如月神話（澪視点）

不思議な白い舗装路を私はレイナと共に歩く。そして、私たちの足元には、ふわりと淡い青白い光が漂っていた。

　なんだろう、これは。精霊ではなさそーだし。でも、随分とファンタジーな世界だねぇ、ここは。あ、私はおばあちゃんじゃないよ。

「澪、このふわふわとしてそうな青白い光はなに？精霊か何かかな」

「いやぁ、多分違うんじゃないかな。ほら、ここって未来っぽいでしょ？だからさ、新しい電気か何かじゃない？精霊は属性ごとに色が違うはずだし」　

「確かに電気はあり得るな。雷は黄色とされてるけど、実は青白いからね」

「ま、そういう事さ。多分」

そして、私たちは一本道を歩いて、大通りにやってきた。

　光が縦横に走る透明な建物、宙に浮かぶ乗り物、風に舞う小さな粒子たち——この街は、幻想と科学の境界線に立っていた。きっと、この世界がそうなのだろう。

「うわぁ！」

「これは…綺麗だね」

　透明な街の景色に圧倒されながら、私たちは大通りを進んだ。

　建物の壁はどれも鏡のように滑らかで、通り過ぎるたびに自分の姿が映り込む。ふと、その中の一枚に目を奪われた。

「やっぱり、色が変わってるね」

「すごい！　ザ・未来って感じ！壁がね！」　

それは、色が変わった私たちが映る、古いけど綺麗な、厳かな雰囲気を放つ店。でも看板がない。　看板がないからちょっと怪しい雰囲気もするような。

扉さえない不思議な建物を通り過ぎようとしたとき、影ができた。私と澪の上。そこには——光る布を入れたバッグを持った女の子が、降ってきていた。

　意味がわからないという人もいるだろう。私はなんとなくわかるような。でもあの女の子は誰？私たちと同じように降ってきた？　私たちと同じさっき来た子？　とにかく、あの女の子を助けよう。

　私は空から降ってくる女の子をキャッチして、そして転んだ。靴ひもがほどけている。多分、さっき私たちが空中散歩した時だ。

「痛いっ...　あれ、痛くない？」

「澪、大丈夫？それに、空から降ってきた君も」

　あ、そうか。この世界は衝撃を感じないんだっけか。ほっぺをつねっても痛くなかったし。　超未来すごー。　どうやら私と少女は無事みたい。　よかったよかった。

　「あ、あのっ!だ、大丈夫ですか…？」

　「あ、わ、私は大丈夫。」

あれ？　でもなんであの女の子降ってきた？　聞いてみようか。

「でもなんで君降ってきたの？」

「えっと･･･ここのお店の裏口に入ろうとして、失敗した感じでう！あっ、噛んじゃった」

　　なるほどわからん。　あ、靴ひもが解けてる！　なんか知らんけど、反射的に私は靴ひもを直そうとした。私はしゃがんで、ほどけている靴ひもを結ぶ。その瞬間——。

　　空気が震えた。足元の青白い電気の様なものが淡く光を放ち、周囲の壁が波紋のように揺らぐ。建物の壁面が、まるで液体のように歪み、淡い線が走る。低く、澄んだ音。

　その中心に、古びた木の扉が現れた。

　金属の取っ手には、光を透かすような紋章が刻まれている。

「…扉？」

「そんなの、さっきまで無かったよね」

私は息を呑む。そして、先ほど空から落ちてきた少女が、ぽつりと呟いた。

「——ここが、私の働いている…『透燐堂（とうりんどう）』です」

　扉の向こうから漂ってくるのは、金属と木の匂い。鍛冶場のような、でもどこか神聖な気配を帯びている。　って、あの少女はここで働いてるの？！なに、お金持ち？

　私とレイナは顔を見合わせ、静かに頷き合った。未知への好奇心と、少しの不安を胸に——ゆっくりと、その扉を押し開けた。