力を力にする正義の少女…人呼んで魔法少女!…である。
「行くよみんな!」
ピンク色の衣装に身を包んだリーダー格の少女、白鷺ユイは敵に向かって走り出す。
残る二人もそれに続く。
「…ユイ!あまり前に出ないで!」
「分かって――きゃっ!」
突進してきた黒い塊に、ユイはバリアを展開し、衝撃を受け止める。
「遠距離攻撃!?」
「私が行く!」
青い衣装の少女、原崎レイナは無の空間から刀を引き抜く。
魔法少女の豊かな想像力による産物、魔法である。
稲妻のような一閃が、奇襲を仕掛けてきた敵の首を一刀両断する。
獣の形を模っていた影は、霧のように霧散する。
だが――
「…ッ囲まれてる!」
虚影達は一匹、一匹と三人を包囲するように現れる。
『何やってるのよあなた達!突っ込んで囲まれるなんて!』
「博士は黙っててください!」
『だけど――』
『――何やってんだナノハ!虚影が出たのに呑気に風呂に浸かりやがって!アカリちゃんは今動きを解析してるんだぞ!』
『だからこうして今通信して――』
『風呂場でやるな!機器が壊れる!早く上がれ!』
『そんなとこ触らないでアキラ!出たくない!私は風呂場で暮らすんだ~!いや!いやーっ!』
『いい加減諦めやがれ!…あっ、皆さん頑張ってください!僕もすぐ向かいます!』
『出たくないー!やーっ!』
叫び声を最後に、通信が途絶する。
「…ゴホン…行くよ!」
ユイはさっきの通信を無かったことして仲間に呼びかける。
「私達で奴らを倒すんだ!」
「――フフフ…」
黒い服装の少女、火野ヒバナが突然笑い出す。
「何よヒバナ!さっきから妙に静かだと思ってたけど!」
「フフフ…つまり――」
ヒバナは自分達を取り囲んでいる敵を脳内で数え。ゆっくりと笑みを浮かべる。
「――全部、私の魔法で倒してもいいんでしょ」
「まさかあなた――!」
「私の魔法を見せてやる!」
ヒバナのネックレスから光が飛び出し、形を形成していく。
黒く鈍い色彩の、プラスチックや鉄で形成された人の持つ武器。
「食らえ!AK-47!」
「そんなの魔法じゃないよ!」
「そんなの関係ない!食らえーっ!」
ヒバナが引き金を引くと、銃口から火花が散る。
ガガガガガガガガガガ
銃声が響き、虚影達は蜂の巣になりながら崩壊する。
「ヒャッハーッ!」
「…うるさい…けど今しかない!」
レイナは片耳を塞ぎながらも、刀を構えて突撃する。
「えっ!ちょ!…もう仕方ない!バリアはしっかり貼るから私を守ってよね!」
半ギレしつつも、ユイはサポートに回る。
だが虚影達の数が多い。いくらなぎ倒しても次から次へと現れていく。
「…これじゃあキリが無いな…ヨシ!」
ヒバナは手に持っていた武器を光に戻し、また別の形を作り出していく。
「吹き飛ばしてやる!RPG-7だ!!」
対戦車用ロケットランチャー。とても人間サイズに向けられるモノではない過剰火力が、纏まった虚影に――
「…え、私ごと!?」
最前線に居たレイナごと、ロケット弾が迫る。
「あ。」
「あ。じゃない!バリアーーッ!」
レイナにバリアが覆われた瞬間、ロケット弾が大爆発を引き起こす。
「爆破オチなんてサイテー!!」
ユイの叫び声は、爆音によってかき消されていった。
「こんなの魔法少女じゃないよーっ!どうしてこんな事になったのーっ!」
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