第六話 これから

「天使日記・・か」

「私が天使だから?」

「それもあるね」


「それも?」



もう一つの理由は何だろう 



「ま、まあ良くない?天使日記って名前」



と俺は誤魔化す



「うん!私もそれが一番しっくりくるかも」




よかった と


俺は思う



「じゃあさ、早速明日俺と出かけない?」



その瞬間あ、と思った


男子と女子が一緒に出かける




それはいわゆる"デート"




「う、うん」


「ど、どこに出かけるの?」




遥春は顔を赤らめる




「あ、ごめんやっぱり遥春の行きたい場所に行こう」


「私の行きたい場所、か」




・・・・




「私、遊園地とか行ってみたいな」

「子供の頃にお母さんに一回だけ連れて行ってもらったことがあるから」

「それに、男子と女子2人でどこに出かければいいのか分からなくて」




遥春には心から楽しんでもらいたい




「うん、なら遊園地に行くか」

「で、どのアトラクションに乗りたいとかある?」

「ジェットコースターとか観覧車、あとコーヒーカップも乗りたいな」


「よし、遥春のしたいことも乗りたいものも全部しよう。」

「うん!」




遥春は笑顔でそう返す




初めて見る君の笑顔は使よりも美しかった




「楽しんでくれるといいな。」


「え、なんて?」

「いや、なんでもない」




・・・・


次の日



ガラガラガラガラ



引き戸を開ける




「おーい遥春ー?」




そこには何やら


たじたじしている遥春がいた




「ど、どうしたの?」




なにかあったのだろうか




「い、いやちょっと」

「?熱とか?」


「いや、そうじゃなくて」

「その、初めてだから、男の子と出かけるの」




そうボソっと言ったが



なんとなく雰囲気で察せた




「そ、そっか俺も女子と出かけるの初めてだから同じだよ」




俺の顔が熱くなっていくのが分かる




「じゃ、じゃあ行こっか遊園地」

「うん」




自分で言うのはあれだがこれは


まるで付き合いたてのカップルみたいだ




・・・・





ギイイイイイイと音を立て、回りながら人を乗せている




観覧車だ。




ガタン、ガタンと人の叫びと混じりながら軌道のように高速で動いている




ジェットコースター。






遊園地は入る前からでもひと目でそう分かる






「す、凄いやっぱり遊園地って凄い」




遥春はよほど興奮しているのか語彙が凄いだけになっている



来てよかった と俺も遥春も思った




・・・・




「さ、入園チケット買うか」


「すいません入園チケット2枚下さい」

「2枚、ですか?」


「あの、お連れの方は後から来られるのでしょうか?」




?いや、いるじゃないか隣に



「いや、隣にいる遥春と合わせて2人分お願いします」



俺の隣には確かに遥春がいる




「ええっとお客様?隣には誰もいませんけど?」




と引き攣った顔で見られる





そうだ


今更だ それは当たり前のことなのに 


今更思った 気が付いた


その事実から逃げていた




「遥春が見えてない・・?」


「お客様?」




後ろに客とストレスが溜まっていく




「すいません、やっぱりチケット買うのやめます」

「はあ」



「遥春、行こう」




俺は遥春の返事を聞く前に手を引いて走った


この事実から逃げるように






「ハア、ハア、はあ」




10分程全力で走った  遥春の気も使わずに


気づいたら公園まで走ってきていた




でも、遥春は一言も話さなかった




「遥春、お前は知ってたのか」

「自分の姿が他人に見えないこと。」




その事実を受け止めたくない 


いや、俺よりもどれを受け止めたくないのは 




遥春の方だ




「うん、なんとなく分かってた」

「分かってたけど・・実際に言われると辛いなあ」




遥春は今にも泣きそうな声で言った




俺はなんて馬鹿で最低なんだと自分に思った

楽しませるどころか 悲しませてる




「遥春、ごめ」




その言葉を止める


違う、今言うべき言葉は




「遥春、俺絶対楽しませるから、お前のこと」

「もし、この世界に俺だけしかお前のことを見える人がいないとしたら」

「俺が他の人がどうでも良くなるぐらい楽しませるから」


「毎日を記念にしよう。」




「うん、うんありがとう」

「その言葉だけでも十分嬉しいよ」




遥春は涙を抑えにっこり笑った




「そうだ、お腹すかない?どっか食べにい行く?」




その言葉と同時にクレープの販売車が移動してきた




「クレープ食べよっか。」

「うん!」




「すいません、オレオチョコのクレープと」


「遥春は何がいい?」

「私は、いちご練乳クレープかな」


「いちご練乳クレープで!」




店員さんは隣に誰もいないのに話しかけている俺を変に思っているだろう



「わ、分かりましたオレオチョコといちご練乳ですね、わかりました」



「どうぞ」




俺はクレープ2つを受け取る




「ベンチに座って食べよっか」

「そうだね」



遥春はクレープを純粋な目の輝きで見つめている




「はい、これ遥春の」

「うん」


「す、すごい美味しそう」


「食べてもいいのかな」




そう俺に聞いてくる

食べるのが惜しいのだろう




「いいよ、なんなら俺のクレープもあげようか?」

「そ、それはなんか申し訳ないから大丈夫」



遥春は大きなく口を開けクレープを頬張る




「お、おいしい!」

「いちご練乳・・美味しすぎる」




クレープのうまさにどうやら感極まっているみたいだ。




「じゃ、俺も食べるか」


「お、オレオチョコもうまいな!」




久しぶりのクレープだからかより一層美味く感じた


いや、違うな




「遥春といるからからか」




遥春に聞こえないよう小さい声で言った




「あ〜美味しかった」

「また食べたいな」




まだ物足りないのだろうか




「俺の一口食べる?」

「え!いいの!」




はむっ とオレオチョコのクレープを一口




「お、オレオチョコも美味しすぎる」


「そういえばこれって」

「? な、なに?」




もぐもぐしながら聞いてくる




「間接キス・・」




そういった瞬間



遥春の頬が赤くなる




「か、間接キス」

「ご、ごめん食べちゃって」




なぜか俺も顔が熱くなってきた




「だ、大丈夫」

「それより遥春いやだろ俺と間接キスとか」


「嫌じゃないよ!むしろ嬉し」




最後の言葉を言い切る前に遥春の顔が更に赤くなった




「そっか 俺との間接キス嫌じゃないのか・・」




なぜか心が嬉さで溢れていた




・・・・・




「遥春、もう一度言うね」

「毎日を思い出にしよう、記念にしよう。」




"これから"は、もう遥春を悲しませたりなんかさせない


これは約束だからとかじゃない




俺の一方的な もう一つの感情だ。

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天使日記 リベ @ri51be0

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